新型コロナのためにインフルエンザが2年ほど全く流行りませんでした。その反動で令和5年の秋からインフルエンザの感染が猛威を振るっています。
インフルエンザは、風邪とは異なります。突然の発熱、倦怠感、筋肉痛により仕事も通学も禁止となります。そのため誰もがかかりたくはないものです。
そんなインフルエンザの予防として、手洗い、うがいの徹底やマスクの着用はよく知られていますが、実は歯磨きも効果的なことをご存じですか? 今回の記事では認定内科専門医の長谷川嘉哉が、インフルエンザ予防のための歯磨きの重要性についてご紹介します。
目次
1.口の中の細菌がインフルエンザウイルスを活性化させる!
インフルエンザウイルスは、そのままでは細胞にくっつくことができません。インフルエンザウイルスが細胞内に侵入して増殖するには、プロテアーゼという酵素があらかじめウィルス表面の突起を切っておく必要があります。つまり、プロテアーゼの量が少なければインフルエンザには罹りにくくなるのです。
実は、口の中の約30億〜6000億もの細菌はインフルエンザウイルスを手助けするプロテアーゼという酵素を出す特性があります。つまり、口を不潔にしておくと、細菌が増殖し、プロテアーゼの量も増え、インフルエンザにかかりやすくなってしまうのです。ですから、口のケアをしっかり行い、細菌を減らすと、唾液中のプロテアーゼ量が減り、インフルエンザの発症も抑えられるのです。
2.口腔ケアでインフルエンザ発症率が低下!
歯科衛生士による口腔ケアを受けた人のインフルエンザの発症率が、本人や介護者だけから口腔ケアを受けた人の10分の1になったとの報告があります。
東京歯科大学名誉教授の奥田克爾氏らは、2003年9月から04年3月にかけて東京都府中市の特別養護老人ホームのデイケアに通う65歳以上の高齢者98人に対し、歯科衛生士による口腔ケアと集団口腔衛生指導を1週間に1回実施しました。一方、別のデイケアに通う高齢者92人には、高齢者自身がしている口腔ケアをしてもらいました。
歯科衛生士による口腔ケアを実施したグループでは、ご自身で口腔ケアをしたグループに比べ口腔内の細菌数が減り、プロテアーゼとノイラミニダーゼのはたらきが低下していることがわかりました。さらに、インフルエンザを発症した人は、ご自分で口腔ケアをしていたグループでは9人であったのに対し、歯科衛生士による口腔ケアを実施したグループではわずか1人でした。
3.効果的なハミガキ方法とは
この結果は、プロである歯科衛生士による口腔ケアでプロテアーゼの働きを減らすことの証明です。ですから3か月に1回程度の歯科衛生士によるメンテナンスが理想です。しかし、それができない場合は、セルフケアによる効果的なハミガキで対応したいものです。
3-1.一日一回寝る前に入念に
寝ている間は唾液量が減り、細菌が繁殖しやすい状態になるため、寝る前の歯磨きを丁寧に行うことが効果的です。確かに食事の後は、口腔内細菌の活動性が高まるので歯磨きするのが理想的です。しかし、不充分な歯磨きを一日三回毎食後にするよりは、夜寝る前の一回だけでもしっかり時間をかけて、丁寧な歯磨きをした方が効果的です。
3-2.朝起きたら念入りに
起床時には、睡眠中に繁殖した細菌が口腔内に繁殖しています。その量は、スプーン1杯分の大便があるのと等しい細菌数です。そのため、うがいや歯磨きをしないまま飲み物を飲んだり食事をすると、体内にウイルスや細菌を取り込んでしまいます。だからこそ、起床時は朝食前に歯磨きを行うことが肝心なのです。
3-3.歯間ブラシも
歯ブラシではどんなに丁寧に磨いてもプラークを60%程度しか落とせません。そのため、ぜひ歯間ブラシを使うことを習慣にしてください。特に、35歳を超えると歯周病の危険性が高まりますから、歯間ブラシの使用は必須です。
Amazon広告から一例をご紹介します。
3-4.ワンタフトブラシ
私は、通常の歯ブラシと歯間ブラシとワンタフトブラシの3本を使っています。ワンタフトブラシは、ヘッドが非常にコンパクトで先端が小さいため、奥歯や親知らずの汚れ、歯周ポケットの歯石をピンポイントに落とすことができます。歯科衛生士さんに教えてもらいましたが、お勧めです。
Amazon広告から一例をご紹介します。
3-5.歯ブラシは月1回の交換を
口の中には約300種類の細菌が生息していると言われています。その細菌をこすりとっているのが歯ブラシですから、何千何万ものウイルスや細菌のたまり場になっています。これらの細菌やウイルスから自分の身を守るためには、歯ブラシを定期的に替えることが大事です。1ヶ月に1本を目安に交換することが、清潔な上にプラーク除去の効率がとっても良いのです。
4.定期的なメンテナンスが第一
確かに、自分自身による歯磨きも重要です。しかし、全ての人が歯磨きだけで虫歯や歯周病を予防できるわけではありません。口の中の状態は、その人によって違うので、自分で行うブラッシングだけでは不十分です。歯周病対策にはいろいろな方法があります。しかし、残念ながら歯科受診に勝る対策はありません。
さらに、いかなる対策も評価がなければ意味がありません。歯磨きがうまくできているか? 生活習慣の改善が効果を上げているか? いずれも、歯科受診による評価が重要となるのです。評価の結果、効果があれば継続。効果がなければ修正する必要があるのです。そのためにも自分で漫然と対策を行なうだけではなく、歯科医による正確で客観的なチェックが必要なのです。できれば、髪を切りに行くと同じ頻度、1~3ヶ月に一度は受診したいものです。
5.まとめ
- インフルエンザウイルスは口腔内細菌が分泌するプロテアーゼによって人間に感染します。
- そのため、口腔内細菌を減らすと、インフルエンザの発症も抑えられることができます。
- これからのインフルエンザ予防は、手洗い、うがい、マスクの着用に加えて歯を磨くことが大事なのです。