歯科医の先生方の間では、新型コロナウイルスの蔓延のために不要不急の治療を自粛されている診療所も多いようです。ならば、歯科における不要不急の治療の定義が気になります。医師としては、少なくとも歯科のメンテナンスはウイルス感染後の細菌による2次感染予防の効果を考えると、不要の治療ではないと思います。しかし、口腔ケアを行う歯科衛生士さんの予防対策が不十分である点からも自粛されていることが多いようです。
そこで、厚生労働省が推奨している、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)における施設基準の一つである歯科用吸引装置(口腔外バキューム)の設置の普及を進めるべきです。今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、歯科チェアー全台に口腔外バキュームの設置をお願いしたい理由についてご紹介します。
目次
1.口腔外バキュームとは?
一般の患者さんでは、口腔外バキュームを見たことがないのではないでしょうか?
通常、治療中に口の中を吸引してもらっているのは、口腔内バキュームといいます。口腔外バキュームは、歯科の治療中に口腔外に漏れる有害な粉塵を口の外で吸引をする機械です。
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2.口腔外バキュームが患者さんも医療従事者も守る
口腔内バキュームでは治療中に発生する比較的大きな粉塵・粉滴の70~80%を除去しますが、残る20~30%の切削片はすべて2ミクロン以下の粉塵・粉滴となって診療室内を汚染します。
しかし、口腔外バキュームを使用すると、その99%以上を取り除くことができるのです。まさに、患者さんの立場、治療をする医療従事者の双方に利点があるのです。
3.厚生労働省も要望する口腔外バキューム。その配備実態は
実は、厚生労働省も「か強診」を通じて、口腔外バキュームの普及を要望しています。か強診の認定は、全国の歯科医院の中で約10%と言われています。
3-1.「か強診」におけるかかりつけ歯科医とは?
かかりつけ歯科医とは、安全で安心な歯科医療の提供を行い、医療や介護に関する幅広い知識と見識を備えた歯科医師のことを指します。か強診が認定されると、保険では認められていない予防歯科の保険適応の範囲が拡大されます。そのため、か強診の認定を受けるには、さまざまな条件を満たす必要があります。
3-2.施設基準の一つが、歯科用吸引装置(口腔外バキューム)
か強診のいくつかの施設基準のうち、「患者にとって安心で安全な歯科医療環境の提供をおこなうにつき次の十分な装置・器具等を有していること。」があります。これを満たすために、口腔外バキュームの設置が必要になります。
3-3.なんちゃって口腔外バキューム?
せっかく国も普及しようとしている、口腔外バキュームですが、残念ながら移動式の機械を1台購入して、施設基準を満たしている施設が多いようです。しかし、患者さんや医療従事者を守るためには、チェアすべてに口腔外バキュームを設置する必要があるのです。
4.厚生労働省の深い読み
自分は、厚生労働省の深い読みに関心することがあります。今回の、か強診の基準においても、歯科医の先生方には、ハードルが高いかもしれませんが、歯科治療の進むべき方向性をしっかり捉えています。
4-1.条件クリアが難しい項目が重要
厚生労働省の調査によると、か強診の条件をクリアすることがむずかしい項目TOP3は以下です。実は、国は難しい項目こそを充実させたいのです。
- 複数名の歯科医師、または歯科医師と歯科衛生士をそれぞれ1名以上在籍
- 過去1年間に歯科訪問診療1、または2の算定回数が5回以上
- 歯科用吸引装置(口腔外バキューム)の設置
4-2.歯科医も訪問診療を
厚生労働省の意図は、「か強診」をとるなら在宅医療に取り組みなさい。です。患者さんの立場を考えれば、歯科医の先生も「在宅医療」を推進することは責務なのです。そして、訪問診療を積極的に行っている私のブレイングループとしても、訪問診療をおこなう歯科医の先生としか医科歯科連携はあり得ないのです。以下の記事も参考になさってください。
4-3.安全の確保のためにも
厚生労働省は、在宅医療と同時に、「安全」と「医療の質の確保」を求めています。そのためにも、形ばかりでない、歯科用吸引装置(口腔外バキューム)の設置を求めているのです。もちろん機械の設置だけでなく、「口腔内で使用する歯科医療機器等について、患者ごとの交換や、専用の機器を用いた洗浄・滅菌処理を徹底 する等十分な感染症対策を講じていること」も当たり前です。
5.ベンツより安い、口腔外バキューム
歯医者さんと「か強診」の話をすると、多くの方が「口腔外バキュームが高い」と言われます。よほど高いのかと思いましたが、値段を聞いて驚きました。歯科医の先生方が好きなベンツよりは、安いのです。
お金の使い方には、浪費、消費、投資の3つがあります。その点から言えば、口腔外バキュームは間違いなく、患者さんや働くスタッフのための投資です。経営者は投資を惜しんではいけません。
そんな大事な投資すらできないような経営状況の歯科医院であれば医科歯科連携のパートナーともなりえません。そして、そんな歯科医院は、患者さんのためにも市場から徹底する必要あるのです。
6.令和2年6月、敷地内に歯科クリニックをオープンします
認知症と在宅医療を中心とするブレイングループは、土岐内科クリニック内に歯科チェアを設置。歯科衛生士によるメンテナンスを行ってきました。しかし、多くの患者さんの要望から、令和2年6月に敷地内に歯科クリニックを開院します。
敷地内の歯科クリニックでは積極的に訪問診療を行うとともに、全台に口腔外バキュームを設置します。さらにブレイングループでは糖尿病専門外来も開設します。
まさに、認知症・糖尿病・歯科クリニックの3つの連携により、外来診療と在宅医療に取り組みます。これこそが机上の空論でない、医科歯科連携の実践といえると、私は考えています。
7.まとめ
- 歯科の定期的なメンテナンスは不要不急ではありません。
- しかし、患者さんやスタッフの安全のためには、口腔外バキュームの設置が必須です。
- 「か強診」の意図をくみとった歯科診療所のみが医科歯科連携のパートナーとなるのです。