私の認知症専門外来では、「騙されて何か購入してしまったことはありませんか?」を必ず伺います。そのため診断がついてからは、医療・介護についてのアドバイスだけでなく、患者さんの資産管理能力や契約能力についても説明しています。今回紹介する本は、『認知症からあなたと家族の財産を守る方法』を金融老年学の立場から学ぶことができます。
- 認知症の人がもつ家計金融資産が2017年度末時点で143兆円に上っていること、2030年度には家計金融資産全体の1割を超える215兆円に達する見込みである
- 重要なのは、「予防に全力を尽くしたとしても、認知症になる確率をゼロにすることはできない」ということ
- 2020年の認知症の人は約631万人、2025年には約730万人、2060年には約1154万人になると推計されています
- 日本全体における家計金融資産のうち、6割以上を 60 歳以上の世帯が保有
- 認知症が進行してしまうと本人の財産管理などにおいては成年後見制度を利用する選択肢しかありませんが、それより前の段階であれば、任意後見制度や家族信託などの選択肢をとることができる
- 認知症の人と同居する家族の3割程度が、無駄な金品の購入などにより、経済的な損失を被ったことがあると回答している
- 認知症が進行すると「意思無能力者」になり、資産が動かせない
- 現在、認知症であるかどうかは、医師が診断基準に基づいて判断することができますが、ある行為をするのに十分な意思能力があるかどうか、ということは、明確な判断基準がないため医師には正確に判断できません。
- 消費者トラブルは、いかにも怪しい業者ばかりではなく、大手の業者との間にも起こる可能性があります。例えば、「かんぽ不適切販売問題」
- 成年後見制度は、「本人の保護」を理念としていることから、成年後見人がつくと、本人の資産については、本人のために必要であると後見人が判断した場合にのみ使用を認められるようになる
- 不正を行った後見人等の内訳としては、専門職が188件、専門職以外が4008件と、圧倒的に専門職以外による不正が多く起きている
- 家族信託とは、信頼できる家族に財産を託すこと、ということになりますが、ただあげるだけの「贈与」とは異なります。
- 家族信託という形をとっておけば、事実上、本人以外の家族・親族のために使うことができる
- 過去の判例をみてみると、直近の改訂版長谷川式簡易知能評価スケールの点数が 20 点であったのに遺言能力が無いとされたケースもあれば* 21、4点でも遺言能力があると認められたケースもあるなど* 22、一般的な医学的判断だけでは、遺言能力の有無を把握することが難しいことがわかります
- 法律上は、はっきりとした意思無能力の基準はありません。というのも、ちょっとした買い物に求められる意思能力と、金融商品や不動産などの複雑な取引に求められる意思能力では求められる程度が異なることから、ケース毎に判断すべきもの、と考えられているから。