脳梗塞は突然発症します。元気でいた人に突然、意識障害や片麻痺が出現して、緊急入院となります。ご家族としては、今どんな治療がされているのか? 後遺症は残るのか? 仮に退院できても再発は? と多くの疑問をお持ちだと思います。
私が専門とする脳神経内科は、脳梗塞を専門とします。今回の記事では、臨床経験が豊富で、今日現在も多くの脳梗塞の患者さんを診ている長谷川嘉哉が脳梗塞の治療・予後・予防についてご紹介します。
目次
1.脳梗塞とは?
脳梗塞とは、脳の血管が突然詰まって、血流が途絶え、脳の神経細胞が死んでしまう病気です。脳の細胞は、血流が止まると数時間以内に完全に死んでしまい再生は困難です。一旦脳梗塞を起こすと重大な後遺症が残ったり、生命に関わることもあります。そこで少しでも後遺症を軽くするためには、できる限り早く治療を開始して、脳の血流を改善させることが重要です。
2.脳梗塞の種類
脳梗塞には、3つのタイプがあります。
2-1.ラクナ梗塞
脳の細い血管が詰まって起こる脳梗塞の中でも小梗塞です。ラクナは「小さなくぼみ」という意味です。脳に入った太い血管は、次第に細い血管へと枝分かれしていきます。この細かい血管が狭くなり、詰まるのがラクナ梗塞です。梗塞が小さいため、殆ど症状がなく発生することも多いです。
主に高血圧によって起こります。
2-2.アテローム血栓性脳梗塞
脳の太い血管が詰まって起こる脳梗塞のなかでも中程度の梗塞です。動脈硬化(アテローム硬化)で狭くなった太い血管に血栓ができ、血管が詰まるタイプの脳梗塞となります。長い期間を経て、徐々に動脈硬化が進行し、ある日血管が閉塞して症状が現れます。長い経過の後に発症するので、側副血行路※ができるため、太い血管が詰まる割には、症状は軽いものです。
動脈硬化を発症・進展させる高血圧、高脂血症、糖尿病など生活習慣病が主因です。
※側副血行路:血管に狭窄または閉塞が起こると、虚血部位を改善するために、新たな血管が出現してで来た循環を側副血行と呼びます。
2-3.脳塞栓
脳の太い血管が詰まって起こる脳梗塞です。心臓にできた血栓が血流に乗って脳まで運ばれ、脳の太い血管を詰まらせるものです。原因として最も多いのは、不整脈の一つである心房細動です。長嶋茂雄さんを襲ったのも、このタイプの脳梗塞です。
血管自体には、狭窄がなく、突然血栓で閉塞されるため、側副血行路も形成されていません。そのため、症状も重く、生命的危険も高くなります。
3.脳梗塞の種類別治療
脳梗塞の治療は、種類により異なります。
3-1.ラクナ梗塞
ラクナ梗塞の場合は、そもそも梗塞巣が小さいため症状自体は出ないことが多いです。しかし、ラクナ梗塞も多発すると症状が出現します。その場合は、以下のアテローム血栓性脳梗塞の治療に準じます。
3-2.アテローム血栓性脳梗塞
アテローム血栓性脳梗塞の場合、長い経過で血管自体が細くなった末の閉塞ですから、血管を再開通させる治療は適応ではありません。以下の治療を組み合わせます。
- 抗血栓薬:血栓のさらなる進行を止めるために、血小板凝集抑制作用もつ、オザグレルナトリウム(商品名:カタクロット、キサンボン)、抗凝固作用をもつアルガトロバン(商品名:ノバスタン、スロンノン)が使用されます。但し、これらの薬はいずれも脳塞栓には禁忌です。
- 脳保護薬:脳梗塞が起こり、脳細胞が壊死すると、その周囲からは有害なフリーラジカル(活性酸素)という物質が発生します。 そのフリーラジカルは、まだ壊死していない 回復可能な領域も破壊します。 そこで、フリーラジカルの働きを抑え、脳の障害を防ぐ『脳保護療薬』を使用します。多くは、エダラボン(商品名:ラジカット)が使われています。
- 抗脳浮腫薬:脳梗塞は発症すると、脳梗塞が起きた部分の周りがむくみはじめます。むくみが進むと、正常な脳細胞が圧迫され損傷を受けて、さらに症状を悪化させてしまいます。抗浮腫療法は、むくみの原因である余分な水分を取り除いて、脳のむくみや腫れを改善します。おもに、グリセロールやマンニトールを使用します。
