65歳の「数日前」で損得が変わる国──働く人を減らす日本の制度

65歳の「数日前」で損得が変わる国──働く人を減らす日本の制度

少子化が深刻化し、高齢者比率が加速度的に高まる今、日本のみならず先進国共通の最大課題が「社会保障制度の持続性」であることは疑いようがありません。年金、医療、介護といった社会保障は、本来“現役世代が支える”構造です。ところが現役世代が減少し、高齢者が増えるという人口構造の逆転が進む中、この仕組みは早晩限界を迎えると多くの国が警鐘を鳴らしています。

その中で世界的な潮流となっているのが 「70歳定年」 という考え方です。
健康寿命が延び、多くの高齢者が60代後半でも十分働ける時代になった以上、働く期間を5年延ばすことが社会保障制度を維持する最も現実的な手段となっているからです。

しかし、ここで日本には大きな“逆インセンティブ”が存在します。
それが今回のテーマである、「65歳で退職するよりも、65歳の誕生日前に退職した方が得をする」という制度の歪みです。

目次

 1.なぜ65歳前退職が得になるのか?

65歳を境に、雇用保険制度が大きく変わります。
65歳未満で離職すると“通常の失業保険(基本手当)”を受け取れます。これは90〜150日など手厚く、離職前の給与の50〜80%が支給されます。

一方、65歳以上で離職すると 高年齢求職者給付金(一時金30日分) となり、給付額は急に少なくなります。

つまり制度上、ほんの数日前に退職した方が、数十万円も有利になるという現象が起こってしまうのです。この構造は、高齢者に対して「65歳までは働くな」というメッセージにすらなりかねません。少子化で労働力が不足する中、この逆インセンティブは明らかに時代と逆行しています。

2.制度改正の方向性:働くほど得になる仕組みへ

世界では「働く期間を伸ばすこと」が社会保障維持の主流戦略です。
にもかかわらず、日本の現行制度は働き続けるほど不利になる瞬間がある。この課題を解決するには、以下の方向性が必須です。

① 給付と年齢の段差をなくす

65歳を境に急に不利になる仕組みではなく、年齢に滑らかな連続性のある給付制度
に見直す必要があります。

② 年金と就労の柔軟な併用

海外では「働きながら年金を受け取る」制度が一般的になっており、引退時期を個人が選べます。日本も働くほど年金が増える、働きながら年金が減らない方向を目指すべきです。

③ 働くインセンティブを高める税制度

働いた収入が手取りに直結する仕組みを強化し、高齢者が仕事を続けることが自然に得になるよう設計することが重要です。

3.制度がどうあれ、65歳以降も働く人の手取りは“実質的に増える”

制度改正が遅れていても、現実として 65歳以降も働けば「年金+給与」で生活水準は確実に向上」 します。


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たとえば
●年金月12万円
●週3日のパートで月10万円
であっても、それだけで単純に手取りが22万円となり、現役時代と遜色ない生活水準となります。

さらに、働くことで社会保険料の一部が免除されるケースもあり、総合的に見れば働くほど手取りが増えやすい仕組みになっています。

4.何より「働くこと」は健康を守る最強の行動

医師として、そして認知症専門医として強調したいのはここです。

  • 働くことは認知症予防になる

働く=「他者との交流」「役割」「規則正しい生活」「適度なストレス」「脳の使用」を伴う最良の認知症予防です。
実際、研究でも
社会参加している高齢者は認知症リスクが約30〜40%減少
することが示されています。

  • 働くことは抑うつ予防

仕事は生活のリズムを支え、自尊心や生きがいを生むため、精神的安定にも寄与します。

  • 働くことは身体機能の維持

外出・移動・軽い身体活動はフレイル予防にも直結します。

つまり、
働き続けることは「収入の確保」「社会保障制度の支え手」「健康長寿」の三つを同時に実現する最強の戦略
なのです。

5.まとめ

少子化が加速する中、日本社会は「働ける高齢者が長く働く」ことを前提に制度設計を再構築せざるを得ません。そのためにも、65歳前退職が得になるような制度は早急に見直される必要があります。

しかし制度に先行して言えるのは、65歳以降も働くことは、間違いなく“健康・生活・社会のすべてにとってプラス”であるという揺るぎない事実です。

長寿社会を前向きに生きるために、「働けるうちは働く」ことは、今後ますます重要な選択肢となっていくでしょう。

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