高齢者の運転による交通事故が社会問題になっています。そんな中、「高齢になって自動車の運転をやめた人は、運転を続けた人に比べて要介護となる可能性が約2倍高くなる」という報告がされました。そんな、話を聞くと、「運転が危険でも運転を続けさせたほうが良いのでは?」と感じてしまいます。しかし、車の事故には被害者がいます。認知症専門医としては、運転をやめることで介護度が悪化するのだとしても、運転してはいけないものはいけません。
今回の記事では、月1,000人の認知症患者さんを診察する専門医長谷川嘉哉が車の運転と要介護度について紹介します。
目次
1.運転をやめた人は、要介護となる可能性が約2倍高くなる?
筑波大学のなどのチームが、高齢になって自動車の運転をやめた人は、運転を続けた人に比べて要介護となる可能性が約2倍高くなるという調査結果を公表しました。詳細は、以下のようなものです。
愛知県に住む65歳以上の男女約2,800人が対象。2006~07年時点で要介護の認定を受けておらず、運転をしている人に、10年8月の時点で運転を続けているか改めて尋ね、認知機能を含めた健康状態を調べた。さらに16年11月まで追跡し、運転継続の有無と要介護認定との関係を分析した。その結果、10年時点で運転をやめていた人は、運転を続けた人に比べて要介護となるリスクが2.09倍あった。このうち、運転はやめても移動に電車やバスなどの公共交通機関や自転車を利用していた人では、同様のリスクは1.69倍にとどまっていた。一方、運転をやめて移動には家族による送迎などを利用していた人だと2.16倍だった。(出典:朝日新聞記事 高齢者、運転やめたら…要介護リスク2倍 活動量減って)
この記事では、公共交通機関が十分にない地域では、運転ができなくなることで移動の手段が限定され、活動的な生活が送りにくくなることで健康に悪影響が及んだと結論付けています。
2.そもそも要介護度とは?
今回の研究でテーマとなった、「運転しなくなることによって落ちる介護度」とはそもそも何でしょうか?
2-1.身体介護&認知症介護
介護度とは、日常生活を維持するためにどの程度の介護が必要かを判断するものです。具体的には、運動機能が落ちることによる身体介護、認知症に伴い認知機能が低下することによる認知症介護で判断します。
2-2.介護度はいい加減
公的介護保険に基づいて認定される介護度ですが、実体は相当いい加減です。残念ながら今回の筑波大学の研究も、いい加減な介護度を指標としていますので、研究自体の信頼性にも疑問が沸きます。介護度がいい加減な理由については以下を参考になさってください。
3-3.認知症や身体介護は徐々に進行する
今回の実験では、「身体能力や認知機能が落ちれば、運転も難しくなりやすい。こうした事例が結果に混じらないよう、10年の調査後すぐに要介護となった人は除き、健康状態の違いが影響しないよう統計学的に調整して分析した。」とされています。
しかし、認知症や身体介護は、徐々に低下するものです。10年の調査後にすぐに要介護になった人を除いても、統計学的に健康状態の違いを排除することはできないと思われます。
4.正常なら運転をやめたぐらいの環境変化に対応できるはず、とは
運転を止めることは、生活環境の変化、運動機会の減少、社会参加の減少などがご本人に起こることが想定されます。高齢であっても正常であれば、このような環境の変化には対応して、運転をしなくてもできる運動や、社会参加の方法を取り入れます。
そもそも、外来をやっていても、認知機能に問題がない人ほど、自ら免許を返納して、新しい生活スタイルに取り組みます。逆に、認知機能に問題がある人ほど、免許の返納を拒絶して、新しい生活スタイルにも取り組まないのです。
5.運転をやめて介護度が悪化するなら、運転してはいけない
筑波大学の研究結果は、「運転を止めると介護度が悪化する」と、研究者斧想定とは異なった間違った結果が独り歩きする危険性があります。私の意見では、「運転を止めて介護度が悪化する人は、そもそも軽度の認知機能障害や、脳の小梗塞による運動障害があり、運転をしないという環境変化に対応できなかっただけ」なのです。
つまり、運転をやめて介護度が悪化するような人は、もともと運転してはいけない人なのです。運転ミスなどによる悲惨な事故をこれ以上起こさないために、「まだ大丈夫」くらいで免許を返納していただきたいと思います。
6.まとめ
- 運転をやめた人は、要介護となる可能性が約2倍高くなる?という研究結果が発表されました。
- 指標となる介護度自体がいい加減なため、研究結果にも疑問が残ります。
- そもそも、運転をやめて介護度が悪化するような人は、運転してはいけないのです。