認知症のリハビリについて・専門医が解説する改善のための5つの知識

認知症のリハビリについて・専門医が解説する改善のための5つの知識

認知症専門外来では、ご家族の方から「薬以外に何かできることはありませんか?」としばしば質問されます。

薬だけに頼らずに改善のために何かしてあげたい」と考えるご家族の気持ちはとてもよくわかります。少しでも以前のような生活を取り戻したいと願うはずですから。

結論から言うと、認知症に対するリハビリは絶対に行うべきです。事実、私の外来でも改善された例が多々あります。反面、薬と医師に頼りっぱなしでは、維持すらも徐々におぼつかなくなってしまいます。

では実際にはどのような方法が効果が高いのでしょうか。

今回の記事では、ご自宅でできるリハビリの方法やコツを、また施設で行う認知症リハビリのおすすめと内容について認知症専門医の経験を踏まえてご紹介します。

目次

1.認知症におけるリハビリとは

認知症になっても、リハビリに取り組むことで認知機能の低下を抑制することができます。一方で、外来では、認知症の診断のもと薬を飲むだけで、一日中寝ている患者さんがいらっしゃいます。申し訳ないのですが、それでは良くなることはありません。認知症を改善させるには、自宅やデイサービス等での認知症リハビリが必要なのです。

但し、これはすべての認知症リハビリにいえるのですが、いくら効果があっても不快なことは避けることが基本です。例えば、モーツアルトの音楽が良いといっても、演歌が大好きな人が無理をして聞いても、頭に良いわけはありません。同様に、数字が苦手なのに、無理矢理計算をさせられてもやはり頭には逆効果です。

脳の奥深くにある感情を司る扁桃核は、記憶を司る海馬と密接につながっています。そのため、扁桃核が不快と判断すると記憶もうまく働かないのです。皆さんも、楽しかった思い出はいつまでも覚えていると思いませんか。

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扁桃核は海馬に隣接しています

2.認知症リハビリはいつやるべきか

認知症リハビリでは、何をする以前に、何もしない時間を極力作らないことが大事です。一日中テレビを見ている、一日中家の中にいる、一日中何もしない、これでは認知症は間違いなく進行してしまいます。

ですから、いつからでなく、今すぐ認知症リハビリを始めてください。そして、出来れば毎日、脳リハビリに取り組み、何もしない日は週に1~2日にしてください。

週に1~2日の根拠は何でしょうか? 人間は、週に5日程度働くから、週に2日の休日が効果的になるのです。人間の脳には適度なストレスが大事です。休みなく働くことは過剰なストレスになりますが、毎日が休みでもやはり、ストレスが少なすぎて脳の機能が低下してしまうのです。

3.自宅でできる認知症リハビリ

それでは、自宅でできる脳リハビリをご紹介します。

3-1.散歩

認知症リハビリは頭を使うものばかりではありません。散歩も立派なリハビリです。散歩にいけば、五感を通じて多くの情報が脳を刺激します。もちろん身体を使うことも頭には効果的です。私が医師になった28年前には、「一度減ってしまった脳の神経細胞は増えることはない」と教えられました。最近では、運動により記憶を司る脳の海馬の細胞が増えるという報告がされています。

3-2.塗り絵

塗り絵と言っても馬鹿にはできません。最近は塗り絵がたくさん売り出されています。中には、相当に細かいものもあります。そんな塗り絵に夢中になる患者さんもいらっしゃいます。しかし、最初にお願いしましたが、塗り絵自体が苦痛になる方は、避けられた方が賢明です。

3-3.手芸

女性の中には、昔から手芸なので手作業を好まれる方もいらっしゃいます。手芸は、指先も使いますし、脳も使いますので、とても有効なリハビリです。

但し、大好きであった手芸を全くしなくなる方がいらっしゃいます。これは、認知症自体が進行した一症状と考えてください。認知症の初期症状においては、意欲が低下するのです。こういう方は適切な治療によって意欲を回復し、再度手芸を始められる可能性があります。


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3-4.料理

料理は、何を作るか考え、それに合わせて買い物をして、実際に手先を使って調理をします。さらに味付けをする。まさに、脳がフル回転です。最近では、男性の料理教室も盛んです。男女問わず行える、認知症リハビリと考えてください。

