最近、男性更年期障害のご相談を受けることが増えてきました。女性の更年期障害は良く知られていますが、男性にも更年期障害があるのです。確かに、医学的な診断方法もありますし、治療法も存在します。しかし、個人的には、本当に診断治療が必要なのか疑問もあります。それよりも、更年期を自分の身体に向き合う機会として、100年時代を乗り切るために生活スタイルを変えることをお勧めします。
今回の記事は、脳神経内科専門医である長谷川嘉哉が男性更年期障害とその対応方法についてご紹介します。
目次
1.男性更年期とは?
男性更年期障害とは、年を重ねることによる男性ホルモン(=テストステロン)の低下が原因による症状で、医学的には加齢男性性腺機能低下症候群(=LOH症候群:late-onset hypogonadism)と言います。
通常テストステロンの量は、10代前半から急激に増加し、20歳頃をピークに徐々に低下していきます。徐々に低下していれば問題はないのですが、何らかの原因で急激に減少してしまうと、全身のバランスが崩れ、身体の不調を訴えることに成ります。そういった症状を訴える患者さんは40歳代後半からで、最も多いのは50〜60歳代になります。
現在、テストステロンを急激に減少させる原因の代表的なものはストレスということになっています。テストステロンは大脳の視床下部からの指令によって精巣から分泌されます。しかし、ストレスによる交感神経優位状態が継続されると、視床下部からの指令が抑制され、テストストロンの分泌が減少してしまうのです。
2.男性更年期障害の症状は?
男性更年期の症状は大きく二つに分けられます。
2-1.身体症状
もっとも多くみられるのが、性欲の低下、朝立ちの消失、勃起不全(ED:Erectile Dysfunction)です。なお、勃起不全とは、「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が持続又は再発すること」と定義されています。
それ以外にも、全身倦怠感、のぼせ・多汗、頭痛、めまい、耳鳴りなど女性の更年期障害様の症状も認められます。他にも、身体の痛み、筋力低下、頻尿などを訴えられます。
2-2.精神症状
身体症状以外に精神症状として、不眠、無気力、いらいら、集中力・記憶力の低下などの症状も訴えられます。
2-3.合併症
身体症状や精神症状以外にも、テストステロンの低下で男性更年期障害になると、メタボリック障害や虚血性心疾患、脳血管障害、癌などのリスクも高まることが分かっています。
3.診断方法
男性更年期障害は以下のように診断します。
3-1.AMS スコア
診断には、質問形式の「AMSスコア」を使います。AMSスコアとは、aging male symptomsの略で、男性更年期障害を診断するために、世界的に広く使われているテストです。17項目の質問に5段階で答え、総点数で評価します。合計点が、26点以下が正常、27〜36点が軽度、37〜49点が中等度、50点以上が重度となります。
具体的には、下記の各設問に当てはまる症状の程度をチェックし、点数を合計して下さい。いずれも、なし(1点)、軽い(2点)、中等度(3点)、重い(4点)、非常に重い(5点)とカウントします。
加齢男性症状調査表(AMSスコア)
- 1.総合的に調子が思わしくない
- 2.関節や筋肉の痛み
- 3.ひどい発汗
- 4.睡眠の悩み
- 5.よく眠くなる、しばしば疲れを感じる
- 6. いらいらする
- 7.神経質になった
- 8.不安感
- 9.からだの疲労や行動力の減退
- 10.筋力の低下
- 11.憂うつな気分
- 12.「絶頂期は過ぎた」と感じる
- 13.力尽きた、どん底にいると感じる
- 14.ひげの伸びが遅くなった
- 15.性的能力の衰え
- 16.早朝勃起(朝立ち)の回数の減少
- 17.性欲の低下
上記の合計スコアが、
17〜26点:男性更年期障害ではない
27〜36点:軽度男性更年期障害の可能性 テストステロン測定をおすすめします
37〜49点:中等度男性更年期障害の可能性
50点以上 :重度男性更年期障害の可能性
ただし53歳の自分が考えても、質問項目の「からだの疲労や行動力の減退」、「絶頂期は過ぎたと感じる」、「性的能力の衰え」、「早朝勃起(朝立ち)の回数の減少」、「性欲の低下」は加齢による現象で当たり前ような気がするのですが…。
3-2.うつ病との鑑別のためにテストステロン値の測定が必要
男性更年期の症状は、うつ病と間違えられることがあります。そのため、血液中のテストステロン値の測定が鑑別には必要です。採血データで、遊離型テストステロン値が8.5pg/㎖以下であり、AMSスコアが50点以上であれば男性更年期障害と診断されます。
3-3.精神科よりも先に泌尿器科受診がお薦め
男性更年期障害を疑った場合、何科に受診するかも重要です。お薦めはまず泌尿器科に受診してテストステロン値を測定することです。いきなり精神科に受診して、うつ病と診断され抗うつ薬が処方されてしまうこともあるからです。
なお、男性更年期障害とうつ病の鑑別で重要な点があります。医学用語でいう希死念慮(=死にたくなるような気持ち)は、精神科疾患である可能性が高いので、泌尿器科でなく精神科を受診してください。
4.治療方法
男性更年期障害には、以下のような治療があります。
4-1.ホルモン補充療法
ホルモン補充療法は、テストステロン値が低く、前立腺肥大や前立腺癌がないことを確認してから治療を開始します。
海外では、テストステロンの貼り薬や、塗り薬、内服薬もありますが、日本では、注射による投与のみが保険適応となっています。通常、2週間おきに、筋肉注射を行います。
4-2.漢方薬
定期的な注射には抵抗がある方には、漢方薬も使用されます。補中益気湯(ほちゅうえっきとう)はテストステロン値を増やす効果があります。
5.自分でできる体質改善法は?
男性更年期障害は薬でしか治療できないわけではありません。生活習慣を整えることで、十分改善は可能です。
5-1.禁煙・節酒・食事
男性更年期を生活習慣を変えるきっかけにしましょう。煙草は止めて、お酒も控えましょう。食事も、炭水化物に偏らずに、良質のたんぱく質(肉、魚、卵、牛乳、豆類)を摂取しましょう。なお、ニンニクや玉ねぎなどのネギ類や、山芋などのねばねば食品は、テストステロンの増加に効果があると言われています。
5-2.自律神経の調整
そもそも男性更年期の原因は、ストレスにより加齢変化以上にテストステロン分泌が抑制されることです。交感神経を抑制して、副交感神経を優位にするような生活が必要です。その結果、良質な睡眠が確保され、テストステロンも分泌されます。良質な睡眠を得るためには、セルフお灸もお薦めです。以下の記事も参照してみてください。
5-3.運動
運動をすることは、テストステロンの分泌を増やすには有効です。ただし、ウォーキングなどの有酸素呼吸運動よりも、筋力トレーニングがより効果的です。そのため、歩くだけでなく、筋トレ、スクワット、腕立て伏せなどを加えるとより有効です。
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6.まとめ
- 男性更年期障害の原因は、ストレスなどで加齢変化以上にテストステロンの分泌が低下することです。
- 診断には、AMSスコアと血中のテストステロン値を測定します。
- 治療には、テストステロンの補充療法だけでなく生活習慣の改善もより効果的です。