3-3.脳塞栓
発症から4.5時間以内で、かつCTやMRI検査で未だ脳梗塞が進行して回復不可能になっていないと判断でき、かつ治療への禁忌項目に抵触せず、治療の危険性がそれほど高くないと考えられる場合には、t-PA静注療法(血栓溶解療法)を行います。
血栓溶解薬であるt-PAを静脈より約1時間かけて点滴します。t-PAは脳血管に詰まった新しい血栓に特異的に働いて、血栓を溶かし、閉塞血管を再開通させます。
発症から4.5時間というと、そんなに早く受診できる?と疑問を持たれるかもしれませんが、脳塞栓は突然発症します。例えば、マージャンをしていて突然、片側の手足が動かなくなって意識が悪くなります。そうすると迷うことなく救急車を呼びますから、通常は3時間程度で治療することができます。
私自身、勤務医の頃は積極的にこの治療を行っていましたが、効果は絶大です。脳底動脈が閉塞して、意識も完全にない状態で救急車で運ばれた患者さんが、翌日には普通に歩けるようになるまで回復したことがあります。あまりに効果があったために、以下の学会誌に報告し掲載されたほどでした。
*組織プラスミノーゲン・アクチベーターが著効を示した脳底動脈閉塞症 A case of basilar artery occulusion successfully treated with tissue plasminogen activator 臨床神経学 39(7), 726-730, 1999-07-01
4.何科にかかるか?
ご紹介したように、脳梗塞の治療といってもいろいろです。そのためには、的確な診断が必然です。そのためには、脳神経内科もしくは脳神経外科医がいる病院が理想です。中年以上になったら万が一の場合の病院を調べておくのもよいでしょう。
5.リハビリ方法は?
脳梗塞は、薬物治療以上にリハビリが大事です。超急性期の段階から始め、慢性期まで継続する必要があります。この流れについては、以下の記事を参考になさってください。
6.予後は?
脳梗塞の患者さんの予後は概ね以下のようになります。
- 全く後遺症もなく、退院ができる・・20%
- 何らかの後遺症(麻痺等)を残して退院・・60%
- 死亡・・20%
多くの方が後遺症を残して退院されるわけですから、リハビリと再発予防が大事になるのです。
7.再発予防方法は?
脳梗塞は治療も大事ですが、再発を抑えることも大事です。
7-1.血液をさらさらにする薬
血液をサラサラにすることで、血栓を予防します。主に以下の2種類になります。
- 抗血小板薬:血小板の働きを抑える薬・・主に動脈で起こる血栓を予防します。アスピリン、シロスタゾールが使用されます。
- 抗凝固薬:凝固因子の働きを抑える薬・・静脈などで血液が滞るために起こる血栓を予防します。ワルファリン等が使用されます。
7-2.生活習慣病のコントロール
脳梗塞の予防のためには、血液をサラサラにする薬だけでなく、生活習慣病のコントロールが大事です。高血圧の方は、降圧剤で血圧をコントロール。糖尿病や高脂血症は、生活習慣および薬物治療で適切にコントロールすることで再発を予防します。
7-3.生活習慣の改善
- 大量の飲酒は控える:1日の飲酒量は、1合を超える日本酒は1合、ビールなら中びん1本程度にしましょう。
- 禁煙:タバコを吸う人は動脈硬化性変化が強く、吸わない人に比べ、はるかに脳梗塞で死亡する人が多くなります。
- 定期的運動:食事で摂ったエネルギーを消費しきれないので肥満につながります。さらに糖尿病や脂質異常症を引き起こします。
8.まとめ
- 脳梗塞には種類があります。
- 種類によって重症度や治療も異なります。
- 長期的には、再発予防も重要となります。