【お薦め本の紹介】91歳5か月 いま想うあの人 あのこと by 岸惠子

【お薦め本の紹介】91歳5か月 いま想うあの人 あのこと by 岸惠子

この本を読むまでは、岸恵子さんが、六十七年もの昔に、二十四歳という若さで、スターという地位を捨て、祖国ニッポンも、両親も、映画も、愛したもののすべてを捨てて、フランスの医師であり演出家でもあったイヴ・シァンピさんと結婚されたことを知りませんでした。

本の中では、自分たちから見ると歴史上?の有名人と言える人たちとの交流が生き生きと紹介されています。

  • 佳い過去も、そうではない過去も、無意識のうちに消滅させることの、私は天才的な技を持っていた。
  • その人らしく変化するものを、「裏切り」と取ることも、「浄化する友情」と取ることも、自由である。それは受け取る側の心の 斟酌 ではないかと思う。
  • 夫と離婚した時、日本の法律は父親だったらくれた日本国籍を、私が母親であったため娘には拒絶された。こんな理不尽かつ女性蔑視の法律が堂々とまかり通っていたのである。
  • 世間を騒がせた池袋暴走事故の当時八十七歳の加害者は、かつて高い要職について受勲したこともあるという。彼の悲劇は老いて劣化する自身の能力を自覚する能力がなく、それを指摘してくれる身の周りにも恵まれていなかった。不幸なことと私は思う。
  • この世界で私を「おねえさん」と呼んだ人は二人。天才歌手の美空ひばりさんとショーケンだけだった。
  • 政治家が何人愛人を持とうが、国のためにいい政治をやってくれればいいのさ。やれ、愛人だとか不倫だとか騒ぎ立てるなんざ野蛮で、だいいち 粋 じゃねえよ
  • フランスのマスコミが絶賛したその中曽根元首相の快挙を、私が知る限り、日本の新聞は一行も書かなかった。パリ在住の日本特派員のほとんどが揃っていただろうに……。
  • 私は、中曽根さんの深い教養と、それを大衆に何気なく、分かり易く流布できる大天才ぶりに遅まきながら感じ入っていた。
  • 私の最後になった映画といえば『雪国』。
  • 「体の機械が壊れれば、西洋医学が完璧に治すことが出来るけれど、後遺症や、そのほかにもいろいろ西洋医学では手に負えない不都合を治せるのは東洋医学です」
  • それを強調せず、「近所に整体とか、 骨接ぎの名人がいませんか?」と言ってくれる西洋医学の名医がいることに感動したのだった。
  • 一〇〇年も生きるのは健康が何より。健康はまず笑顔。笑っているところに不幸は来ないでしょ
  • 大盛況だった『大鹿村騒動記』封切りの三日後、七十一歳の原田さんは死去された。
  • 松竹に、ビルを建てたほどの収益をもたらした『君の名は』でさえ正確には憶えていないけれど、三十万円ぐらいだったと思う。
  • 「にんじんくらぶ」を設立した途端に、何も請求していないのにギャラが百万円になって吃驚した。日仏合作映画の時は、その六倍になった。
  • 佐田さんは、自家用車の後部座席で脚本を読んでいる時に、運転手さんの一瞬の不注意で事故に遭った。そしてあまりにも若く素敵だった佐田啓二さんは三十七歳で亡くなった。
  • 中井貴一さんはご両親にそっくり。眼は佐田さん、顔の下半分は益子さんを思わせた。
  • 「役作り」は本人の培養された感性に頼るものだと思いたい。
  • 再放送される度に観ている映画に『壬生義士伝』がある。 佐藤浩市さんも切れのある姿で素敵だったが、中井貴一さんが素晴らしかった。この二人を見るとつい、我が子のように 愛 おしくなる。迷惑かも知れないと思いながら……。
  • 私が知っている力道山は、暴力とは無縁の、いい笑顔が 弾ける素敵な男性だった。
  • 「惠子さん、授賞式に来てくれますか?」 川端康成先生からパリへ電話を頂いたのは二週間ほど前。日本の作家がノーベル文学賞を受賞するのは初めてのことだった。
  • 老いの足取りについて語りたい。  私は今現在、九十一歳四ヵ月半。辛うじて生き永らえている。
  • 日本語の読み書きが出来ない娘と、相続のあれこれをしなければならないことは憂鬱だけれど。
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