高齢者医療と介護保険の自己負担比率についてFP資格の専門医が解説

高齢者医療と介護保険の自己負担比率についてFP資格の専門医が解説

超高齢化社会の進行により、国全体で介護にかかる費用が急増しています。平成30年には、利用者の自己負担も含めた総費用は、初めて11兆円を上回る見通しです。それに伴って2018年の8月から、介護保険の自己負担が所得によって従来の1割から2割もしくは3割の負担になりました。

単純に言えば、負担できる人には相応の負担をしてもらおうという考えですが、それほどの所得でなくても2割の自己負担の方がいらっしゃいます。単身世帯で所得金額が280万円程度での介護保険利用の自己負担2割は大変な出費かと思われます。

また外来では、「医療費の自己負担は1割と普通なのに、介護保険の自己負担が2割で比較的裕福なほうとして扱われる」不思議な患者さんも出現しています。実は、介護保険や医療保険の自己負担の計算はとても分かりにくいものです。今回の記事では、ファイナンシャルプランナー資格をもつ認知症専門医の長谷川嘉哉が、介護・医療保険の自己負担についてご紹介します。

1.介護保険の自己負担比率とは

介護サービスは、介護保険で利用できる1ヶ月の上限額(支給限度額)が要介護度によって決まっています。これを、介護サービス利用限度額制度といいます。この限度額内であれば、介護保険サービスを一定の自己負担割合で利用できます。

介護保険サービスの自己負担割合は、所得金額によって異なります。介護保険制度が始まってから、自己負担割合は原則1割とされていましたが、2015年8月の介護保険改正にて、一定以上の所得がある方の自己負担割合が2割に引き上げられました。さらに2018年8月の介護保険改正では、2割負担の人の一部の方は3割負担に引き上げられました。

2.算定方法

以下の、基準で自己負担比率を計算します。

2-1.3割負担

基準は、合計所得金額が220万円以上で、単身世帯の場合、「年金収入+その他合計所得金額が340万円以上」夫婦世帯の場合「年金収入+その他合計所得金額が463万円以上」が適応です。かなりのハードルですので、厚労省の試算は介護保険の受給者496万人に対して約12万人、割合にして約3%程度です。

2-2.2割負担

基準は、合計所得金額160万円以上で、単身世帯の場合、「年金収入+その他合計所得金額が280万円以上」夫婦世帯の場合「年金収入+その他合計所得金額が346万円以上」が適応です。高所得の方には、相応の負担をしてもらおうという考えですが、それにしては、夫婦世帯で合計所得346万以上で2割負担は、重いような気がします。

2-3.1割負担

上記以外の方は1割負担となります。

Struggling With Bills
平均的な収入水準でも2割負担に変更になった方が大勢います

3.医療保険の自己負担比率

医療費の自己負担は、年齢と所得により変わります。介護保険の基準は所得で判断しますが、医療保険は住民税の課税所得で判断します。

  • 所得=収入ー(公的年金控除や給与所得控除=収入に応じて変動するもの)
  • 課税所得=所得ー基礎控除等(=収入に応じて変動しないもの)

3-1.年齢別自己負担比率

小学校入学後〜70歳未満 3割
70歳以上75歳未満 2割(現役並み所得者は3割)
75歳以上(後期高齢者医療制度) 1割(現役並み所得者は3割)

3-2.現役並み所得とは?

現役並みの所得者とは、住民税の課税所得が145万円以上の被保険者とその方と同一の世帯にいる被保険者の方です。

※課税所得=年金収入-年金控除(120万円)-所得控除(社会保険控除など)

ただし、次に該当する場合は、市役所窓口に申請することにより、1割負担となります。

同一世帯に被保険者が1名のみの場合
・被保険者本人の収入額(※)が383万円未満のとき
・同一世帯にいる70~74歳の方と被保険者本人の収入の合計額が520万円未満のとき
同一世帯に被保険者が2名以上いる場合
・被保険者の収入の合計額が520万円未満のとき

※収入=必要経費や基礎控除を差し引く前の額です。

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不動産収入や株式の配当などのある方が、現役並み所得になることが多いです

