【歯科医の方へ】メリットしかない後期高齢者向け歯科診療にシフトしませんか?【老年病専門医が提言】

【歯科医の方へ】メリットしかない後期高齢者向け歯科診療にシフトしませんか?【老年病専門医が提言】

令和2618日当院の敷地内に歯科クリニックがオープンしました。その際に、近隣の歯科の先生から「これから高齢者の患者さんは先生のところでお願いしますね」という言葉をいただきました。高齢者医療に携わる者としては、とても気になる言葉でした。というのも、多くの歯科医の先生には、「高齢者とくに後期高齢者の歯科診療への関心、対応度が低いのでは?」と感じることがあるからです。しかし、実際には後期高齢者向け歯科診療のニーズはかなり高いものがあります。それなのに多くの歯科医の先生が敬遠しているのはなぜでしょうか?

今回の記事では、老年病専門医の長谷川嘉哉が、高齢者、とくに後期高齢者向け歯科診療にはメリットしかない理由をご紹介します。

1.増える後期高齢者、減る後期高齢者の歯科受診

高齢者をひとくくりに考えるのは、本質を見誤る可能性があります。平成20年4月より開始された後期高齢者制度は、当初は非難もされましたが、高齢者医療に携わる者としては、高齢者を前期と後期に分けることにはとても意味があったと感じています。

1-1.後期高齢者とは?

世界保健機構(WHO)では、65歳以上の人のことを高齢者としており、 65〜74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と呼んでいます。日本の後期高齢者制度もWHOと同じく65〜74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と定義しています。

1-2.後期高齢者は要介護率が一気に上昇する

公的介護保険による要介護率は、75歳前後で大きく変わります。65歳から74歳までの前期高齢者では、介護が必要な方は4%しかいません。しかし、75歳を超えると、介護が必要になる割合が30%にまで増えるのです。多くの方がイメージする「高齢になっても元気な方」の多くは、75歳未満であることが多いのです。

以下の表は、世代別にクリニックを受診する人数の数を示したものです。

Number of patients
世代別のクリニック受療率・厚生労働省第4回歯科医師の資質向上等に関する検討会資料より

1-3.歯科受診のピークは75歳まで

一般診療所、病院、歯科診療所のをみると、45歳ごろから、いずれも外来受療率が上昇しています。そして、75歳を超えると、一般診療所と病院の受療率は急激に上昇します。しかし、一方で、歯科診療所の受療率は下降してしまうのです。つまり、75歳を超えると、歯科より医科の受診が優先されるようです。一因としては、75歳を超えた後期高齢者の要介護率の増加も考えられます。介護が必要になると、歯科受診にまで手が回らないのかもしれません。

2.現状の歯科の集客戦略とは

私は、「認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ 歯を守りなさい! 」を出版してから、多くの歯科医の先生と知り合いになりました。そこで感じることは、多くの歯科医の先生の意識は、若い患者さんに偏っていることです。

新規開業の内覧会などでは、子供さんが喜ぶようなイベントで集客して予約をしてもらいます。その後に、子供さんの親御さんにも患者さんになっていただく、いずれもとても若い世代が中心です。そのため、子供さん向けの遊具施設なども設置されており、高齢者をあまり意識されていないようです。

そもそも歯科医の先生に話を聞くと、一人で受診できないような後期高齢者の診察に慣れていない方もいらっしゃるようです。そのため、「認知症の患者さんの歯科治療は難しい?」などと無用な心配をしてしまいます。私の患者さんでも、歯科医で予約の際に、認知症と言ったら断られた患者さんもいらっしゃいます。認知症専門医としては、「歯科治療において面倒をかけたり抵抗するような認知症患者さんはほとんどいない」ことを知ってほしいものです。

拙著:認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ 歯を守りなさい! Kindle版(Amazon紹介ページ

3.現状の歯科は高齢者が通いにくい、とは

街中を見ていると、高齢者が通いにくいような歯科診療所も目につきます。

3-1.バリアフリーになっていない

そもそも、エレベーターのない2階の診療所は、高齢者は通いにくいです。さらにバリアフリーでない歯科診療所が多い点も気になります。患者さんのサービス面では歯科の先生のほうが優れていますが、バリアフリーに関しては医科のほうが進んでいるようです。

3-2.子供や若い人向けのデザイン、設備

歯科診療所は、とてもデザインにも凝っています。しかし、どこか若い人を中心としており、高齢者には場違いな印象を与えるかもしれません。もう少し高齢者も意識した設計も加えてもらいたいものです。

3-3.訪問歯科にも非積極的

以前、講演の後の質問で、「歯科医は、訪問診療をするよりも診療所で診療をしたほうが売り上げが上がる。そんな歯科医にどうやって訪問診療に取り組んでもらえますか?」という質問を受けて驚いたことがあります。我々、医師が訪問診療をするのは、売上が目的ではありません。受診できない患者さんがいるから、訪問診療をするのです。売り上げは、あくまで二の次なのです。

Useful for dentists and dental hygienists
車椅子でも気軽に入っていける作りになっているでしょうか

4.後期高齢者向け歯科のメリットとは

当院に併設している歯科診療所には、後期高齢者の患者さんがたくさん受診していただいていますが、以下のようなメリットがあると早速感じています。

  • 継続してくれる:後期高齢者の方は、継続受診してくれます。治療が終わってからも、殆どの方が定期的なメンテナンスが必要になるからです。
  • 付き添いの介護者も一緒に受診:多くの後期高齢者の方は、介護者の付き添いが必要です。歯科治療やメンテナンスの重要性をわかってもらえれば、一緒に受診してくれるケースがとても増えています。介護者さんもわざわざ時間を作って、自分のためだけに予約を取って歯科に行くことは大変だったのです。
  • 予約キャンセルが少ない:若い患者さんは、急用で予約のキャンセルが一定数発生します。後期高齢者の患者さんは、病気等の入院がない限り、殆どの方が予約どおりに来院してくれます。
  • 医療費は1割負担:後期高齢者の方の医療費負担は1割です。そのため、自己負担が少なく受診いただくことが可能です。
  • 自費診療にも抵抗が少ない:後期高齢者になっても歯科受診を希望される方は、歯科への意識がとっても高いです。そのため、有効性を理解いただければ、積極的に自費診療を希望されます。

5.医科クリニックに歯科医を併設してわかったこと

敷地内に歯科診療所を開設して分かったことがあります。

5-1.かかりつけ歯科医からの転院はほとんどない

近所の歯科診療所の方からは、「すでにこちらに通っている患者さんを、大量に奪ってしまうのでは?」と心配されました。しかし、かかりつけ歯科医がある患者さんは、殆ど転院されませんでした。やはり、長年の信頼感が構築されているようです。

-2.患者さんからの要望

敷地内の歯科診療所に受診される患者さんは、転院でなく、本当は歯科診療所に受診したかったが、受診できなかった人が殆どです。ある意味、新たに、患者さんの要望に応えた形なのです。

5-3.多くの患者さんから感謝される

正直、いくつになっても歯科診療所にはかかりたくないものです。しかし、敷地内診療所は、多くの患者さんから「ようやく歯科にかかることができた」と感謝の言葉をいただけます。そして、受診できなくなっても、訪問歯科診療で対応することで、さらなる安心感を提供することができるのです。

6.まとめ

  • 医科に比べ、歯科受診は、後期高齢者になると、受療率が減少します。
  • 歯科診療所は、高い人をターゲットとしていますが、後期高齢者ほど、歯科診療が必要です。
  • 後期高齢者に向けた歯科診療は、診療所にも多くのメリットをもたらします。
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