認知症専門外来をやっていると、「先生、うちのおばあちゃんは、昼間、家でもデイサービスでも一日中ウトウトしています。放っておいてよいのでしょうか?」という質問をよく受けます。その質問に答えるには、いくつか確認すること必要です。そのうえで、放置してよいのか否かを判断する必要があるのです。
今回の記事では、認知症専門医である長谷川嘉哉が、現状で考えられる、「昼間も寝ている患者さん」の対応方法をご紹介します。
目次
1.なぜ昼間も寝ているのか?・・薬が原因の可能性
実は、薬が原因で昼間も眠ってしまっている可能性があります。
1-1.作用時間の長い睡眠薬が昼間も残っている
睡眠薬の中でも血中の半減期が長い睡眠薬を服薬されていることがあります。血中半減期とは、服薬したの血中濃度が半減するまでの時間で、効果が薄れ、身体の中からも薬が排泄される時間です。血中半減期が長いということは、昼間にも睡眠薬が残っているため、ウトウトしてしまうのです。特に、中間作用型や長時間作用型は、21時間以上効いているため、昼間も傾眠になります。以下に代表的な薬を紹介します。
- 中間作用型:ロヒプノール/サイレース(半減期:24時間)、ユーロジン(半減期:24時間)、ベンザリン(半減期:28時間)
- 長時間作用型:ドラール(半減期;36時間)、ソメリン(半減期:85時間)
さすがに長時間作用型を一般内科の先生が使用されることはありませんが、中間作用型は結構使われる先生がいらっしゃいますので、一度確認をしてみてください。
1-2.ブレーキ系の抗認知症薬が出ている
認知症の患者さんの症状が進行すると、幻覚・妄想・介護抵抗といった周辺症状が出現します。その場合は、抗認知症薬の中でも、ブレーキ系のメマリーや漢方の抑肝散を使用します。これらの薬で効果がない場合は、抗精神病薬を少量投与することもあります。
通常、周辺症状は加齢とともに症状が軽くなります。軽くなっても、同じ薬が処方されていると結果として昼間も寝ていることが増えてくるのです。これらの薬が処方されている場合は、徐々に薬を減量・中止しましょう。周辺症状については以下の記事も参考になさってください。
1-3.その他、睡眠を誘発する薬が出ている
その他、以下の場合も、薬が原因で昼間の傾眠が出ていることがありますので、可能なら減量・中止しましょう
- 糖尿病の過剰なコントロール:血糖は高すぎても、低すぎても傾眠症状が出現します。最近の糖尿病のコントロールは、75歳以上の高齢者の場合は、若い方と違いコントロール目標を緩める傾向にあります。
- 胃薬:認知症の患者さんは、胃腸症状を執拗に訴えることがあります。その場合、専門外の先生は、消化器症状を軽減させるために、ナウゼリンやプリンペランという薬を処方します。これらの薬は、短期間であれば副作用は殆どありません。しかし、処方が数か月から数年にわたって継続されることがあります。そうなると、これらの薬は「薬剤性パーキンソン症候群」により傾眠をひきおこします。
- 抗アレルギー剤:高齢者の場合、全身の掻痒感を訴えることがあります。通常は保湿剤で対応しますが、効果がない場合は、抗アレルギー剤を使用します。この抗アレルギー剤で眠気が誘発されることがあるので、必要がなくなったら中止する必要があります。
2.なぜ昼間も寝ているのか?・・ケアプラン編
昼間に傾眠傾向になる原因薬剤がない場合は、ケアプランの問題である可能性もあります。配偶者もいなくて、他の家族も仕事や学校に出かけて、昼間は一人でいることがあります。誰も話す相手がいなくて、TVを見る事しかやることがなければ、寝てしまっても止むを得ません。
この場合の特徴は、昼間眠っているために、夜間は眠れないことです。デイサービス・ショートステイを利用して、日中の活動性を上げる必要があります。
3.昼間も寝ているが、夜も眠れる患者さんは?
薬の影響もなく、刺激を与えても昼間から眠ってしまう。昼間いっぱい眠っているはずなのに、夜も眠れる患者さんがいらっしゃいます。そのような場合はどうしたらいいのでしょうか。
3-1.認知症が進行している
このような患者さんは、認知症がかなり進行している状態です。物忘れが中心の時代を経て、易怒性・妄想といった周辺症状もおさまった時期です。認知症の評価スケールであるMMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)も30点満点で10点を切る段階です。この段階ですと、介護者はかえって対応が楽になっていることが多いようです。
3-2.頭全体の、電球が切れかかっている
この段階の患者さんを理解するには、頭にたくさんの電球がついていることをイメージしてください。認知症が進行した状態とは、その電球の2/3以上が切れている状態なのです。ですから、昼間も傾眠ですが、夜も眠ることができるのです。
3-3.無理して起こしても効果はない
このように、多くの電球が切れた状態の患者さんを無理に起こしても、効果はありません。何しろ切れた電球が、つくわけでは無いのですから・・。
4.昼も夜も眠れる患者さんの今後は?
昼も夜も傾眠傾向の患者さんは、徐々に人生の終末に近づいていると考えてください。
4-1.摂食障害は必ず起こる
いずれ、摂食障害といって食事自体を認識しなくなって「食事をとらない」状態になります。当たり前です。どんな経過をたどろうが人間は最後は、口から食事が摂れなくなって亡くなります。医療が進んだ現在、こんな当たり前のことが結構忘れられています。皆さんが、「人間は最期は食べられなくなる」を理解して、受け入れることが大事なのです。
4-2.入院をするか否かが重要
食事を摂らなくなった場合、ご家族が医療機関に入院を希望するか否かで経過は経過は変わってきます。自宅や施設の場合、医療的処置を行うことなく自然に看取りをする選択があります。しかし、病院への入院は、治療が必須です。病院では、「医療的処置をしない看取り」をする選択はありません。そのため入院をすると多くの場合は、胃ろうもしくは中心静脈栄養が留置されます。
4-3.胃ろうなどの延命はお薦めしない
胃ろうもしくは中心静脈栄養が留置されても、病院に入院し続けることはできません。この状態での在宅介護は相当困難です。しかし、受け入れてくれる施設は限られており、多くは劣悪な環境となります。私は、認知症専門医および在宅医として1000名以上の看取りに立ち会ってきました。その経験からいえることは、認知症の患者さんが最後に食事が摂れなくなった状態での病院への入院は避けるべきです。できれば、自宅か施設での自然な看取りがお薦めです。
5.食事が摂れなくなった時の意志確認を
以上より、昼間も夜も傾眠になったら、介護者の中で、食事が摂れなくなった時の対応を決めておくこ必要があります。食事が摂れなくなった時には、迷っている時間はありません。そのためにも早い段階から、生前の患者さん自身の希望や、子供さんたちの希望をまとめておく必要があるのです。
私は、子供さんたちの意見がまとまらないときは、申し訳ありませんが入院をしてもらいます。我々、医師は、皆さんの意見がまとまらない時に、自宅や施設で自然に看取ることを勧めることは、その後に「本当は延命して欲しかった」と訴えられる危険があるのです。
私の外来患者さんの多くは、「食事が摂れなくなっても胃ろう・中心静脈栄養は希望しません」と意志表示をされています。
6.まとめ
- 認知症の患者さんが昼間も傾眠の場合は、薬やケアプランの調整が必要です。
- 昼間も眠っていて、夜も眠れるようになれば、認知症も末期に近づいています。
- 認知症の末期では、必ず摂食障害おきますが、自宅・施設での自然な看取りがお薦めです。