4.介護保険と医療保険で微妙なギャップが出る方も

介護保険の自己負担の基準と、医療保険の自己負担の基準は同一ではありません。どちらかというと、医療保険のほうが、現役並み所得の基準が高額なため、3割負担になる方は少ないようです。一方、介護保険の2割負担の基準はかなり低い所得です。


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そのため、それほど裕福でなくでも介護保険は2割負担と重くなるのですが、医療費は、現役並所得以下で70〜74歳なら2割、75歳以上なら1割という普通の負担になるギャップが出てくるのです。

5.支払額が2〜3倍になるわけではない

介護保険の自己負担割合が、1割から、2割もしくは3割になると支払額が2~3倍になると心配されている方がいますが、それは間違いです。

介護事業所への支払いは、「介護保険の自己負担」「介護保険給付対象とならないサービス料の実費」に分けられます。実費には、例えば食事代、部屋代、レクリエーション代などが含まれます。

つまり、自己負担割合が増えたとしても、実費は変わりません。概算ですが、自己負担割合が1割から2割に増えた場合でも、実際の支払額は1.5倍弱程度に収まることが多いようです。

6.滞納も増えている

実は、介護保険の自己負担割合の増加もあってか、未払いも増えています。

6-1.未払いでもサービス提供はやめられない

介護保険のサービスは、仮に自己負担金が滞納されていても、すぐにサービスの提供を止めることはできません。特に、訪問看護など医療度が高いものは、サービスの提供を止めると生命的な危険さえ出てきます。そのため当グループでも、50万円を超える滞納があっても、サービスを提供し続けたことがありました。

6-2.過剰な催促もしにくい

介護事業所の性格上、あまり強く催促もしにくいものです。しかし、あまりに高額になると経営的な問題も出てきます。そのため、内容証明を送ることもあるのですが、これらに法的拘束力がないことを知っているご家族は慣れたもので、封も切らずに捨てられることもあります。もちろん、法的には強制執行することは可能ですが、現実問題としては難しいものです。

6-3.未払いに対しても税金がかかる

これは、あくまで事業所都合の話ですが、仮に滞納されていても、未収として収入には算定されます。つまり、もらってもない収入に対しての税金を払う必要があるのです。仮に滞納された金額を経費化するためには、相手側に債権放棄を伝える必要があります。正直、これも悔しいのでなかなか踏み切れないのです。

Stethoscope and doctor sitting with laptop stress headache about work in hospital
多額の滞納があっても、業務の性質上なかなか中断することができない場合があります

7.知っておきたい「負担を減らす」知恵

これから、ますます増える介護保険の自己負担割合ですが、できるだけ負担を減らす知恵も知っておきたいものです。

7-1.世帯分離

介護施設入所やショートステイ利用においては、有効な手段です。介護費用の節約の「裏ワザ」ともいえるのが「世帯分離」です。二つ以上の家族が同居している場合、世帯分離をすることで介護費用を節約できます。勉強している家族は、積極的に「世帯分離」を利用しています。

詳しくは、以下の記事も参考にしてみください。

7-2.条件を満たせば介護保険の自己負担も医療費控除に

通常、介護保険の自己負担分は、医療費控除にはなりません。しかし、同時に訪問看護、訪問リハビリ、居宅療養管理指導といった医療度の高いサービスも同時に利用している場合は、デイサービスや訪問介護といった介護サービスの自己負担分も医療費控除することができます。

7-3.介護認定で障害者控除も

確定申告時の障害者控除についてはよく知られています。しかしその対象者が身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳を持っている人達だけだと勘違いされているようです。実は、介護保険の認定で「要支援から要介護2までの方」は障害者控除(27万円)を、それ以上の「要介護3からの方」は特別障害者の控除(40万円)が受けられるのです。

これは、医療費控除以上にお得な情報です。詳しくは、以下の記事も参考にしてみください。

8.まとめ

  • 介護保険の自己負担は、本来、負担できる人には相応の負担をしてもらおうという考えです。
  • しかし、医療保険の自己負担に比べ、それほどの収入でなくでも負担割合は2~3割になります。
  • ただし、自己負担割合が1割から2割になっても、事業所への支払いが2倍になるわけではありません。
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