将来のための「介護脱毛」とは・そのメリットを認知症専門医が解説

将来のための「介護脱毛」とは・そのメリットを認知症専門医が解説

先日、認知症専門外来で患者さんの家族から、「先生、妻の介護脱毛をお願いできる医療機関を紹介してください」とお願いされました。どうやらテレビで「介護脱毛」のことを特集したらしいのです。ご家族はそのテレビを見て私のところに訪ねて来られたようでした。

私は専門医として、認知症についての質問については殆ど回答できる自信があります。しかし、今回のケースは「介護脱毛?」「この年齢で脱毛?」「何のために?」と全く答えることができませんでした。このときは素直に「分からない」とお答えして、次回の予約までの宿題とさせていただきました。

大至急、多くの方からの意見を聞き、脱毛を行う機関に問い合わせをして情報を収集しました。今回の記事では、認知症専門医である長谷川嘉哉が、介護生活では将来に備えた介護脱毛について解説します。

1.介護脱毛とは?

誤解しがちですが、介護脱毛とは、介護が必要になったときに脱毛をする、ということではありません。「介護脱毛」とは、前もって健康な時に、アンダーヘアを脱毛して備えておくことです。なぜなら、いざ介護を受けるとなった時に、アンダーが長いと排泄時に不衛生になり、様々な肌トラブルを招く可能性があるからです。「介護脱毛」という言葉を聞くと「介護施設や介護を受ける際に脱毛すること」と思ってしまいますが、実際には介護を受ける前のエチケットとして脱毛することなのです。

Empty Wheelchair Image with Beautiful Scenery
元気なうちに、将来に備えて行っておく。「終活」の一つと言えるでしょう

2.介護脱毛のメリット

介護脱毛のメリットは以下です。実際、私が理事長をつとめるブレイングループ の介護士に聞いても、アンダーヘアがないことによるメリットは大きいと感じているようでした。

2-1.失禁後の処理がしやすくなる

オムツ着用での生活となった場合、排泄物が陰毛にこびりつき、きれいに拭き取ることは困難です。患者さん自身も、きれいに拭き取れないために、違和感が残ってしまい不快な感覚が残ってしまうのです。「赤ちゃんのおしめを変えるときに毛があったら?」と考えてみてください。

2-2.悪臭の予防

私は認知症専門外来では、患者さんの臭いを感じるためにマスクをしません。なぜなら、患者さんの中には、認知症の進行にともなって突然悪臭を漂わせる方がいるからです。マスクをしていないことでその変化に気づくことができるのです。認知症が進行すると、不衛生な状況が続き、雑菌が繁殖して悪臭の原因となるのです。

2-3.感染やシラミ等の予防

アンダーヘアがあると、何度も強く拭き取ることにより肌が損傷し、皮膚が赤くただれ、痒みや痛みの原因となることもあります。状況によってはシラミの発生など不衛生な肌環境を作る原因ともなります。このような事態は事前にアンダーヘアを脱毛しておくことで対応することができます。


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3.介護脱毛は医療機関で

介護脱毛はどこで行うべきでしょうか?一般的には、エステサロンとクリニックで行われますが、医療機関であるクリニックで行ってください。

3-1.永久脱毛は医療機関のみ

介護脱毛は、前もって脱毛し、その後も脱毛の必要がなるべくないようにするわけですから、「永久脱毛」が必要です。日本では「毛乳頭や皮脂腺開口部などをレーザーで破壊する行為」を医療行為と定めているため、永久脱毛ができるのは、医師が常駐するクリニックのみです。

ちなみに永久脱毛の定義は、「最終脱毛から2年後の毛の再生率が20%以下である」by AEA(米国電気脱毛協会)です。

3-2.脱毛完了までの期間も短い

医療機関では、エステサロンに比べ機械の出力を強く設定できるため、毛根の深部まで熱を伝えて毛乳頭を破壊することができ、脱毛効果は高いといえます。結果、通院回数が少なくなり、脱毛完了までに時間も短縮化されます。

Young Man Receiving Laser Epilation Treatment From Beautician At Beauty Center
医療機関でも基本はエステサロンと同じレーザー脱毛です

4.すでに認知症を発症している場合、介護脱毛は不可能!

介護脱毛は、健康な人が将来に備え、前もって対策をすることです。そのため認知症が発症してしまってからは適応外と思われます。理由は以下です。

  • アンダーヘアに白髪が混じると対応できない医療機関が多い。(機械が黒い毛にのみ反応するため)
  • 脱毛を行うには、患者さん自身の同意が必要
  • 認知症の患者さんは痛みに過敏に反応します。そのため、脱毛の処置に何度も耐えられるか疑問
  • 脱毛の処置の前に、患者さん自身である程度、アンダーヘアの処理が必要

5.マスコミも丁寧な情報提供を

今回の患者さんは、NHKで、終活の一つとしてのアンダーヘアの脱毛が取り上げられたニュースを見たようです。私が調べたところ「介護脱毛は、白髪も混じっていない若い方が対象であること」がしっかり伝わっていなかったようです。

そもそも終活といった言葉に反応するのは、アンダーヘアに白髪が混じった方ではないでしょうか? 少なくとも、認知症を発症した患者さんには、痛みが伴い、何度も通院が必要で、陰部をさらけ出す特殊な環境のため不可能と思われます。その点もしっかり伝えるべきだと思います。

なお、アンダーヘアに白髪が混じった場合の脱毛ですが、いったん針脱毛で白髪を処理。その後、通常のレーザ脱毛を行う方法もあるようです。関心のある方は、それぞれの医療機関に問い合わせてみてください。

6.まとめ

  • 介護脱毛は、前もって健康な時に、アンダーヘアを脱毛して備えておくことです。
  • 認知症になってから、白髪の混じったアンダーヘアの脱毛はかなり困難です。
  • 行う場合は、エステでなく医療機関での脱毛が必須です。
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