認知症の患者さんの初診でお伺いする質問に、「料理の味付けに変化はありませんか?」というものがあります。認知症患者さんのご家族に聞くと、「料理の味がおかしくなった」という症状は比較的初期の段階からみられるのです。今回の記事では、月に1000名の認知症患者さんを診察する長谷川嘉哉が、認知症と味覚について解説します。
目次
1.認知症の初期症状の味覚障害とは?
私の認知症専門外来では、以下のような症状がみられます。
1-1.味付けが濃くなる
認知症の初期の段階では、料理も続けられていことが多いものです。味覚障害が出現すると、味付けがどんどん濃くなっていきます。この際に、高齢の夫婦だけの場合、互いに味覚障害があるため気が付きません。若い方が同居などをしていて初めて、味の濃くなっていることに気が付くものなのです。この状態になると塩分の過剰摂取につながるので、注意が必要です。
1-2.味付けが無茶苦茶
味覚障害が進行すると、味が濃いとか薄いという問題ではなくなります。簡単に言えば、調味料の使い方が無茶苦茶で、正常な方では、とても食べることができないものになります。しかし、一人暮らしで、作った本人だけが食べている場合は、誰も異常に気が付かないこともあるのです。一人暮らしの親がいる場合は、時に子供さんが、親の作った食事を食べることも認知症の発見につながるのです。
1-3.極端に甘いものを好む
認知症の高齢者の場合、甘いものを好む傾向があります。もともと、甘いものが苦手な方であっても、甘いものを好むようになります。そのため、特に糖尿病がある患者さんの場合は、血糖のコントロールに注意が必要になります。
2.味覚障害とは?
そもそも、味覚を感じるには、以下の流れがあります。
舌の表面や舌の付け根、上あごの表面には、味を感じる味蕾(みらい)という細胞の集まりが点在しています。飲食で、味の刺激を味蕾を受けると、神経を介して脳へ情報が伝わり、5つの味覚甘味、苦味、酸味、塩味、旨味を感じるのです。この流れのどこかに障害が起こることで味覚障害おこるのです。
3.高齢者の味覚障害の原因は?
味覚障害の原因には、いくつかありますが、認知症の高齢者の場合は、以下の2つが原因として考えられます。
3-1.味蕾の加齢変化
味を感じる味蕾自体が、年齢とともに減少します。舌の後方にある味蕾の数は、0~20歳に比べ、74歳以上では、65%減少しているという報告があります。味を感じる細胞自体が、半分以下になってしまえば、味がわからなくなることもやむを得ないのです。
3-2.味の認識の問題
人は、「舌でなく頭で味わっている」と言われることがあります。その中でも、眼窩前頭皮質は、味覚だけでなく、嗅覚、さらには感情をつかさどる扁桃核からの情報など五感すべての情報が集まります。しかし、認知症になると、その情報の元である、嗅覚も低下しますし、感情をつかさどる扁桃核の働きも低下します。つまり、脳の各機能の低下が、複雑に絡み合うことで、味の認識が鈍くなるのです。
4.5つの味覚すべてが悪化するわけではない
認知症の味覚障害は、5つの味覚甘味、苦味、酸味、塩味、旨味がすべて同じように低下するわけではありません。認知症の中でも、とくにアルツハイマー型認知症における味覚の検討では、甘味が優位に感度が低下していることが報告されています。そのため、先ほどご紹介したように認知症の高齢者が、甘いものを好むようになるのです。
5.亜鉛不足に注意
認知症高齢者の、味覚障害の原因で忘れてはいけないものがあります。それは亜鉛不足です。特に、薬の副作用として亜鉛不足になることがあります。特に、降圧薬、抗腫瘍薬、抗うつ薬が亜鉛欠乏症を引き起こしやすいと言われています。そのため、年齢を重ねたら、意識的に亜鉛をを摂取することが大切です。牡蠣、あわび、うなぎ、するめ、牛肉、卵、チーズ、納豆などは、亜鉛が多く含まれているのでお薦めです。
6.完全栄養食のラコールが飲めるメリット
甘みを中心として味覚の低下が功を奏する場合もあります。それは、食欲低下や摂食障害で食事量が減った場合です。この場合、少ない量でもカロリー、栄養バランスの良い完全栄養食を処方します。ところが、この完全栄養食は若い人では甘すぎてとても服用ができません。しかし、味覚障害のある患者さんでは、嫌がるどころが喜んで服用してくださるのでとても助かります。完全栄養食であるラコールについては以下の記事も参考になさってください。
7.まとめ
- 認知症患者さんは、初期の段階で味覚障害を認めます。
- 原因としては、加齢に伴う味蕾の減少、眼窩前頭皮質を中心として機能低下が疑われます。
- 味覚障害は、5味のなかでも甘みで強く低下します。