私の周囲を見渡しても、50歳以下で新聞を定期購読している人を見かけることはほとんどありません。かつては「朝刊とコーヒー」が日本の朝の定番でしたが、いまやその光景は“昭和の風景”になりつつあります。医療や認知症、ファイナンスの分野で発信を続けてきた立場からも、今改めて「新聞=権威ある情報源」という前提を疑う時期に来ていると感じます。
目次
1.新聞の購読率はここまで落ちている
日本新聞協会によると、2024年10月時点で加盟106紙の総発行部数は約2,661万部。前年比で6.9%減少し、1世帯あたりの発行部数は0.45部―つまり「二世帯に一部以下」という時代です。2000年と比較すると発行部数は半分以下、わずか25年で新聞は“かつての常識”を失いました。
さらに世代別で見ると、70代以上では購読率82%、60代でも77%と高い一方で、30〜40代は43%、20代では3割以下。別の調査では20代13.5%、30代9.2%という数字もあります。もはや「新聞を読んでいる人=少数派」であり、若年〜中年層の大多数は紙媒体から完全に離脱しているのです。
2.なぜ新聞が「信頼を失った」のか
かつて新聞は「社会の公器」と呼ばれました。しかし実際には“広告モデル”で成り立つビジネスです。新聞社の主な収益源は購読料ではなく、折り込み広告・掲載料です。そのため広告主との関係を切り離すことが難しく、「スポンサーの顔色をうかがう報道」になりやすい構造的リスクを抱えています。
読者が減れば、広告のターゲットは高齢層に偏ります。健康食品・葬儀・保険・相続といった広告が紙面を占めるのは偶然ではありません。結果として、新聞は「高齢者向けの広告媒体」と化し、若い世代にとっては現実感のない世界になっています。つまり、新聞に載る“真実”とは、社会全体の真実ではなく「広告主にとって都合のよい真実」になりがちなのです。
3.“新聞脳”という思考の老化
ここでいう「新聞脳」とは、単に紙の新聞を読む人のことではありません。「情報を一方向的に受け取り、疑わずに信じてしまう思考の癖」を指します。新聞脳の特徴を挙げると―
- 権威あるメディアの情報を鵜呑みにする。
- 「みんながそう言っている」ことを正しいと感じる。
- 新しい視点や逆説的意見に拒否反応を示す。
- データより印象で判断する。
これはまさに、思考の老化現象です。認知症専門医として感じるのは、人間は「慣れた情報源」に依存する傾向があり、いったん信頼の回路ができると更新が難しくなるということ。情報を受け取るだけで思考を停止する―それが“新聞脳”の本質です。
4.情報の老化がもたらすリスク
新聞脳の危険は、現実とのズレを生むことです。社会が変化しても、「そんなはずはない」と否定し続ける。若者の価値観を理解できないのではなく、自分が更新されていないだけ。今の若い世代はYouTube、X(旧Twitter)、ポッドキャスト、ニュースアプリを使い、複数の情報を比較しながら自分なりの答えを導きます。
一方で新聞脳の人は「一社の見解=社会の総意」と信じてしまう。情報の多様性を失った思考は硬直化し、やがて社会との断絶を生みます。情報の更新を止めることは、脳の可塑性を止めることでもある―つまり情報の老化=脳の老化なのです。
5.「新聞をやめる=情報をやめる」ではない
誤解してほしくないのは、「新聞を読むな」と言いたいわけではありません。大切なのは、情報源を多様化することです。新聞はあくまで一つの情報源にすぎず、それを唯一の正解とみなした瞬間、思考は止まります。医療にたとえるなら、“セカンドオピニオンなしの診断”を鵜呑みにするようなもの。新聞の記事もSNS・専門家の発信・学術論文と照らし合わせ、自分の頭で考えることが求められます。
6.医師として実感する「情報の自立」
私自身、以前は毎朝新聞を読んでいました。しかし気づいたのは、新聞は「出来事」を教えてくれるが、「本質」は教えてくれないということです。本当に価値のある情報は、現場の声、研究報告、実体験、あるいは専門家同士の議論の中にあります。
そして最近痛感するのは―新聞を読まない人ほど、自分で考えているという事実です。自ら情報を探し、比較し、吟味する。それが“知的筋トレ”なのです。新聞を手放すことは、受け身の情報生活から自立した知的生活へ移る第一歩だと思います。
7.オールドメディアからの脱却を
医療も情報も、「待つ人」より「取りに行く人」が成果を出します。新聞が悪いわけではなく、問題はそれに依存し、思考を止めてしまうことです。現代社会ではAIがニュースを要約し、個人が発信者になる時代。だからこそ、新聞を信じるのではなく―自分自身が新聞になる。つまり、自分で調べ、考え、発信する。それがこれからの知的生活者の生き方です。
8.結論:新聞脳を脱ぎ捨てよう
・新聞購読率は毎年約7%減少。
・若年層の購読率は3割以下。
・新聞は広告モデルに依存し、情報が偏りやすい。
・“新聞脳”は思考の老化であり、現代との断絶を生む。
新聞をやめるとは、「情報を拒否する」ことではなく、自分の頭で考える生き方へアップデートすることです。脱・新聞脳――それは、時代を正しく読む力を取り戻すことでもあります。あなたの情報生活、そろそろアップデートしてみませんか?

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。