公的介護保険制度と言いながら、臨床の現場では、介護度の基準はバラバラです。「介護の必要な人に限って、なぜか要支援!」、「それほど介護が必要でない人なのに、要介護?」。毎日、介護度の結果に怒ったり、喜んだりしています。今回、日本経済新聞の記事で、全国的に要介護度の認定がばらついていることが明らかになりました。
今回の記事では、ケアマネ資格をもつ認知症専門医の長谷川嘉哉が、ばらつく介護度の実態と対処方法をご紹介します。
目次
1.報道で明らかになったばらつきの実態とは?
記事をご紹介します。
「全国一律」という介護保険制度の前提が崩れている。サービスを受けたい人の要介護度の認定を巡り、市区町村の99%が全国共通の判定を2次審査で変更。申請件数に占める変更比率は自治体でゼロから41%までばらつきがあることがわかった。同じ身体状態でも利用できるサービスが地域で異なることになる。自治体は独自の判断理由を住民に周知しないと、公平性が保てなくなる。
日本経済新聞は厚生労働省に情報公開請求し、2次審査で判断を変えた比率の自治体別データを入手した。最新の2018年10~11月で100件以上を審査した904市区町村を対象とした。(出典:日本経済新聞「要介護度 ばらつく認定 判定、99%の自治体が変更 独自の裁量 住民に見えず」)
2.市町村による違いがまずは大きい。その理由とは?
市町村によっての違いとは何を意味するのでしょうか? 通常介護度は、訪問調査員により全国統一のコンピューターで介護度が判定されます。そこまでは、全国統一です。しかし、その後、コンピュータで認定された介護度を2次審査で上下に調整するのですが、その基準が全国でバラバラなのです。
2-1.2次審査で介護度を変更していた市町村がかなりある
904市区町村のうち、892市区町村が介護度を変更していました。変更なしは12市町。つまり、殆どの自治体は、2次審査で介護度を変更しているのです。
さらに、変更した市町村の中での、変更率は平均9.7%。変更率が5%未満の自治体数は3割、10%以上は4割ありました。さらに77市区町で20%を超し、ばらつきが大きく見られます。つまり、77市区町では、1次審査の判定を5人に1人以上は変更していたのです。
2-2.2次審査で介護度が上がると家族にはありがたい
2次審査で変更と言っても、相対的に上げている自治体が多く、財政負担が増す方向に働いています。しかし、介護申請をする家族からすれば、介護度をあげてもらえることは、とても助かるのです。
例えば、変更率が35%と3番目に高い東京都国立市は、「末期がん患者は一律に要介護5とする独自運用がある」とのこと。これなどは、末期がん患者さんの状態をよく理解した対応で好感が持てます。末期がんの患者さんは、安定している状態では介護度が低く出がちで、急激に悪化した際には、変更申請が間に合わないことが多いのです。これなどは、多くの市町村も倣っていただきたいものです。
2-3.2次審査で下げるような自治体には住みたくない?
逆に、2次審査で介護度を下げる自治体もあるようです。21%で要介護度を下げた埼玉県和光市の審査会委員は「家族介護が見込めると下げる」と報告しています。実は、国の指針では介護の手間を基準とし、病気の重さや同居人の有無を理由に変更はできないとされています。つまり、「家族介護が見込めることで介護度を下げること」は国の指針に違反しているのです。
介護保険の2次審査の点からだけ言えば、埼玉県和光市には住みたくないものです。
3.2次審査での変更に大きく関わるものとは?
2次審査では、生活上の自律性や認知機能を問う全国共通の調査票に基づきコンピューターで判定された介護度を、個別事情を考慮し、介護認定審査会が「上げたり」、「下げたり」、「そのままにする」判定を行います。2次審査については以下による情報が影響を及ぼします。
介護度がつく仕組みについては、以下も参照なさってください。
以下に、その判定を左右するものを解説します。
3-1.調査票の特記事項
介護認定は調査員が訪問し、心身状況をチェックをした状況調査及び主治医意見書に基づいてコンピュータ判定で一次判定を行います。調査票は、74項目の基本調査と特記事項からなります。基本調査は、質問に対して、3〜4項目からの選択になりますので、どうしても細かい介護状況を伝えきれません。そこを、補うのが自由筆記の特記事項となります。
3-2.主治医の意見書
調査員による調査票は、あくまで介護が主体となります。そのため、認知症の患者さんなどは、比較的軽く評価されてしまうことがあります。この点を医学的に補うのが主治医の意見書です。
4.認定調査での特記事項対策方法
このような介護認定の流れがあります。つまり、訪問調査のコンピューターによる画一的な結果をより実態に近づけるには、できるだけ特記事項をたくさん書いてもらう必要があるのです。そのためには、以下が重要です。
4-1.認定調査にはご家族が必ず立ち会おう
認定調査の際には、必ずご家族が立ち会いましょう。配偶者ではなく子供さん世代の方が有効です。そして「普段の介護内容」「これまでにした病気や怪我」「今、何に困っているか」について伝えるようにしましょう。
4-2.要介護者の前で言いにくいことも、メモで伝える
要介護者のなかにはプライドが高く、困っていることや不自由していることを、他人に知られることに抵抗を感じる方もいらっしゃいます。調査員に家族が困りごとなどを伝えることを拒否したり、調査当日に家族と違うことを話し始めて調査員が混乱することも珍しくありません。要介護者のこうした気持ちに配慮し、メモ等を活用して、調査当日に調査員に手渡しましょう。
5.主治医の意見書をしっかり書いてもらう方法
より実態に近い介護度をつけてもらうには、特記事項だけでなく主治医の意見書をしっかり記載してもらうことも重要です。そのためには主治医の選択がかなり大事です。
認知症と身体介護を正しく見てもらえる医師を探しましょう。整形外科医は、身体介護しか見られませんので、できれば避けるべきです。医師の選択に当たって、もっとも良い情報源はケアマネです。ケアマネは多くの利用者を抱えており、どの主治医がしっかりした意見書を書いているか熟知しています。役所の窓口に相談するより有益な情報を持っているのです。
主治医が決まったら、意見書を依頼する際に、困っていることや現状を紙に書いて渡しましょう。そうすることで、意見書に反映しやすくなります。
6.公的介護の認定度は民間の介護保険にも影響を及ぼす
実は、日経新聞の記事では、日本介護支援専門員協会の浜田和則副会長が、「認定は市区町村の自治事務のため、自治体が独自基準を設けてもおかしくない」と指摘しています。
しかし現在、多くの保険会社により民間の介護保険が販売されています。それらの保険は、公的介護保険で、例えば介護度②以上が認定されると保険金が給付されというものなのです。その際の公的介護保険が自治体の独自基準で判断されているならば、居住地によって不公平が生じてしまうのです。
7.まとめ
- 公的介護保険の基準が、市町村によって異なることが明らかになりました。
- 実体にあった介護認定を受けるには、特記事項と主治医の意見書が重要です。
- 現状では、介護度を高くしてくれる可能性のある市町村に住みたいものです。