コロナ禍で運動不足になっている高齢者が増えています。しかし、運動不足は認知症にとってはリスクの一つです。逆に、適切な運動は認知症を予防します。運動と言っても特別なことは不要です。歩くだけで十分なのです。逆に歩く以上の運動負荷は逆効果になることさえあるのです。
今回の記事では、認知症専門医の長谷川嘉哉が、歩行が認知症に与える効果および方法をご紹介します。
目次
1.よく歩くと認知症を予防できる、という研究
歩くことが認知症を予防するという多くの報告がされています。
1-1.一日3km以上の歩行が認知症を予防
1日に、歩く距離別に7年間の認知症の発症率を比較したデータがあります。結果は、「0.25マイル(400m)歩く人」と「2マイル(3.2㎞)以上歩く人を比較した場合、1日の歩行距離が400mの人では認知症の発症リスクが、約2倍になるそうです。通常、1歩が70㎝と考えると、1日4500歩程度歩くことを目安にしてください。
1-2.歩行時間が長いと認知症を予防
歩行時間と認知症発症の影響については、東北大学の遠又靖丈氏らが検証しています。65歳以上の高齢者1万3990人を1日歩行時間「0.5時間未満」「0.5~1時間」「1時間以上」にわけて評価。5.7年間の調査の結果、1日の歩行時間は認知症発症と逆相関。歩く時間が多い方が認知症が減るという結果になりました。1日1時間以上歩けば、認知症の発症を18.1%減少することがわかりました。3〜4kmを歩くのに1時間程度かかると考えると、前項と同様の結果のようです。
1-3.週1回の運動だけでも認知症の発症に差
日本の高齢者研究で有名なものに福岡県の久山町モデルというものがあります。この中で、1960年代から高齢者の健康を調査しており、800名以上の高齢者を17年間追跡したデータがあります。運動習慣が週1回未満の方の認知症の発症率を基準とすると、「週に1回以上」の運動習慣がある人は、アルツハイマー型認知症のリスクが40%ほど低くなることが分かっています。たった週1回の運動習慣でも差が出るようです。
2.歩行が認知症を予防させる理由とは
ならば歩行はなぜ認知症を予防するのでしょうか?
2-1.運動が神経細胞数を増やす
我々が学生の頃は、「一度失った脳の神経細胞は増えない」と教育されていました。そんな、我々を驚かせた論文が1999年にNature Neuroscienceに発表されたVan Praagらの「Running increases cell proliferation and neurogenesis in the adult mouse dentate gyrus」という論文です。簡単に言えば、運動によって、記憶をつかさどる海馬の入り口の歯状回の細胞が増加したのです。運動によって、認知症の予防・改善の可能性が証明されたと言えます。
2-2.糖尿病予防効果は
運動は、直接的な脳への働きだけでなく、生活習慣病を予防します。糖尿病は、持続する高血糖によって脳血管障害を引き起こしやすくなり、その結果、血管性認知症の原因となります。また、高インスリン血症によってアルツハイマー病も引き起こします。運動は糖尿病を予防させることで、間接的に認知症を予防するのです。以下の記事も参考になさってください。
2-3.健康意識を高める
定期的に歩いている人は、運動だけの効果以外の原因も考えられます。運動習慣のある方は、健康意識が高く、日常も活発に過ごされている方が多いものです。また、ただ歩くよりも、おしゃべりが加わるとより人との繋がりが生まれ、認知症を予防できるのです。詳しくは、以下の記事も参考になさってください。
3.ゆっくり歩くことが大事、とは
歩けば、歩くほど体に良いと誤解されている方もいらっしゃいますが、過度な運動は、逆に活性酸素を増やして老化を早めると言われています。実際にラットで歩行速度を「遅い」「普通」「速い」の3段階に分けて実験をしました。結果、いずれの速さで歩いても記憶を司る海馬の血流は増えました。しかし、神経伝達物資であるアセチルコリンは「普通の早さ」で歩いた時がもっとも増加していました。
つまり、歩行の際も無理して早く歩くのではなく、会話が楽しめる程度の速さで歩くことが、海馬の血流と細胞が効率的に増えると考えられるのです。
4.歩く際の注意
せっかく歩く際も、ただ歩くだけでは勿体ないです。仲間と一緒に、おしゃべりをしながら、さらには、周囲の景色を楽しむ余裕も持ちたいものです。もちろん運動は、歩くだけではありません。洗濯、掃除、調理、買い物も立派な運動です。その上で、決して無理をせず、週に2〜3回、30分程度の歩行を心がければ、今回紹介した認知症を予防する運動の条件を満たすのです。
もちろん、歩行の際は、炎天下で高温の日は避け、水分摂取は忘れないでください。
5.素直に行動に移すことが最も大事
外来をやっていると、歩行に限らず、高齢になっても認知機能が保たれている患者さんは、何事にも素直で積極的です。散歩が身体によいと知れば、素直に取り組んで、いつの間にか生活習慣にされます。さらに、介護が必要になっても、素直に介護サービスを利用され、それなりに楽しまれます。
対して、素直でない方は、いろいろ理由をつけて新しい取り組みをされません。その延長線上、介護が必要になっても頑固に介護サービスを受けられません。その結果、介護状態が悪化し、家族への負担を強いてしまっている方が多いのです。
6.ブレイングボードもお薦め
なお、外で歩くことに少し抵抗がある方には、ブレインググループが開発したブレイングボード®もお薦めです。ブレイングボード®は、「有酸素運動」「筋力トレーニング」「柔軟性向上」「バランス性向上」の4つの運動がわずか5分でできてしまいます。特に、有酸素呼吸運動だけでなく、筋力や柔軟性・バランスを改善することで、「歩行」以上の運動効果が得られます。
ブレイング®とは、ブレイングループが創った「脳を意味するブレインとトレーニングを組み合わせた言葉」です。まさに、ブレイングボード®を使うことで、運動機能の改善と認知症の予防が同時に可能となるのです。
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7.まとめ
- 歩くことは、認知症を予防します。
- 運動は、海馬の細胞を増やすだけでなく、糖尿病予防を介して、認知症を予防します。
- 歩く際は、負荷をかけすぎると効果落ちるので、会話ができる程度の歩行が理想です。