認知症予防のために早めの補聴器利用を

認知症予防のために早めの補聴器利用を

先日89歳の父親が、眼鏡屋さんに眼鏡の調整に行ったついでに聴力を測定、軽度に聴力の低下が指摘されたため補聴器を購入してきました。家族としては普通に会話していても聴力の低下に気が付かないレベルでした。しかし、父親曰く、「補聴器を使うととても快適で、今までとは違った世界が開かれた」とのことです。

多くの人は視力低下に対しては積極的に眼鏡を使用します。さらに遠くを見るため、近くを見るためといったように細かく使い分けます。それに対して聴力に対しては、毛嫌いをして使用しない人が多いようです。実際、外来でも補聴器の使用を薦めても、かなりの確率で拒否されます。

聴力は認知症の発症にとても関与しています。そのため認知症専門医としてはできるだけ早い段階で、補聴器を使用してもらいたいものです。今回の記事では、補聴器を多くのかたに使用してもらいたい理由について解説します。

目次

1.日本人は世界的にみても補聴器を使わない

補聴器工業会によると、日本の難聴者数は1430万人、人口比率では11.3%と世界で3番目に多いと報告されています。しかし、日本における補聴器の普及率は、難聴者人口の13.5%のみであり、欧米諸国の30~40%に比べ極めて低くなっています。

2.難聴が最も認知症の発症の要因になる

2017年7月、専門誌『THE LANCET』に「認知症の3分の1は予防しうる」とする論文が掲載されました。認知症の原因となるアルツハイマー病など脳の病気を治す方法は、残念ながら見つかっていません。しかし仮に9つの要因を完璧に無くせたとしたら、認知症の3分の1は予防できるとしています。

ちなみに9つとは①高血圧 ②糖尿病 ③肥満 ④運動習慣のなさ ⑤喫煙 ⑥(幼少期の)質の低い教育 ⑦社会的な孤立 ⑧難聴 ⑨うつです。なんと9つの中で最も認知症に悪影響を及ぼすものが難聴と報告されたのです。論文の中では、難聴に対しては補聴器の使用を奨励し,過度の騒音曝露から耳を保護し難聴を軽減することが推奨されています。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


3.難聴が軽度のうちの補聴器使用が理想

補聴器を嫌がる患者さんの多くは、難聴がかなり進行してから使用されます。そのため補聴器を使う時と使わない時のギャップがありすぎて不快感を感じるようです。そのため周囲が気が付かない軽度な難聴レベルから導入することで、ギャップがなくなり心地よく使用することができるのです。

4.認知症が進行すると補聴器が管理できない

ランセットの報告でもあるように難聴を放置すると認知症になりやすく、進行もしやすくなります。認知症患者さんが補聴器の管理をすることは困難です。難聴が進行して認知症も進行する前に、補聴器に慣れておいてほしいものです。介護の現場では、認知症の患者さんが補聴器を失くしたり、ゴミ箱に捨ててしまうことが結構あります。そのために、スタッフ全員が血眼になって探し回ることはしょっちゅうあるものです。

5.補聴器もう少し安くならない?

補聴器の導入に躊躇する一因に値段の高さあります。父親も左右両方で50万円程度のものを購入しました。この値段でさえ最も高いわけでない点が驚きです。国の補助体制の充実や、より多くの方が使うことで値段が手ごろになることを望みたいものです。

6.まとめ

  • 日本人は世界的にも補聴器の利用率が低い
  • 難聴は認知症発症の原因に最も関与している
  • 補聴器は周囲が気が付かない軽度な難聴レベルから導入することがお薦めです。
長谷川嘉哉監修シリーズ