4.介護施設で行うリハビリの方法

自宅でリハビリを継続することは大変です。毎回、家族が付き合うわけにはいきません。しかし、放っておくとすぐに何もしなくなるのが、認知症患者さんの特徴でもあります。

そこで、介護保険サービスを使う手があります。ご家庭ではできないものが多く、効果もあります。また介護施設に出かけるためには、朝早く起きて、身づくろいをして、多くの方に挨拶する必要があります。これ自体も良い刺激になります。いくつかオススメの順にご紹介します。

4-1.学習療法

当グループのデイケアでも取り入れています。主に、音読や計算問題を行うことで、前頭葉の機能の維持と改善が図られます。認知症の予防と改善に効果があると、科学的に証明されているものです。問題は一人ひとりに合った、ごく簡単でスラスラ読めたり解けたりするものとなっています。週に1~2日は介護施設で行い、残りは家で宿題をやってきてもらいます。

学習療法を始めると、認知症初期の方では、意欲が沸いたりり物忘れが少なくなります。認知症が進行している方でも、徘徊や被害妄想などの問題行動が少なくなったなどの効果がみられています。

4−2.音楽療法

以前私は、音楽療法の研究成果でNHKの全国ニュースに出たことがあります。音楽療法の前後で血液検査を行うと、リンパ球の一種であるナチュラル・キラー(natural killer・NK)細胞の活性・細胞量が増えたのです。 これについて、日野原重明先生から「とても有望な研究である」とコメントを頂きました。このようにそ、音楽療法の効果については科学的にも立証されています。ただし、難しいことを考えなくても、好きな音楽を聴けば、心地よくなるわけですから脳に対して効果的なことは当たり前です。

現在、介護の現場では、音楽と言えば演歌・童謡・軍歌です。今後は、デイサービスでビートルズやプレスリーの音楽が流れる日も近いと思われます。

Group Of Seniors Singing In Choir Together
楽しい気分になることが大事です

4−3.回想療法

回想療法とは、思い出を語ることで認知症の進行を遅らせ、精神的な安定を図る心理療法です。認知症の患者さんは、少し前にあったことを記憶することは不得意です。しかし、過去の話は驚くほど覚えているものです。そのためには当事者の記憶を引き出す「きっかけ」を用意してあげることで患者さんの話を引き出します。

始めた当初は、「自分は何も話すようなことは覚えていない」と拒否的だった方が、 「ふるさと」「子ども時代」「小・中・高校時代」「趣味」「仕事」「交友関係」「出会い」「結婚」「出産」「子育て」「孫の誕生」「定年」等の言葉をきっかけに多くの話をしてくださいます。

多くの方が、回想療法を楽しみにしてくださり、自主的に話を始めてくれる方さえいらっしゃいます。結果、多くの方で日常生活に活気が出て来ることが報告されています。

4−4.アニマルセラピー

アニマルセラピーとは、動物と触れ合わせることで、認知症患者さんに感情を取り戻してもらうことです。私のグループのグループホームでも定期的に行っていますが、動物がやってくると皆さん心のそこから嬉しそうな表情をされます。家族からは、動物嫌いと言われていた方でも、表情が豊かになり言葉が増えることが多々あることが不思議です。患者さんの中に、最近話題の動物型ロボットをかわいがっている方もいらっしゃいますが、同様の効果があるようです。

4−5.リハビリ特化型デイ

身体を使うことに特化したデイサービスがあります。そこでは、認知症でなく体の動きを改善することを目的としています。身体の動きが良くなると、同時に認知症も改善したという報告が相次いでいます。身体を動かすには頭の働きが必要ですから当たり前と言えば当たり前かも知れません。

5.リハビリで認知症の改善例

ここでは、認知症が改善した例をご紹介します。

5-1.夫婦で犬の散歩で改善したケース

認知症の診断後、犬を飼われた患者さんがいらっしゃいます。毎日、朝と夜、患者さんと奥さんで犬の散歩です。患者さんの、認知機能を示す点数は著名に改善しています。散歩と夫婦の会話とアニマルセラピーを同時に行っているかもしれません。

Senior Couple Taking Dog For Walk In Countryside
一つのリハビリで複数の相乗効果が考えられます

5-2.杖が要らなくなったら認知症も改善するというケース

当グループのリハビリ特化型デイサービスでも、杖が要らなくなるほどの運動機能が改善するケースは珍しくありません。歩行が不安定で認知症の症状もあった患者さんは、杖が要らなくなると同時に認知症の症状も改善されました。

6.まとめ

  • 認知症の治療には、薬だけでなく認知症リハビリが必要です。
  • 認知症リハビリは、家でできることもたくさんあります
  • 家族の負担を考えると介護施設を利用した 認知症リハビリも検討しましょう。
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