先日、無資格の助手に歯石除去をさせたことで、歯科衛生士法違反で歯科医が逮捕された事件がありました。この例に限らず、多くの歯科医では歯科衛生士が雇用できずに困っています。一方で多くの歯科衛生士が集まっている歯科医もあります。実は、私は歯科クリニックの経営コンサルタントとしての顔も持っています。今回の記事では、日頃のコンサルタントの経験から、歯科衛生士が集まる歯科医と集まらない歯科医の違いをご紹介します。
目次
1.理論上、そもそも歯科衛生士は集まらない
理論的にも、歯科衛生士は集まらないのが普通なのです。平成30年末の就業歯科衛生士数は132,635人で前回(平成28年末)に比べ、8,804人(7.1%)増加しています。就業場所別にみると、「診療所」が120,068人(構成割合90.5%)と最も多く、「診療所以外」は12,567人(9.5%)で、そのうち「病院」が6,629人(5.0%)、次いで「市町村」が2,154人(1.6%)です。
一方で歯科開業医数は、平成30年1月で全国で68,791件です。つまり、単純に1件当たりの歯科衛生士数を計算すると、診療所1件当たりの歯科衛生士の数は1.7人程度なのです。1.7人といっても、複数人の歯科衛生士が勤務する大型の歯科医院がある反面、ひとりも歯科衛生士がいないという歯科医院もあるのです。
2.集まる歯科クリニックには集まっている
私は、医療コンサルタントもやっているのですが、優秀な歯科医師さんが集まってくれています。そんな、優秀な歯科医師さんたちには、不思議に歯科衛生士さんが複数人集まっているのです。複数人と言っても、多い所では10人を超えた歯科衛生士さんが集まっているところもあります。全国平均から比べると明らかに多いです。このように歯科によって差が大きく、まさに完全に偏在化しているといえるのです。
3.求人成功のポイント① ホームページがあるか?
自分の外来でも、患者さんが受診している歯科クリニックについて調べようとした際に、ホームページもないと途方に暮れてしまいます。特に地方になると、ホームページもない歯科医院が多いことに驚いてしまいます。
3-1.ホームページは、集客でなくリクルートとして考えよう
ホームページも作っていない院長に話を聞くと、「ホームページがなくても患者さんが来てくれるから・・」と言われます。実は、ホームページは、集客でなく、就業を希望する人たちに対するリクルートとしての役目があるのです。そのことに気が付いていない院長は、「スタッフが集まらない」と訴えます。しかし、ホームページもないクリニックに、スタッフが集まるわけがないのです。
3-2.院長の理念を伝えよう
ホームページを見ると、院長の理念が分かります。逆に、ホームページを作ることで、自分自身の目指す医療が、言語化されるとも言えます。ホームページも作っていない院長には、理念すらないといえます。そんな院長のもとにスタッフが集まるわけがないのです。
3-3.しっかりとお金をかけて、更新しているか
確かにホームページは大切ですが、あれば良いわけではありません。ホームページはクリニックの顔です。みすぼらしいホームページは、かえって逆効果です。また、定期的に更新されていないホームページも、だらしなさが目立ってしまいます。ホームページを作るなら、それなりのお金をかけて、定期的に更新し、さらに2〜3年に一度はリニュアルする必要があります。その程度の手間もかけることができないクリニックに、スタッフが集まるわけがないのです。
4.ポイント② 教育システムがあるか
歯科衛生士さんは高い給与を払えば、集まるわけではありません。
4-1.たった一人だけの募集に集まるわけがない
歯科衛生士さんは、とても勉強熱心です。多くの方が向上心を持っています。一人しか雇用されないクリニックで働いては、勉強したり、技術を高めることは難しいのです。そのため、一人しか雇用できないようなクリニックに、歯科衛生士が集まるわけがないのです。
4-2.最低3名で組織する
理想は、歯科衛生士は最低3名は必要です。最低3名の歯科衛生士がいれば、リーダーがいて、その下に2名を配置できます。これで必要最低限の組織ができます。
4-3.組織化されていないと、教育システムがない
そもそも教育システムとは、組織化されることで初めて成立します。向上心がある、歯科衛生士さんに集まってもらうには、最低3名を雇用し、組織化することで充実した教育システムを構築できる礎となるのです。
5.ポイント③ 歯科衛生士さんが働くに足る診療環境&内容か?
歯科衛生士さんは、単なる歯科医の助手ではありません。
5-1.最低5台のチェアーが必要
歯科衛生士さんは、医師の補助をするだけではありません。独立して、メンテナンスとして口腔ケアも行います。そのためには、クリニックのチェアも治療用とメンテナンス用が必要になります。そうなると、最低5台のチェアーが必要となります。
5-2.訪問歯科診療も行おう
向上心のある歯科衛生士さんは、外来診療だけでなく訪問診療にも関心があります。外来しか行わない歯科クリニックより、訪問歯科診療にも積極的にかかわっているクリニックに歯科衛生士さんは集まるのです。
5-3.医科歯科連携ができているか?
向上心のある歯科衛生士さんは、医科歯科連携にも関心があります。医科歯科連携の本当の意味は、単に医師と歯科医が連携するという簡単なことではありません。医師も歯科医も在宅医療に積極的に取り組むもの同士が連携するものなのです。そのための条件が、医科は「強化型在宅療養診療所」であり、歯科は「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所=か強診」なのです。その2つが協力することで、「予防医療」と「在宅医療」を推進することが、医科歯科連携なのです。逆に言えば、「か強診」を取っていない歯科クリニックには医科歯科連携をする資格もなく、歯科衛生士が集まるわけがないのです。詳しくは以下の記事も参考になさって下さい。
6.ポイント④ 具体的な目安
具体的な目安としては以下になります。残念ながら以下を満たす歯科クリニックは、10〜20%しかないのが現状です。
6-1.売上1億円以上
教育システム、人材雇用、いずれにもお金が必要です。そのためには、売上を上げて、利益を出すことが必須です。私の信念は、「経営感覚のない医師・歯科医は医療レベルも低い」です。「利益なんて」と言っている医師・歯科医は、不思議と医療レベルも低いものです。
6-2.医療法人
医療法人は節税のために必要なわけではありません。多くの人材を雇用し、教育するには組織化が必須であり、そのためには医療法人化を果たさねばなりません。個人事業主で、クリニックの利益も個人としての家計も一緒になっているようなクリニックが、組織化されることは困難なのです。
6-3.か強診認定
「か強診」は必須です。厚生労働省が、決められた基準を満たした「地域完結型医療推進を行う歯科医療機関」を認定します。か強診が認定されたれた診療所に関しては保険内で予防歯科ができるようになり、収益性も高くなります。
7.ポイント⑤ 歯科衛生士さんが歯科クリニックを選ぶ基準になる?
以上のポイント①―④については、歯科医の先生方の中には、反論もあるかもしれません。しかし私は、歯科衛生士さん向けの講演も多数させていただいてます。もちろん、私の著書「認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ 歯を守りなさい! 」でも紹介してます。そのため、多くの歯科衛生士さんが、この情報を共有すれことになります。いずれは、このポイントで歯科衛生士さんが歯科クリニックを選ぶ時代が来るかもしれません。
8.まとめ
- 多くの歯科クリニックが歯科衛生士さんの雇用に悩んでいます。
- 理論上、歯科衛生士さんが足りないことも事実ですが、偏在していることも事実です
- ご紹介した5つのポイントで、歯科衛生士さんが歯科クリニックを選ぶ時代が来るかもしれません。