多くの経営者の方は税務については関心が高いのですが、労務については苦手な方が多いようです。
今回紹介する向井蘭さんの“社長は労働法をこう使え”は、「今までない」労働法解説書ともいえます。
いくつか学んだことを紹介します。
① 日本の労働法は、戦前に制定された工場法を元にしています。
労働者として「工場で働く人」を第一に想定し、数々の規制が定められているのです。
そのため、ホワイトカラーの労働者が多くなった現在では、法律と現実の社会との間で
深刻な矛盾が生じています。
たとえ正義や道理は会社にあったとしても、労働者と会社が争えば、「法的には」労働者が勝ってしまうのです。
② 労働法が、雇用契約・労働契約における「契約自由の原則」を制限しています。
憧れの漫画の先生の下で、時給100円でもアシスタントとして働きたいという希望があっても、
労働法では許されません。
③ 仮処分を繰り返し受けることで、働かずに生活しようとする人がいる!
解雇⇒仮処分⇒敗訴のフルコースで、正社員を解雇して2000万なんてことも!
④ 日本では、使用者が労働力を自由に使用する権利が、かなり広く認められる
(単身赴任、休日勤務、部署配転)。
つまり、買ったリンゴが好みに合わなくても、人にあげたり捨てたりしてはいけない。
買った人の責任で何とか工夫しなさいということです。
⑤ 労働者の解雇は出来ないが、退職勧奨は問題がない。
裁判所も退職勧奨には寛容で、“この会社にあなたの仕事はない”、
“あなたの能力は、会社が求める能力に達していない”などが認められる。
*ロックアウト型退職勧奨もお勧め。
退職勧奨を労働者が拒否した場合、労働者に自宅待機を命じ賃金100%払う。
同時に、退職すれば、退職金を上積みするなど、退職勧奨に応じた条件提示。
つまり、賃金さえ払えば、労働者に仕事をさせなくても構わない。
⑥ 労働法の世界では、能力不足には寛大だが、遅刻や欠勤などの勤怠不良には非常に厳しい。
つまり数億円の損害を許しても、数千円の横領は許さない
⑦ 誰を採用するかは自由。
男女雇用機会均等法で定められているのは、“チャンスを平等に”であって採用結果の
平等は認められていない。
⑧ 今増えつつあるのが、社外労働組合。
経営者は、団体交渉の申し入れには、必ず応じる
⑨ 労働局の斡旋でまとめるのがベスト。
裁判所の強制執行はとにかく避ける。
労働基準監督署が怖いと思っている経営者が多いが、強制執行も出来ない。
使用者の事情や主張もかなり考慮してくれる。
⑩ 裁判所と裁判官には地域差がある。
東京、横浜、京都、大阪、名古屋、福岡には労働事件の専門部署や労働事件担当の裁判官がいる。
他の地域では?司法試験では、労働法は選択科目。
裁判官の多くが、労働法の知識を余りもっていない。
⑪ 3万人のうち、わずか100人――全国にいる弁護士のうち、労働法を専門とする「経営者側」の弁護士の数です。
会社と労働者のトラブルでは、会社に正義があることも多いのに、多くの社長が孤独な戦いを
強いられています。
以上、経営者としては一読をお勧めする本です。
素晴らしい本を書かれた向井蘭 さんに感謝です。