【お薦め本の紹介】銀行の本店はなぜ仰々しいのか?

【お薦め本の紹介】銀行の本店はなぜ仰々しいのか?

銀行の本店を訪れると、その建物の大きさや重厚な内装に圧倒されることがあります。天井の高いロビー、磨き上げられた床、立派な応接室。インターネットバンキングが普及し、銀行の支店が次々と減っている時代に、なぜ本店だけはこれほど仰々しいのでしょうか。

鈴木雅光さんの『銀行の本店はなぜ仰々しいのか? 金融業界の謎』は、そんな素朴な疑問を入口に、銀行、証券会社、資産運用会社、生命保険会社など、金融業界の知られざる仕組みを解き明かしてくれる一冊です。

金融業界は、私たちの生活や経営に深く関わっています。しかし、その内部は複雑で、外からはなかなか見えません。本書を読むと、銀行の豪華な本店も、金融機関の合併も、投資信託の販売方法も、すべてが利益と権力、信用をめぐる合理的な仕組みの中で動いていることが分かります。

目次

第1章 豪華な本店は「信用」を演出する舞台装置

かつて銀行は、地域の至る所に支店を構えていました。しかし現在、店舗数は急速に減少しています。三菱UFJ銀行と三井住友銀行は、かつてそれぞれ1000店舗を超える支店を持っていましたが、2022年には両行とも400店舗を下回ったといいます。

それでも本店は、依然として都心の一等地に巨大な建物を構えています。本書によれば、本店で働く行員の数は、銀行全体の従業員の10分の1以下にすぎないと考えられます。一見すると、非常に非効率な設備に見えます。しかし、本店には大企業同士のM&A、海外の大型プロジェクトへの融資、大企業への巨額融資など、グループ全体の利益を左右する部門が集まっています。1件の取引が数百億円、数千億円という規模になることも珍しくありません。

そのような巨額の資金を動かす商談を、簡素な会議室で行うことはできないのでしょう。銀行の本店や豪華な応接室は、単なる見栄や贅沢ではありません。相手に「この銀行なら巨額の資金を任せられる」と感じてもらうための、信用を演出する舞台装置なのです。経営においても、商品やサービスの質だけでなく、「どこで、誰が、どのように説明するか」が相手の意思決定を左右します。銀行本店の仰々しさには、信用という目に見えない資産を形にする意味があるのです。

第2章 銀行はもはや「お金を貸す会社」ではない

私たちは銀行の仕事を、「預金を集めて企業や個人に融資すること」だと考えがちです。もちろん、それは銀行の基本的な役割です。しかし現在のメガバンクは、単純な貸出業だけではありません。

例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループは、米国のモルガン・スタンレーへの出資を通じて、海外投資銀行ビジネスから大きな利益を得ています。三井住友フィナンシャルグループも、航空機リース事業を展開し、日本最大級、世界でも有数の規模を誇ります。

地方銀行が地元企業への融資を中心とした伝統的な銀行業務で苦戦する一方、メガバンクはM&A、証券、信託、リース、海外投資など、国境を越えた総合金融ビジネスへと進化しています。

つまり、同じ「銀行」という看板を掲げていても、メガバンクと地方銀行では、稼ぎ方が大きく異なるのです。これは企業経営にも通じます。環境が変化したにもかかわらず、過去に成功した本業だけに固執していれば、いずれ利益を失います。

一方で、メガバンクのように自社の信用力や顧客基盤を生かし、周辺事業へ展開できれば、新たな収益源を生み出すことができます。銀行業界の変化は、企業が生き残るためには、「自分たちは何屋なのか」という定義そのものを変える必要があることを教えてくれます。


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第3章 金融業界では「情報格差」が利益を生む

本書で特に印象に残ったのが、金融機関と顧客の間にある情報格差についての指摘です。投資信託、仕組債、保険商品などは、一般の人にとって非常に分かりにくい商品です。金融機関の担当者は、商品の構造や手数料、リスクを熟知しています。一方で、顧客は説明された内容を信じて判断するしかありません。

この情報格差が大きいほど、金融機関は自社に有利な商品を販売しやすくなります。かつて証券会社では、売買を繰り返させて手数料を稼ぐ営業が行われていました。投資信託でも、販売手数料が高い商品や、流行を追ったテーマ型商品が積極的に売られてきました。

近年は「顧客本位の業務運営」が重視されるようになりましたが、金融機関の利益と顧客の利益が、常に一致するとは限りません。例えば、販売手数料が無料の投資信託でも、販売会社には保有残高に応じた代行手数料が入ります。無料という言葉だけを見て、「金融機関には利益がない」と考えるのは正しくありません。

私はFPとしても、金融商品を選ぶ際には、商品説明より先に「誰が、どのような仕組みで利益を得るのか」を確認することが重要だと感じます。金融商品に善悪があるのではありません。問題は、仕組みを十分に理解せず、勧められるままに契約してしまうことです。

終わりに

『銀行の本店はなぜ仰々しいのか?』は、金融の専門知識を学ぶ本というより、金融業界の構造や人間関係、権力の動きを知る本です。

なぜ銀行は合併を繰り返してきたのか。なぜ外資系金融機関の給与は高いのか。なぜ証券会社は投資信託を売りたがるのか。なぜ地方銀行は苦戦しているのか。

一つ一つの疑問をたどっていくと、金融業界もまた、信用、利益、組織の論理によって動いていることが分かります。銀行の豪華な本店を見たとき、「無駄に立派だ」と考えるだけでは、その本質は見えてきません。その建物の奥では、巨額の資金と信用が動いています。金融業界を理解する第一歩は、当たり前に見える風景に対して、「なぜこうなっているのか」と疑問を持つことなのだと思います。

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