認知症患者さんは、病気の進行とともに、ちょっとしたことで怒りやすくなります。その時に、特定の言葉に反応することが多いため、患者さんのご家族が、「まるで『地雷言葉』ですね」と言われました。「地雷言葉」とは医学用語ではありませんが、とても的を得ているので、私の外来では、使わせていただいています。
今回の記事では毎月1,000名の認知症患者を診察している長谷川嘉哉が、認知症患者さんに易怒性(いどせい)を誘発する「地雷言葉」についてご紹介します。
目次
1.地雷言葉とは?
地雷言葉とは、認知症患者さんが突然怒り出す状態を引き起こす言葉のことです。今まで機嫌よく喋っていたのに突然、怒り出します。その状況は、まるで地雷を踏んだように突然であるため、このような言葉が「地雷言葉」と名付けられました。
2.具体的な地雷言葉
実は、地雷言葉は以下の3つであることが大部分です。参考になさってください。
2-1.お金の話
お金の話で、急に地雷を踏むことが最も多いです。通帳や財産管理を子供さんに任せたにも関わらず、突然、「私の通帳はどこ行った!」「○○が勝手に私の財産を管理している!」などと言い始めます。特に、「年金」という言葉で「お金」を連想することが多いため、注意が必要です。
2-2.子育て
これは女性に多いのですが、「子育て」の話から、「私の旦那は、子育てのときに全く助けてくれなかった」と執拗に文句を言い始めます。一度始まると、何度も何度も毎日毎日です。ご主人にしてみれば、数十年前のことを急に責められても困り果ててしまいます。
2-3.昔の浮気
これも女性に多いのですが、突然「浮気」の話から「私の旦那は、昔浮気をした」と文句を言い始めます。実は、この対応には注意が必要です。多くのご主人は、「自分は過去に浮気などはしていない」と否定します。しかし、中には「昔は浮気をしたが、今はしていない」などど白状してしまう人がいる。そうなると、地雷言葉が爆弾言葉にまで拡大してしまいます。あくまでも事実の有無に関係なく、浮気は否定してください。
3.地雷言葉でなぜ怒る?
認知症の患者さんは、以下の2点を原因として地雷言葉で怒り出すと考えています。
3-1.前頭葉機能低下
認知症の患者さんに見られる記憶力の低下は、側頭葉機能の低下により引き起こされます。認知症の場合は、その側頭葉機能低下の前に、必ず前頭葉の機能が低下しています。
ちなみに前頭葉機能とは、倫理的に思考し、理性をコントロールする働きを持っています。そのため、前頭葉機能が低下している認知症患者さんは、話の流れが十分理解できず、地雷言葉を聞くと感情のコントロールが出来ずに突然怒り出すのです。
3-2.認知症の周辺症状
認知症は、初期では記憶力の低下を中心とする中核症状が出現します。しかし、症状が進行すると周辺症状が出現します。周辺症状の一つに、易怒性といった怒りやすさが出現するのです。なお、元々穏やかな性格であった人が、怒りっぽくなるといった症状も「性格変化」といって周辺症状の一つになります。なお、周辺症状については以下も参考になさってください。
4.対応策
地雷言葉を踏まないためには、家族で注意をすることが大事です。そして、常日頃から「地雷言葉」を避けるようにすることが大事です。しかし、テレビで年金の話などが出ることがあります。そんな時は、何気なく話題を変えるような工夫が必要です。
5.あまりにひどければ薬物治療も
地雷言葉による易怒性があまりにひどい場合は、薬の力も借ります。
5-1.メマリー
周辺症状としての易怒性が強い場合は、メマリーが第一選択となります。『先生、本当に穏やかになりました。』と感謝されたことは1,000例以上で経験しています。詳細は以下の記事も参考になさってください。
5-2.抑肝散
メマリーほどではありませんが、抑肝散は漢方ですがとてもよく効きます。使い方は、メマリーを使う前に使用するケースと、メマリーに追加する2つのケースがあります。服薬後2週間程度で効果が出現します。詳細は以下の記事も参考になさってください。
5-3.抗精神病薬
メマリーや抑肝散を使ってもどうしてもブレーキ効果がなく、易怒性が残る場合は、抗精神病薬を使用します。具体的には、リスパダール、セロクエル、エビリファイと言った薬です。
これらの薬の保険適応病名は、統合失調症ですからアルツハイマー型認知症の方には保険適応外になります。これらの薬をごく少量、0.5錠から1錠程度を加えると、劇的に効果があります。
6.まとめ
- 認知症患者さんが、特定の言葉に反応して突然おこりだす言葉を地雷言葉といいます。
- 地雷言葉で最も多いのは、お金に関する話題です。
- 日常では、できるだけ地雷言葉を避け、あまりにひどい場合は薬物治療も行います。