定年は危険!生涯仕事を続けることのメリットを脳神経内科専門医が解説

定年は危険!生涯仕事を続けることのメリットを脳神経内科専門医が解説

医師として、高齢者の方の診察をしていると感じることがあります。何歳になっても、仕事をしている方は、頭も体もとても元気です。そのうえ、認知症になっても、長年従事してきた仕事は、継続できている点も驚きです。「早く引退したい、ハッピーリタイアメントが目標」と言われる方もいますが、脳の専門家としては、とても危険な考え方です。

人間の脳は、常に刺激を受けることで維持されています。安易な引退は脳のためにはなりません。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が人間はいくつになっても引退してはいけない理由を紹介します。

目次

1.定年のリスクとは

定年には、脳の働きから言っても多くのリスクがあります。

1-1.人間には適度なストレスが必要

退職に伴ってもっとも危険なことは、ストレスが減ってしまうことです。ストレスは、健康に悪い印象がありますが、実は、人間には適度なストレスが大事です。ストレスが極端に減ってしまうと、人間の機能は、精神的にも肉体的にも急激に低下してしまいます。仕事をしているときは、休日が楽しみであったのは、毎日の仕事があったからなのです。

1-2.経済的なリスク

定年後に仕事をしないことは、経済的なリスクも負うことになります。少子高齢化の時代、年金制度が存続しても、給付水準が減ることはやむを得ません。そこに、インフレが加われば、さらに年金が目減りをしてしまいます。いずれにせよ、収入の柱が年金だけというのは経済的リスクになるのです。

1-3.家族にも迷惑

今回のコロナ禍によって、ご主人が在宅勤務になっただけで、コロナ離婚が話題になるほどです。定年になって、一緒にいる時間が長くなれば、家族にも迷惑になります。実際、ご主人の定年によって奥さんが、鬱などの病気になる「夫源病」という言葉があるほどなのです。

*夫源病:読んで字のごとく、夫が源(原因)となって、妻の体や心が不調になる病気。 医学的な病名ではなく、石蔵文信・大阪樟蔭女子大学教授が命名

Upset Senior man sitting on sofa against the background of his wife.
定年を機会に夫婦仲が悪くなってしまうことが少なくありません

2.そもそも高齢者とは

あらためて高齢者や定年の定義を確認してみましょう。

2-1.定年は何歳から?

「高年齢者雇用安定法」が2013年4月に改正されました。その結果、希望すれば全員が原則65歳まで継続して働けるようになりました。そのため、企業は、1)定年の廃止 2)定年の引き上げ 3)継続雇用性の導入のいずれかの措置が義務付けられました。

2-2.高齢者の定義を75歳以上に

現在、高齢者とは65歳上と定義されています。しかし、この基準は50年以上の前に定義されたものです。医療の充実などにより平均寿命が当時より大幅に伸びた現在の状況に即していないと思われます。そのため2017年、私も所属している日本老年学会・日本老年医学会は連名で、「高齢者の定義を75歳上にしましょう」と提言しました。

2-3.現在の高齢者は若返っている

実際に日本老年学会・日本老年医学会が、高齢者の心身の老化現象の出現に関するデータを分析したところ、現在の高齢者は、10~20年前に比べ老化現象の出現が、5~10年遅くなっている「若返り現象」がみられています。実際に、昔は、60歳でも随分お年寄りに見えましたが、現在は80歳代でも元気で生き生きしている方がたくさんいらっしゃいます。

3.理想の一日と定年後を比較してみよう

私は、隠れた願望をあぶりだす方法として理想の一日を描いてもらっています。

例えば、若い女性であれば「朝起きて、朝ご飯の準備して、子供と旦那さんを送り出し、自分は仕事に向かう。そして夜は、家族で夕食を囲む」といった願望を描いてもらうと、この中から、「結婚する」、「子供が欲しい」、「仕事をする」という願望があぶりだされるのです。

自分で言えば、「診察前に、トレーニングをして、外来を行う。午後からは、訪問診療、講演、執筆、コンサルなどをして、夜は家族と過ごす」。この中から、「健康でいること」、「外来を続けること」、「クリニック以外の社会とのつながりたい」という願望があぶりだされます。

実際に、多くの人にこの質問を投げかけるのですが、殆どの方が、理想の一日の中に、仕事、もしくは社会との関りが含まれます。これらなしでの、理想の一日を描くことが難しいのではないでしょうか?

