抗認知症薬を開発しているエーザイは、アルツハイマー病の進行抑制が期待される世界初の治療薬として2021年に米国で承認された「アデュヘルム」を事実上断念しました。以前から、自分は「アデュヘルム」の効果およびあまりの高額な値段設定には疑問をもっていました。自分の判断も正しかったのだと安心しました。なお、「アデュヘルム」については以下の記事も参考なさってください。
目次
1.「レカネマブ(BAN2401)」の実用化を急ぐ?
なお、エーザイは「アデュヘルム」を断念して、代わりに次期アルツハイマー薬の開発を優先するそうです。具体的には、アルツハイマー病薬候補「レカネマブ(BAN2401)」の実用化に注力するとのこと。
しかし残念ながら「レカネマブ(BAN2401)」もあまり期待はできないと思います。なぜなら、エーザイの新薬のターゲットはいずれもアルツハイマー型認知症の原因が「アミロイドβ」であるという前提に立っています。ならば、もし認知症の原因がアミロイドβでなければ、そもそも効果があるわけがないのです。
2.認知症はアミロイドβだけで説明はつかない
臨床をしているものからすると、アミロイドβは正常の高齢者にも存在します。また認知機能の低下とアミロイドβの集合体である老人斑の数は一致しないことも分かっています。
つまり、アミロイドβだけでは認知症は説明できないのです。「アデュヘルム」が、「理論上アミロイドβの沈着を減らせても、臨床効果が出ないこと」は、そのことの証明ともいえるのです。
3.認知症の一部は、アミロイドβが関与
ならばアミロイドβを標的とした薬はすべて効果がないのでしょうか? これだけ世界の研究者がアミロイドβを研究しているのですから何らかの関与はしていると思われます。日々の臨床をしているものからすると、「アミロイドβはアルツハイマー認知症の一部の原因物質である」が真実だと思います。
4.アミロイドβが原因の認知症に限定
アミロイドβが原因の認知症に限定すれば、「アミロイドβ」を標的にする薬剤も効果が期待できます。アルツハイマー型認知症の中でアミロイドβが原因のものをピックアップするには以下の方法が有効です。
4-1.PET検査
PET検査によりβアミロイドの脳への蓄積を画像化することができます。この検査は他の検査と比較して精度が高く、発症前にβアミロイドの蓄積とらえることが可能です。ただし検査施設が限られること、費用も現在は保険外のため20万円以上かかります。
4-2.APOE遺伝子検査
PETでは、施設も限られますし高価です。そんな代わりになると予想されるのがAPOE遺伝子検査です。これは採血で結果が分かりますし費用も2万円前後です。
APOE遺伝子は認知症の発症にかなり関与しています。アポEという遺伝子型には2型、3型、4型の三種類があり、父親から一種類、母親から一種類を受け継ぎます。つまり、子どもが持つアポEの遺伝子パターンは、「2・2」「3・2」「3・3」「4・2」「4・3」「4・4」の6種類のうちいずれかになります。
このうち、4を一つ持つ人は実年齢より11歳年上相当に、二つ持つ人は23歳年上相当である、ということが分かっています。つまり4型を持っている方々は、通常よりアミロイドβの蓄積が予想されるのです。なおAPOE遺伝子については以下の記事も参考になさってください。
5.まとめ
- 抗認知症薬を開発しているエーザイは、アルツハイマー病「アデュヘルム」を事実上断念しました。
- かわりに「レカネマブ(BAN2401)」の実用化を急ぐそうですが、あまり期待はできないと思います。
- まずはアミロイドβが原因の認知症に限定すれば、「アミロイドβ」を標的にする薬剤も効果が期待できます