認知症患者さんは、臭いがわからない?代表的な初期症状を専門医が解説

認知症患者さんは、臭いがわからない?代表的な初期症状を専門医が解説

先日、認知症の患者さんのご家族から「うちのお袋は臭いがわからないのでしょうか?」との質問をいただきました。部屋が臭くても、本人は全く気にしていないとのことです。実は臭覚障害は、認知症の初期症状のひとつであることがわかっています。今回の記事では、月に1000名の認知症患者さんを診察する長谷川嘉哉が、認知症と臭覚について解説します。

1.嗅覚障害とは?

嗅覚障害(きゅうかく)の嗅覚とは、「におい」の感覚の事です。においを感じなくなったり、においを区別できなくなった状態を嗅覚障害といいます。そもそもにおいを感じる仕組みは、「におい」の元になる物資が鼻から吸い込まれ、鼻の奥の「臭細胞」を刺激します。この刺激が、嗅神経を伝わり、脳の部位に伝わり、瞬時に情報処理され、「良いにおい」、「嫌なにおい」、「くさい」などと感じます。

これらの伝達経路のどこかに異常がおこると、嗅覚障害を起こします。例えば、風邪、花粉症、慢性副鼻腔炎などによる鼻水や痰なのどで臭細胞に、におい物資が付着しにくくなると、においを感じにくくなります。認知症などの場合は、臭細胞には異状なく、伝達されたにおいの情報を脳で処理する段階の問題でにおいを正確に認識できなくなるのです。

2.認知症では嗅覚の障害が先に先行する?

 認知症の早期発見の一つに、嗅覚の低下があります。認知症の中でもアルツハイマー型認知症は、記憶を司る「海馬」が委縮することが特徴です。しかし、海馬の萎縮に先行して、海馬の外側にある「臭内皮質」が障害されることが分かっています。「臭内皮質」は嗅覚に関わる部位であるため、記憶障害よりも嗅覚の低下が症状としては先に現れるのです。

 実際、認知症の前段階である早期認知症でも嗅覚の低下が見られているため、認知症の早期診断に取り入れようとする研究も見られています。私の患者さんのように、ご家族が「親が臭いがわからない?」と感じた時は、認知症を疑う必要があるのです。

3.臭覚低下を疑う症状

認知症の患者さんにおいては、以下の用な症状から嗅覚症状がわかります。

3-1.強烈な尿臭

正直、このケースが最も多いものです。尿失禁をしているようで、服が濡れていることもあります。梅雨や夏場ですと、マスク越しでも臭いを感じるほどです。それほどの臭いであっても患者さん自身には全く自覚はないようです。申し訳ないのですが、診察後は、消臭スプレーと椅子の掃除をさせてもらっています。

3-2.部屋のにおい

在宅の患者さんなどでは、窓も開けずに、食べ物も腐り、服も換えずに生活をされている方もいらっしゃいます。入室したとたん、あまりの悪臭に、気持ち悪くなりそうになります。そんな部屋で生活をしていても、本人は気にもしていないのですから、本当ににおいを認識していないようです。

3-3.強い香水

女性の中には、香水がどんどんきつくなっている方もいらっしゃいます。前述のような、悪臭ではないのですが、やはりあまりにきついと、周囲を不快にさせていることもあるのです。


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4.介護的対応

嗅覚障害の患者さんには、介護的対応が大事です。特に、尿臭に対しては、自宅だけでなく通所介護等も使って入浴を進めます。本人だけに任せると、身体を全く洗っていない方もいらっしゃいます。そして、下着と服は毎日交換。そして、尿失禁をされる場合は、尿パッドも紙おむつの使用をお願いします。しかし、中には、それらの利用を拒否する方も多いも多いものです。このような場合は、実の子供さん、ケアマネ、介護職員、医師、看護師が共同して、おむつの使用を進めることが重要です。

自宅の悪臭に関しては、とにかく本人を通所介護等へ連れ出し、その間に掃除・ゴミ出し・空気の入れ替えが大事です。実際、訪問診療においては、医師としても靴を脱ぐことに抵抗を感じるお宅もありますし、実際ペットの糞を踏んでしまって、慌ててコンビニで靴下を購入したことも経験しています。

5.芳香療法は嗅覚だけでなく認知症をも改善する

感覚器の中の嗅覚機能は鍛えたら復活する神経細胞です。そのうえ嗅覚は、五感のなかで唯一、脳幹を介することなく直接大脳を刺激します。そのため、低下しているにおいを刺激することは、嗅覚の改善だけでなく認知症の改善も期待できます。

鳥取大学医学部の研究では、嗅神経を刺激すれば海馬の機能が回復する事が報告されました。海馬がダメージを受ける前に、芳香療法(アロマテラピー)によって「嗅覚を刺激することで海馬の機能が回復する」ことを実証したのです。

実際に、介護施設の報告では、認知症患者さんが香りを試香紙に垂らして嗅いでいくうちに、顔色や表情がだんだんとはっきりしてくるそうです。昔から嗅ぎなれた香りを積極的にかぐことで、嗅覚機能を回復させて記憶を蘇るのです。よろしければ以下の記事も参考になさってください。

6.まとめ

  • 認知症患者さんは、記憶力の低下以前に、嗅覚機能が低下します。
  • そのため、自分自身の尿臭や部屋の悪臭にも気が付かないことがあります。
  • 嗅覚を刺激することは、嗅覚機能の改善だけでなく認知症の機能の改善も期待できます。
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