速報!認知症新薬レカネマブは使えない!?

速報!認知症新薬レカネマブは使えない!?

アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」(商品名レケンビ)は、アルツハイマー病の原因たんぱく質の一つ「アミロイドβ(Aβ)」を取り除き、病気の進行を抑える初めての薬として2023年9 月25日に 承認されました。承認から遅くとも90日以内に公定価格の薬価が決まり、年末までに公的医療保険で使えるようになる見込みです。当院には、早速できたてほやほやの添付文書が届けられたので、熟読させていただきました。結論としては、認知症専門医の長谷川としては、「使えない?」という結論になりました。

1.症状が軽い人にしか使えない

効能、つまりこの薬の効果は、「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」です。つまり進行してしまえば適応でなくなります。ちなみに「本剤は疾患の進行を完全に停止、または疾患を治癒させるものではない」とも明記されています。

1-1.治験結果も少し強引?

そもそも「レカネマブ」という薬自体、アルツハイマー認知症の治験では十分な効果がなかったため、データを見直して「軽度の人なら効果ある」という結論を強引に導き出して今回の承認を得たのです。

1-2.具体的な患者さんは1-2割?

具体的にはMMSEは22点から30点とされています。最近は、「認知症も早期受診が大事」という情報が広まったおかげで、早めに受診される方が増えています。しかし、それでも初診の段階で、MMSEが22点から30点の方は、当院でも1~2割程度しかいらっしゃいません。特に何とかしてあげたいと感じる65歳未満発症の若年性アルツハイマーの方は初診の段階でほぼMMSEが21点以下のケースが大半です。

1-3.現在、抗認知症薬を服薬している人は?

併用している抗認知症薬については、従来の抗認知症薬のアリセプト、レミニール、リバスタッチパッチを使用している人は適応になりますが、メマリーは中等度以上に限定されているので、メマリーを使用している人は適応外となります。ただし、アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチを使用している人で、MMSEが22点から30点に収まっている人もかなり限定されます。

2.アミロイドの蓄積が確認されないと使えない?

アルツハイマー病と診断されて、MMSEが22点から30点なら誰でも使用できるわけではありません。さらに以下の検査でアミロイドの蓄積が疑われる所見が確認された場合しか使用することはできません。

2-1.脳脊髄液検査

腰から髄液を抜く検査です。患者さんが若い場合は、難しい検査ではありません。しかし、高齢になると腰椎の変形が強くなり、手技も難しくなり、血管を傷つけて血液が混ざってしまうリスクが高くなります。そうなると正しい判断はできなくなります。

2-2.アミロイドPET

この検査は、薬剤を注入して画像を撮影するだけですから負担は少ないのです、PET検査ができる施設は限られています。そのうえ、検査代が30〜40万円必要になります。現在、この検査代についても、保険で賄えるよう働きかけているようですが、令和5年9月の段階で不明です。

2-3.症状がなければ所見があっても使えない

最近では自費の検診でPET検査をする施設もあります。そこで、アミロイドの蓄積が認められても認知症の症状がなければ使用できません。つまり、「レカネマブ」(商品名レケンビ)は症状があってもアミロイドの蓄積がなければ使えなく、症状がなければアミロイドの蓄積があっても使えないのです。

3.副作用のために使えない・・MRI検査も大変

「レカネマブ」(商品名レケンビ)には以下のような副作用がみられます

3-1.アミロイド関連画像異常(ARIA)

MRI上の画像異常として

  • ARIA-E:浮腫/浸出液貯留が、プラセボに比し18倍認められます
  • ARIA-H:脳微小出血・脳表ヘモジデリン沈着がプラセボに比し約3倍認められます

3-2.ARIAによって継続中止も

  • MRI画像上、軽度もしくは無症候性にARIA-EやARIA-Hが認められた場合は、慎重に臨床評価をして投与の継続を検討が必要になります。
  • MRI画像上、中等度から重度のARIA-Eが認められた場合は、画像所見が消失するまでは投与を一時中断、MRI上1cmを超える脳出血及び中等度から重度のARIA-Hが認められた場合は投与を一時中断することになります。
  • 画像所見の程度に関わらず、症状がある場合は、症状が消失して、画像所見の消失まで投与を一時中断することになります。

3-3.頻回なMRI検査が必須

使用後は、副作用の把握のため、MRIの検査が必須になります。プラセボに比し、ARIA-Eが18倍、ARIA-Hが約3倍の副作用はかなり注意を要すると思われます。

4.本当に使いたいAPOEフェノタイプの4の保因者に使えない!

今回の添付文書でいきなり認知症のリスク遺伝子である、APOEフェノタイプの関連が言及されていました。実はブレイングループではAPOEフェノタイプの因子4が認知症の程度に関連することを経験していました。詳しくは以下の記事も参考になさってください。


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これらの経験から認知症の進行が早くなるAPOEの因子4を持つ人にこそ「レカネマブ」(商品名レケンビ)を使うべきと考えていました。

しかし、APOEの因子4を持つ人ほど、副作用のリスクが高くなる結果が添付文書に記載されたのです。

なんと、4の因子を持たない場合に比べ

・APOEの4を一つ持つ場合はARIA-Eが2倍、ARIA-Hが1.2 倍

・APOEの4を2つ持つ場合はARIA-E:が6 倍、ARIA-Hが3.5倍

増加すると書かれています。

ただでさえ、プラセボに比べ副作用が多いと思われていたのに、4の因子をもつとさらにリスクが上がるのです。特に、進行が急激であるAPOEの4を2つ持つケースのARIA-Eが6倍、ARIA-Hが3.5倍では使用はとても危険と考えます。

5.適切な知識を有する医師が限定されて使えない

「レカネマブ」(商品名レケンビ)の使用には、学会の専門医であることが求められるようです。

なお、まだ決定ではありませんが、今のところ以下の6学会が有力なようです。要するに、脳神経内科および精神科の先生が中心になりそうです。これはかなり使用できる医師が限定されることになります。確かに今回紹介した、内容を理解するのは専門外の先生方には難しいと思われます。

  • 日本神経学会
  • 日本神経治療学会
  • 日本精神神経学会
  • 日本認知症学会
  • 日本老年医学会
  • 日本老年精神医学会

6.まとめ

  • エーザイの新薬が使用できる患者さんは軽度認知症の段階であり、若年性アルツハイマーの方の多くは初診時にはその基準より進行しているため適応外の可能性が高いです。
  • 使用ができると判断されても、多くの検査をして結果的に使用できないケースも想像できます。
  • ブレイングループでは、特にAPOE4の因子の方に持つ人に使いたかったのですが、副作用のリスクが高くなるため使用は困難です。
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