先日、大企業に勤める30歳代の男性と確定拠出年金の話をしました。せっかく企業型確定拠出年金が整備されているのに加入していないとのことです。これは、あまりにもったいない話です。確定拠出年金は、巷にあふれている投資話の中でも特筆すべき有利な制度です。
高齢者を中心の外来を行っていると、年金額の差が、そのまま「生活のゆとり」につながります。当院の若いスタッフは「本当に年金は大切ですね」と実感しているほどです。そんな年金を有利な条件で豊かにする制度が確定拠出年金なのです。
私も2001年10月から確定拠出年金制度が始まると同時に個人型に加入。2017年1月からの改定後は、医療法人で企業型に変更しました。もう18年以上加入しているヘビーユーザーと言えます。今回の記事では、FP(=ファイナンシャルプランナー)資格を持つ老年病専門医である長谷川嘉哉が、確定拠出年金について、また自身が運用している実際の商品についてご紹介します。
目次
1.確定拠出年金とは?
確定拠出年金とは、確定拠出年金法基づく私的年金制度です。2001年(平成13年)10月1日から掛け金の運用が始められたのですが、私はその有利性からすぐに加入しました。アメリカの確定拠出型の個人年金制度の一つが、401kと呼ばれていたため、「日本版401k」とも言われています。
日本の年金制度は、3階建てです。1階は、国民全員が加入義務のある「国民年金」、2階は職業に応じた「厚生年金」です。1階と2階は「公的年金」であり、社会保障として国が運営しています。
従来3階部分には、企業や団体が運営する「企業年金」がありました。しかし「企業年金」は、「確定給付年金」と呼ばれ、将来の年金額が約束されていました。低金利の時代、企業や団体がその負担に耐え切れなくなり、代わりに出てきたのが「確定拠出年金」です。「確定拠出年金」は、加入者自身が運用するため、掛け金より増えても、減っても企業の負担にはなりません。
2.確定拠出年金は誰が加入できるの?
確定拠出年金には種類がありますが、2017年1月から、個人型の加入者の範囲が拡大し、基本的にすべての方が加入できるようになりました。
2-1.企業型確定拠出年金の場合
国民年金の第2号被保険者、つまり厚生年金に加入している人です。その上で、労使合意に基づき確定拠出年金制度を実施する企業の従業員が対象になります。一般的に大企業と言われている会社は、ほぼ導入されています。
2017年からは、中小企業や一人医療法人でも企業型に加入ができるようになりました。経営者の方々に、確定拠出型年金の有利性について説明すると、殆どの方が加入されます。つまり多くの方が有利性に気が付いていないから加入していないだけなのです。
2-2.個人型確定拠出年金の場合
企業型に入れない以下の方々は、個人型に加入ができます。
- 自営業、自由業、学生:20歳以上60歳未満の国民年金の第1号被保険者で、国民年金の保険料を納めている方
- 専業主婦・パートタイム労働者など:20歳以上60歳未満で厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている方
- 企業型確定拠出制度がない会社員や公務員など60歳未満の厚生年金の被保険者
3.確定拠出年金のどこが有利なの?
私が、これほどまでにお勧めする確定拠出年金の素晴らしいメリットについて解説します。
3-1.全額所得控除
確定拠出年金への掛け金は所得控除、つまり税金がかかりません。具体的には、自営業者は月68,000円、サラリーマンは月23,000円が上限です。所得税は原則、年末調整で返ってきます。企業型確定拠出年金の場合も、本人が上乗せ拠出した金額は同様のメリットがあります。なお、2025年からこの額も改正されますので、それぞおれ確認をしてみてください。
3-2.運用益が非課税
一般的な金融商品には、利息や利益に対して税金がかかります。しかし、確定拠出年金の運用益には税金がかかりません。この点は、本来税金がかかる利益も、次の投資に回すことができるため長期の運用ではとても効果があります。
3-3.受け取るときのメリット
確定拠出年金は、最終的には、年金または一時金の形で受け取ります。それぞれにメリットが用意されています。
- 年金で受け取る場合:他の公的年金と合算し、公的年金等控除が受けられます。
- 一時金で受け取る場合:退職金などと合算し、退職所得控除が受けられます。
4.運用商品で迷う場合の選択肢は
話を聞いていると、確定拠出年金を利用していない人は、制度の有効性は分かっていても最終的に、どの商品で運用すれば良いのかで悩まれているようです。
4-1.運用益がなくても有利
確定拠出年金に回したお金には、本来税金がかかっていました。ですから、仮に全く運用益がなくても税金分は得をするのです。
4-2.運用コストの低い商品を選ぶ
長期にわたって運用するので、とにかく運用コストの低いものを選びましょう。具体的には、信託報酬が1%を超えるものは避けます。私は基本的に0.2%程度の商品を選んでいます。
4-3.リスクをどこまで取るか?
リスクは、日本より外国の商品が高くなります。同様にリスクは、債券より株式の方がリスクは高くなります。ですから、いろいろな商品がありますが、大きく4つのカテゴリーに分けられ、以下の順にリスクが高くなります。
(外国株式)>(外国債券)>(日本株式)>日本債券
ちなみに長谷川家では、
- 50歳を超えた夫婦は、リスクを分散するために外国株式と外国債券が50%ずつ
- リスクをとれる20歳代の子供たちは、100%外国株式で運用しています
具体的な商品名もご紹介します。(参考になさっていただいて結構ですが、最後は自己責任でお願いします)
- 外国株式:DIAM外国株式インデックスファンド
- 外国債券:野村外国債券インデックスファンド
5.60歳まで引き出せないは最大のメリット
確定拠出年金の一つのデメリットは、60歳まで年金として受け取ることも、一時金として受け取ることもできないことです。確かに、一見デメリットのような気がしますが、投資で最も大事なことは時間をかけることです。中断できないことで確実な老後の資産形成ができると考えましょう。
なお、あってはいけないことですが、60歳までに亡くなった場合は、遺族に全額支払われます。
6.まとめ
- 確定拠出年金はとても有利な制度です。
- 全く運用益がゼロでも、税金分は確実にお得です。
- 60歳まで受け取れないことをメリットにして、時間をかけた運用をしましょう。