4.仕事を続ける効果とは

だからこそ、定年の関係ない仕事をするか、定年後も仕事をする必要あるのです。


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4-1.身体が健康をキープできる

仕事を続けることは、規則正しい生活をして、体を動かしますから、身体が健康になります。

4-2.頭も健康状態でいられる

頭を使わずに仕事はできません。神経は刺激がないとすぐに衰えます。仕事による適度な精神的ストレスが、神経細胞を活性化させます。つまり頭も健康でいられるのです。

4-3.収入が得られる

仕事をすれば、わずかであっても収入が得られます。年金以外に収入があれば、老後に2000万円も貯めなくても生活をすることができます。つまり経済的問題も解決できてしまうのです。

5.実際に元気なお年寄りの仕事とは

私の外来には、高齢者の方でも元気に仕事をされている方がたくさんいらっしゃいます。

5-1.早起きを有効利用されている方

年を取ると、朝の目覚めが早くなります。世の中には、そんな朝の仕事が結構あります。例えば、近所のアウトレットモールは早朝から午前9時までの清掃の仕事はとても人気があるそうです。その他、スーパーなどの開店前の搬入の仕事に取り組まれている方もいます。仕事自体も短時間で、帰宅してからの時間も確保される点が人気の理由のようです。

5-2.美容師さん

私の外来には、80歳を超えた美容師さんがいます。現役でカットをしている方もいらっしゃいます。お客さんも同年齢の方が多く、とても好評のようです。カットはできなくなっても、それ以外のお手伝いを続けられている方もたくさんいます。

5-3.シルバー人材センターで得意分野を紹介してもらう

岐阜県土岐市には、シルバー人材センターがあります。60歳以上で健康で働く意欲のある方は登録して、自分ができる仕事をします。仕事内容は、草刈り、草とり 、植木剪定 、清掃 、大工、ペンキ塗り 、襖、障子、網戸の張り替え、育児支援 など多彩です。

5-4.介護業界にも仕事はある

高齢者は、何も介護を受けるばかりではありません。現在は、65歳以上の方もたくさん、介護の現場で活躍しています。もちろん、力がいるような身体介護は難しいかもしれませんが、介護の現場には、それ以外にも高齢者の方ができる仕事はたくさんあるのです。

5-5.医師でも現役で頑張っている方が

医師は本当に高齢の方がたくさん働いています。地域の医師会でも、80歳を超えて働ている方も何人もいます。中には90歳を超えた方までいらっしゃいます。老人保健施設の顧問の先生などは、入居者さんと同世代の方もいます。いつまでも働くという点で頭が下がりますし、見習いたいものです。

Japanese man working at the iron factory.
少子化の今、シニア世代の活躍が求められています。

6.認知症になっても仕事を続けている例

いくつになっても仕事を続けることは、認知症を予防するだけではありません。長年、仕事に従事していると、認知症になっても仕事を続けることが可能となります。その結果、認知機能が低下していても、職場の戦力になって社会生活が維持されます。私の患者さんから紹介します。

  • フォークリフトの運転は職場で一番の方:認知症により、車の免許は返納しています。しかし、職場の敷地内でのフォークリフトの運転は、誰よりも上手です。
  • 陶器への絵付けの方:私のクリニックの岐阜県土岐市は陶器の名産地です。そのため、陶器に絵付けの仕事があります。中等度の認知機能障害のある患者さんは、物忘れはひどくても、味のある絵付けは職場でも評判です。そのため80歳を過ぎても、会社を辞めさせてもらえません。
  • 職人技:肉屋さんの患者さん。認知機能は、重度に低下しています。そのため、日中はデイサービスで介護を受けていますが、帰宅すると自宅で肉を切る仕事をします。手際の良さと、仕事の丁寧さは誰も真似できないそうです。デイから帰宅して仕事、大変ですが、とても生き生きされています。

7.ハッピーリタイアに対抗して

若い人の中には、早期にリタイアして悠々自適に過ごしたいといわれる方がいらっしゃいます。私は、対抗して、「自分は死ぬまで働きます」と言っています。もちろん、仕事の内容は年齢体力によって変えていく必要があります。

仕事がなければ、お孫さんの世話でも充分です。小学生の通学路の安全のための旗当番も社会の役に立ちます。高齢者の義務は、次の世代のために生きることです。このことは、次の世代のためになるだけでなく、自分のためになるのです。認知症専門医としても、多くの方に一生仕事を続ける気持ちで生活してもらいたいのです。

8.まとめ

  • 人間は適度なストレスがないと、身体・精神両面で衰えてしまいます。
  • 身体精神を維持させるもっとも最適な方法は、仕事を続けることです。
  • 仕事を続けることは、年金以外の収入も得ることで、経済的不安も解消してくれます。
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