たかが頭痛ではありません。頭痛の診断と治療のトレーニングを受けた医師は脳神経内科専門医など限られています。しかし約30万人の医師の中で脳神経内科専門医は5000人程度であり全医師数の2%弱に限られています。さらに多くの神経内科専門医は、大学病院などの基幹病院に在籍していることが多いため、当院のように街の開業医は稀になります。
そのため、頭痛で苦しんだうえで医療機関をはしごしてから、当院にたどり着かれる患者さんもいらっしゃいます。しかしながら当院で処方する薬は、保険薬ですから特別なものではありません。しかし専門医としてもちょっとしたコツで、劇的にコントロールすることができます。今回の記事では、脳神経内科専門医として治療の現場のチョットしたコツをご紹介します。
目次
1.頭痛外来で最初に行うこと
頭痛の初診として当院受診されると以下の検査を行います。
1-1.頭部CT
専門医としては、頭蓋内の病変が頭痛の原因であることは稀です。しかし、万が一にでも見逃せば命に関わるので頭部CTを行います。患者さんによっては、命に関わるような脳腫瘍、脳出血、脳梗塞は認めないことを伝えると、安心して頭痛が軽減される方も結構いらっしゃいます。
1-2.頚部レントゲン写真
頭部CTについては納得されるのですが、首のレントゲンを取ることには不思議そうな顔をされます。専門医の立場からすると、頭痛の原因で最も多いのは、頚椎の病変です。特に加齢変化もあり、60歳を超えるとほぼ100%の方に異常所見を認めます。なお頚椎の病変は頭痛以外にもめまい、手のしびれの原因にもなるので重要な検査です。以下の記事も参考になさってください。
1-3.血圧の正常化で頭痛が改善
高血圧が隠れている患者さんもいらっしゃいます。高血圧が直接的に頭痛を引き起こすとは少ないのですが、血圧を下げると頭痛が改善する方がたくさんいらっしゃいます。理由としては高血圧は、血管を拡張させて血液の流れを良くすることで血圧を下げます。そのため筋肉も緩むことで、特に筋肉性の頭痛が改善するようです。
2.市販薬で効果がある患者さんは、市販薬でOK
当院のような専門医を受診される患者さんの多くは市販薬が効きません。逆に市販薬で十分効果があるならば、それで充分です。市販薬はそれほど強い鎮痛剤は含まれていないため、これで効果があるということは、頭痛としてはそれほど重症でないと言えます。ただし以下の場合は、専門医の受診を勧めます。
- 市販薬の設定量の上限以上に服薬している。
- 症状が少し軽減する程度で、完全には改善しない。
3.片頭痛と訴える患者さんの9割は片頭痛ではない
専門外来をやっていて、「片頭痛を治療してほしい」と受診される方がたくさんいらっしゃいます。しかし、そのなかで本当の片頭痛患者さんは1割程度です。残りの9割の方は片頭痛ではないのです。以下の条件が一つでも当てはまれば片頭痛の可能性は低くなります。
- 市販薬が効く
- 男性である
- 40歳を超えて初めて頭痛が出現
- 頭痛があっても、仕事や勉強ができる
- 頭痛が、ドーンとした感じの痛み
つまり典型的な片頭痛は20歳前後の女性が、突然、仕事や勉強もできないほどの痛みで苦しみ、市販薬はほとんど効かないのです。
4.片頭痛の患者さんは飲み薬と、必要なら注射
本当の片頭痛であれば、薬が効果あります。トリプタン系の飲み薬だけでも相当効果があります。特に、片頭痛が起こる前に目の前に光が走る閃輝暗点がある場合は、その時点で予防的な服薬が著効します。最近では片頭痛の発作が、平均して1か月に4日以上起こっている場合は、注射薬の適応となり劇的に効果があります。私の患者さんも、家族から「頭痛で厳しい顔をしていることが殆どなくなった」といわれ喜ばれています。以下の記事も参考になさってください。
5.市販薬が効かない、片頭痛でない患者さんは?
市販薬が効かなくて、片頭痛でもない患者さんはどのようにすれば良いのでしょうか?実際の頭痛外来でもこのケースが最も多くなりますが以下の薬を組み合わせます。
5-1.SG顆粒
夕方になって両肩から後頭部にかけてドーンとした重い痛みの場合は、SG顆粒が効果あります。SG顆粒にはカフェインが含まれているため、眠気を伴う際にも頭がすっきりします。自分も頭が重いがどうしても仕事がある場合には、頓服でSGを服用しています。以下の記事も参考になさってください。
5-2.ロキソニン
同じような頭痛でも、SG顆粒よりもロキソニンを好まれる患者さんもいらっしゃいます。何らかの炎症が原因で頭痛が起きている場合は、SG顆粒よりも効果的です。
5-3.患者さん自身で使い分け
頭痛と言っても、いろいろな性状があるものです。そのため私のクリニックでは、SG顆粒とロキソニンを患者さんに渡して、患者さん自身で実験をしてもらっています。そうすると患者さん自身が、「朝から頭が痛いときはロキソニン、夕方にはSG顆粒」といったように、自分なりのパターンをつかまれます。
片頭痛の患者さんの場合は、片頭痛発作以外の頭痛もおこるため、SG顆粒とロキソニンに加えトリプタン系の薬の3種類を使い分けられます。不思議と何度か経験しているうちに使い分けができてくるようです。そして外来でも、「今回は、SG顆粒を多めに、ロキソニンはなしで、トリプタン系を少々」といったように処方についても的確に医師に伝えてくれるようになるので頼もしい限りです。
6.まとめ
- 頭痛外来には市販薬が効かない患者さんが集まってきます。
- 片頭痛と訴える患者さんの9割は片頭痛ではありませんが、片頭痛患者さんには特効薬が開発されました。
- 頭痛患者さんが3種類の薬の効果を理解すると、上手に使い分けをされます。