認知症治療の新星「ジンジパイン阻害薬」は特効薬ではないが重要と考えられる理由

認知症治療の新星「ジンジパイン阻害薬」は特効薬ではないが重要と考えられる理由

最近特定の歯周病菌が分泌するタンパク質分解酵素(以下:ジンジパイン)がアルツハイマー型認知症の発症・進行に関与しているという研究結果が明らかになりました。その結果、ジンジパインの働きを阻害する薬が認知症の発症を予防する可能性が示唆されています。

私は、毎月1000名以上の認知症患者さんを診察治療しています。その経験から言うと、残念ながら「ジンジパイン阻害薬は認知症のすべてを治療することはできない」と考えます。しかし、だからといって歯周病の治療自体が認知症に対して無意味であるとも考えていません。

つまり、歯周病菌の一つであるジンジパインの働きを阻害する治療薬はそれほどの効果がなくても、歯周病の治療自体は認知症予防に重要であるのです。今回の記事では、その相反する理由についてご紹介します。

目次

1.ジンジパインが認知症の原因とする研究発表とは?

ジンジパイン阻害薬のアルツハイマー型認知症に対する治療効果に対しては以下の報告がされています。

九州大学は歯周病の原因菌の一つであるPorphyromonas gingivalis(以下PG菌)の出す歯周組織破壊酵素ジンジパインが、ミクログリアの移動ならびに炎症反応を引き起こすことを突止めたと発表した。Pg菌はアルツハイマー病患者の脳内に検出され、歯周病重症度と認知症重症度が比例することが報告され、歯周病はアルツハイマー型認知症の増悪因子と考えられるようになっている。そのため、ジンジパインの働きを阻害する薬による、アルツハイマー型認知症への治療が期待されている。(出典:WHITE CROSS

2.認知症の原因は単一でない

日々の診療で感じることは認知症の原因は単一ではないことです。医療の歴史では、例えば、結核の原因は結核菌。結核菌を退治できれば結核自体を治療することができます。しかし、認知症の原因は多岐にわたります。同じ認知症であっても、多くの原因がそれぞれに組み合わさって発症しているのです。

3.認知症の原因は千差万別とは

認知症の原因は30種類以上の原因が絡まっています。以下に代表的なものをご紹介しますが、歯周病はそのうちの一つです。したがって、歯周病菌の一部であるPG菌が分泌するジンジパインに対する阻害薬を使用しても、それが原因である一部の認知症患者さんにしか効果がないのです。

  • 遺伝子
  • 生活習慣(運動・飲酒・喫煙・人との繋がり)
  • 合併症(糖尿病、高血圧、脂質代謝異常、難聴)
  • 歯周病菌
  • 腸内細菌
  • 金属

4.ただし、歯周病は多くの認知症の原因に関与

すべての認知症患者さんの原因は歯周病菌ではないためジンジパイン阻害薬の治療効果は、限定的と考えています。しかし、歯周病の治療自体は、間違いなく認知症を予防すると考えます。


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4-1.歯が残る

歯周病を予防することで、歯を残すことができます。歯が残ることで、食べられるものでなく必要なものを摂取することができます。さらに、噛むことにより脳の血流も増えることで認知症を予防します。

4-2.循環器疾患の予防

歯周病は、虚血性心疾患や脳血管障害を引き起こします。これらの循環器疾患は認知症の原因となるため、間接的に認知症の予防につながります。

4-3.糖尿病の予防

歯周病の予防は、糖尿病の予防につながることは糖尿病学会でも認められていることです。糖尿病はアルツハイマー型認知症と血管性認知症のいずれの原因にもなります。歯周病を予防することは糖尿病が原因になる認知症を予防することにつながるのです。以下の記事も参考になさってください。

4-4.口腔内は生きざまの集大成

当院では、多くの方に定期的に歯科受診をしてもらっています。そこで感じることは、「口腔内は生きざまの集大成」であることです。口腔内のケアがきちんとされている人は、生活習慣も整っています。結果、認知症が予防され健康である方が多いようです。歯科受診を勧めても受診されない方は、暴飲暴食・飲酒・喫煙・運動不足といった悪習慣の方が多いようです。

5.認知症治療はオーダーメード

私個人としては、一種類の特効薬が出現して、認知症が完全に治る日は来ないのではないかと思っています。特効薬ではなく、患者さん一人一人の原因をチェックして、それぞれに対するオーダーメードの治療が必要なのです。その中で、歯周病がひどい人に対してのみ、ジンジパイン阻害薬を使用するような時代が来るのかもしれません。ただし、歯周病がひどい人は、他の合併症も多いため治療効果が上がらない可能性も感じています。

6.まとめ

  • アルツハイマー型認知症は単一の原因でなく、いくつもの要素が絡み合って発症します。
  • したがって、ジンジパイン阻害薬の治療効果は限定的になると思われます。
  • ただし歯周病を予防すること自体は、多くの認知症の要因を改善するため重要です。
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