【お薦め本の紹介】『暗幕のゲルニカ』by 原田マハ

【お薦め本の紹介】『暗幕のゲルニカ』by 原田マハ

原田マハさんの『暗幕のゲルニカ』を読みました。私は絵画鑑賞が趣味なので、美術を題材にした小説にはもともと惹かれます。しかし本作は、単なる「名画をめぐる物語」ではありません。ピカソの代表作〈ゲルニカ〉を軸に、スペイン内戦、第二次世界大戦、9・11後のアメリカ、そしてイラク戦争へとつながる歴史が描かれ、そこにアート界の駆け引きやサスペンスが重なっていきます。

読んでいるうちに、絵画について学んでいるのか、歴史小説を読んでいるのか、それともサスペンスを楽しんでいるのか分からなくなるほどです。そして気がつけばページをめくる手が止まらず、一気に読み終えてしまいました。まさに「原田マハマジック」です。

目次

第1章 〈ゲルニカ〉は、なぜこれほど人の心を揺さぶるのか

〈ゲルニカ〉は、1937年、スペイン内戦の最中に起きたゲルニカ爆撃を受けてピカソが描いた巨大な作品です。本書を読むと、この有名な絵が単に美術史上の傑作として存在しているのではなく、「戦争とは何か」を問い続ける作品であることがよく分かります。

冒頭に掲げられるピカソの言葉、「芸術は、飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ。」この一文が、作品全体を貫いています。私たちは美術館に行くと、つい構図や色彩、技法、作家の生涯などに目を向けます。しかし〈ゲルニカ〉は、それだけではありません。

戦争によって苦しむ人間の姿を描き、「二度と同じことを繰り返してはいけない」と見る者に訴え続けています。作中には、〈ゲルニカ〉がスペインに民主主義が戻るまでアメリカに置かれ、1981年になってようやく祖国へ返還されたという数奇な歴史も描かれています。一枚の絵にも、これほど長い「その後の人生」があるのだと知るだけでも、本書を読む価値があります。

第2章 1937年と2003年が交差する面白さ

本書の大きな魅力は、1937年前後のピカソと、2003年のニューヨークを生きる日本人キュレーター・八神瑤子の物語が交互に描かれることです。過去の物語では、ピカソが〈ゲルニカ〉を生み出していく過程が、写真家ドラ・マールとの関係とともに描かれます。

一方、現代では9・11後のアメリカがイラクへの武力行使に向かっていく中、国連本部に飾られていた〈ゲルニカ〉のタペストリーに「暗幕」が掛けられる出来事が物語の発端になります。

なぜ反戦を訴える〈ゲルニカ〉を隠す必要があったのか。作中では「〈ゲルニカ〉が反戦のメッセージを放ち続けていることを知っていたからこそ、暗幕を被せた」と語られます。

ここから物語は一気にサスペンス色を強めていきます。美術館、政治、国家、巨大な資産家、バスク問題、テロリズム。そして〈ゲルニカ〉をめぐるさまざまな人間の思惑。「次はどうなるのだろう」と読み進めながら、いつの間にか20世紀のヨーロッパ史や現代史まで学んでいる。この知的好奇心と娯楽性の両立こそ、原田マハさんの小説の最大の魅力だと思います。


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第3章 芸術には世界を変える力がある

本書を読み終えて、あらためて考えたのは「芸術に何ができるのか」ということでした。一枚の絵が戦争を止められるわけではありません。しかし、一枚の絵が何十年、何百年と残り続け、「人間はこんなことをしてはいけない」と訴え続けることはできます。

作中には、「闘うべき相手は政府でもファシズムでもなく、戦争、暴力、憎悪である。」という考えが示されています。政治体制も国家も指導者も変わります。しかし、戦争によって傷つく普通の人々の姿は変わりません。

だからこそ〈ゲルニカ〉は時代を超えるのでしょう。そして本書の最後に近づくほど、〈ゲルニカ〉は誰か一人のものでも、一つの国だけのものでもない、という意味が伝わってきます。「〈ゲルニカ〉は、あなたのものじゃない。もちろん、私のものでもない。──私たちのものよ」という言葉が、とても印象に残りました。

終わりに 夏季休暇にぜひ読んでほしい一冊

『暗幕のゲルニカ』は、絵画が好きな方にはもちろん、普段それほど美術に関心がない方にもお薦めできる小説です。ピカソや〈ゲルニカ〉について学べる。スペイン内戦や20世紀の歴史も知ることができる。それでいて決して難しい美術解説ではなく、サスペンスとして最後まで読ませてくれます。

私は、学び、驚き、ドキドキ感の三つがそろい、一気に読み終えてしまいました。原田マハさんの作品を読むたびに感じるのですが、読み終えた後には必ず「今度、本物の絵を見に行きたい」と思わされます。

小説を楽しみながら、美術と歴史の世界へ連れていってくれる。夏季休暇に少し時間を取って読書をしたい方に、ぜひお薦めしたい一冊です。

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