特別養護老人ホーム(以下、特養)は、介護保険が使えて費用が安く抑えられるなどのメリットがあり、多くの方が希望される公的施設です。
自宅での介護が不可能になったご家族が、最終的に患者さんの入所を希望される際の第一選択肢といえるでしょう。人気があるために、特養は一時、入所に3年待ちと言われていました。しかし最近、地方では待機期間も短縮化しています。
では単純に「自宅で看られなくなったから、特養」というスタンスで良いのでしょうか。
実は、特養の入所に向く方と、向かない方がいらっしゃいます。向かない方は特養以外にどういった選択肢があるのでしょうか。ここをしっかり理解してから入所を申し込みましょう。
今回は認知症専門医でケアマネジャー資格もある長谷川嘉哉が特養の概略と向く人向かない人のタイプ分けについて解説致します。「そろそろ特養かな……」とお考えの方はぜひ参考になさってください。
目次
1.特別養護老人ホームとは?
まず特養の概略についてご説明します。
1−1.精神的・経済的負担の軽減が得られる
特養は、日常生活を営むのに介護が必要な方のための入居型介護施設です。介護保険法では介護老人福祉施設と呼ばれており、介護保険が適用されるサービスと定められています。
ところで、「特別」とついていますが、何が特別なのでしょうか? この場合の「特別」とは、「特別な養護を必要とする高齢者のための福祉施設」という意味です。具体的には介護を必要とする65歳以上の方または、特定疾病により介護を必要とする40~64歳までの方で、要介護度3以上の方が入居対象です。
1–2.メリット
入居一時金が不要で利用料も安いことと、重い介護度の高齢者が主対象で、その対応に習熟していることが最大のメリットといえます。
1−3.安定した運営主体
特養の経営は、地方自治体か社会福祉法人に限られ、公共性と高齢者の生活環境を維持するために税制面で優遇されるなど、安定した経営のための措置が取られています。家族や患者さんにとっては毎月の費用が安く抑えられるにも関わらず、施設が倒産するリスクがほとんどないといえます。
2.メリットをさらに詳しく解説
特養の魅力についてもう少し詳しく解説致します。
2-1.費用が安い・・魅力ある減免制度
特養の最大のポイントは、何と言っても利用料の安さです。入居一時金も不要で、他の介護施設より費用が抑えられます。公的な介護保険施設である特養では、特定入所者介護サービス費制度を使うことで、所得に応じて自己負担を軽減することができるのです。
同様に介護保険が使える施設はほかに、介護老人保健施設(老健)と療養型病床群があります。
*特定入所者介護サービス費:介護施設利用の際の「食費」と「居住費」の負担については全額利用者の負担となります。そのため、所得の少ない人の介護施設利用が困難とならないように、所得に応じた負担限度額を設けることにより、サービス利用者の「負担の軽減」を図ります。
3-2.重度の身体介護にも対応が可能
特養では、自宅では介護できない要介護度の要介護者でも、全面的に託すことができます。特養が行うサービスは、食事の提供、掃除・洗濯をはじめとする生活援助から、介護・看護職員による入浴、食事、排泄などの介助など多岐にわたります。自宅で介護生活が送れない高齢者が必要とするサービスはすべて提供されます。
また設備自体も、重度介護に対応できるような人員・設備になっているのです。入浴も機械浴が整備され、自力で湯船に入れなくても対応が可能です。例えばグループホームなどでは入浴施設は一般住宅仕様のものです。そのため、自力で湯船に入れなくなると対応ができなくなります。
3-3.長期入所が可能
基本的に途中で退去する必要性が低く“終の棲家”として長期的に託すことができます。また、協力医の協力が得られれば、看取りもお願いできます。
4.デメリット
費用面や重介護の対応などのメリットのある特養ですがデメリットもあります。
4-1.介護度3以上しか入れない
2015年の介護保険改正で、特養の入所条件が「要介護1以上」から「要介護3以上」に限定されました。重度でありながら自宅待機を余儀なくされている人への利用機会を増やすためです。これにより、特養は「より重度の人のために施設」になりました。一方で、介護度3未満では入所どころか申込さえ受け付けてもらえなくなったのです。介護3未満の方の施設選びについては、以下の記事も参照してみてください。
4-2.認知症の方には向かない
重介護には、大きく「身体介護」と「認知症介護」に分けられます。特養の体制は、身体介護に向いているのですが、認知症介護には向いていません。特に、運動機能が維持されていて徘徊するような認知症の利用者さんへの対応は困難です。
