認知症の患者さんに対する処方薬は、多くなる傾向があります。理由は、認知機能が低下してくると“大げさに”になるからです。例えば皆さんが、お腹が痛くなったとします。その時に、過去の記憶を思い出しながら、“これは便が出る前の痛み?”“食べ過ぎた時の痛み?”“お腹の筋肉の痛み?”などと判断します。時に、今まで経験したことがないような激烈な痛みであれば、病院を受診する判断をします。
しかし、認知症患者さんの場合、過去の記憶との照合が不確かになります。その結果、痛いと感じれば、それを大げさに“痛い”と表現します。ある意味、子供の用です。時に、『お腹が痛い!!』といって、大騒ぎをして受診。『○○さん、どこが痛いですか?』というと、『どこも痛くないよ』とケロッとしていることもあります。
万事この調子で、認知症患者さんは、お腹が気持ち悪い、風邪気味だ、夜眠れない、便が出ない等々を訴えます。それに対して、専門外の医師は、訴えに応じて処方してしまいます。その結果、服薬管理も不十分なまま、処方薬が余ってしまうのです。
私の外来では、認知症患者さんが症状を訴えた場合、まずはお伺いします。しかし、とりあえずは処方せずに様子をみます。そして次の診察でも、同じ症状を訴えた場合にのみ対応するようにしています。ほとんどのケースでは、次回にも訴えられることはありません。但し、認知症患者さんの、うつ症状の合併には注意が必要です。多くの場合は、精神的な訴えより身体症状を訴えます。そのため対処療法より、時に抗うつ剤の処方が著効することも結構あります。私の経験では、認知症患者さんの2-3割がうつ症状を合併します。