理想をいえば、運動機能が維持されている状態ではグループホームで対応。徐々に運動機能も低下してきて身体介護が主になった時点で、特養に移動することができると良いでしょう。
4-3.医学的処置を必要とする要介護者には向かない
医師も常勤でなく、ほとんどが非常勤で週に1〜2回の診察程度です。看護体制も「看護師3人で利用者100人を看る」環境であることは認識しておくべきでしょう。
老衰のように、徐々に弱っていくようなケースでは、特養での看取りも可能です。しかし、肺炎を繰りかえすために吸痰が必要な場合や、尿バルーンの管理をしなければならない患者さんなど一定以上の医学的処置が必要な場合は退所となることがあります。
5.施設側の事情
経営面では安定している特養ですが、スタッフの負担などを考えると、特養には特養の事情があるようです。
5-1.大変な重介護
夜勤を担当する介護職員の一般的な配置人数が以下です。
施設種別 | 一般的な配置人数 |
特養 | 利用者25人につき、1名以上配置 |
老健 | 利用者20人につき、1名以上配置 |
グループホーム | 利用者9人につき、1名以上配置 |
小規模多機能ホーム | 利用者9人につき、1名以上配置 |
つまり、夜間帯に職員一人で25名のおむつ交換をすることもあるのです。これは、相当な重労働であることがご理解いただけるでしょう。
5-2.できれば介護度4以上を引き受けたい
同じ人数を看るならば、介護度が重いほうが介護報酬が多くなります。そのため、介護度3以上が入所条件でも、本音は介護度4以上を看たいようです。
最近は、介護度認定がどんどん厳しくなっています。ようやく介護度が3以上になったと思っても、入所に際しては4以上の方が優先されるようです。
介護認定の実情については以下の記事を参考になさってください。
5-3.さらにできれば、寝たきりが…
私の地元の特養の一つは、「ベッド上の寝たきりしか入所できません」と公言していました。確かに、認知症で動き回る利用者さんの介護は大変です。しかし、家族も本当に困っているのが、動き回る認知症患者さんです。特養でも何とか対応してもらえるとありがたいのですが・・
6.特養の現状とは
特養は、全国に6,500施設以上があるのですが、入所待機者は50万人を超えるといわれており、土地によっては入所までに1~5年程度の待機期間が必要になるケースが多いようです。
6-1.地方では入所待機時間が短縮
特養に介護度3以上の方しか入居できなくなったということは、単純に言えば、待機者が6割に減ったことになります。そのうえ、入居する人は重介護を要する人ばかりですから、数年以内に亡くなる方も多くなります。
そのため私の地元では、特養の待機は6か月程度に短縮化されています。先ほど、「寝たきりしか入所できない」と言っていた特養も、最近では、寝たきり以外の方も入所できているようです。
しかも、印象としては介護度3以上の方について、老健と取り合っている印象さえある感じがします。
介護老人保健施設については、以下の記事を参考になさってください。
6-2.建物ができても働く人がいない
厚生労働省は今後も、特養を積極的に整備する計画です。しかし、最近では特養がオープンしても、いきなり定員分が稼働されることは難しいようです。理由は、介護職員不足です。せっかく建物が完成しても、国の基準を満たす職員を確保できなければ、定員いっぱいまで受け入れることができないのです。
特養の建築よりも、多くの人が介護現場で働いてくれるような環境整備が重要かもしれません。
6-3.将来的には、特養・老健とグループホームが残る
現在は、公的な入所施設として特養、老健。民間の入所施設として、グループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅など乱立しています。しかし、団塊世代が亡くなって高齢者人口も減った際は、費用が安くて介護体制が充実している特養と老健とグループホームだけが生き残るような気がします。費用が高くて、介護力も弱い有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅が生き残る理由が考えられないのです。
7.まとめ
- 費用面や体制からも重介護者には特養は理想です。
- 一方で、運動機能が維持されている認知症患者さんや、一定の医学的処置が必要な方には向きません。
- 地方では、特養待機も短縮傾向です。建物の建築よりも、介護職の確保が先決です。