ドラマ大恋愛でも話題・若年性アルツハイマーを認知症専門医が解説!

ドラマ大恋愛でも話題・若年性アルツハイマーを認知症専門医が解説!
2018-11-14

2018年10月12日からTBS系金曜ドラマで放送されている、戸田恵梨香さん主演のドラマ「大恋愛」では若年性アルツハイマーが取り上げられています。番組の中で繰り広げられる恋愛だけでなく、「若年性アルツハイマーってどんな病気?」「このあとどうなるの?」と疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

我々、認知症専門医としては、仮にドラマであっても多くの方に病気について知っていただくことはよい機会だと思います。けっして過剰に心配する必要もありません。しかし正しい知識を持って、おかしいと思えば早期受診の機会にしていただきたいものです。

ところで、ドラマの中で戸田恵梨香さんが主人公の本を手にした時に、私の著作もその隣で写っており、嬉しくまた恐縮したものです。そこで今回はこの「患者と家族を支える認知症の本」を執筆した認知症専門医の長谷川嘉哉が若年性アルツハイマーについての情報をお伝えします。

目次

1.若年性アルツハイマー病とは?

Adult Daughter Helping Senior Tie Shoelaces
まだ高齢者にならないうちに認知症を発生するものをいいます

65歳未満で発症するアルツハイマー型認知症を言います。若年性と高齢者での認知症の病理的な違いはないため、ともに診断名に「アルツハイマー」がついています。

しかし、病気の勢いが全く違います。高齢者のアルツハイマー型認知症は、年単位で進行することが多いのですが、若年性アルツハイマーはときに月単位で進行することさえあるほど急激です。「散歩に出て迷子になったり」「自宅のトイレの場所が分からなくなって失禁してしまう」ほどに進行することも若年性アルツハイマーにみられる特徴なのです。

2.頻度・原因

若年性アルツハイマーの頻度・原因について解説します。

2-1.若年性アルツハイマーの頻度

アルツハイマー型認知症のうち4〜5%が若年性アルツハイマーとされています。2009年に発表された若年性アルツハイマーの調査によると、患者数は調査時点で4万人弱。 男性の方が女性よりも多く、推定発症年齢の平均は約51歳です。ドラマ大恋愛の戸田恵梨香さんは30歳代前半ですから、発症年齢としてはやや特異的です。

2-2.原因は不明点が多い

原因については、一部に遺伝性をもったものも報告されていますが、9割以上は明確な遺伝性を持っていません。「遺伝性がないから(親族に同様のケースがないから)安心」ではなく、つまり「誰でも若年性アルツハイマーにはかかる可能性がある」のです。

2-3.アポE遺伝子も若年性アルツハイマーには無関係?

高齢者の場合、アポE遺伝子の4型は認知症の発症に大きく関わっています。実際に、認知症専門外来においては、アポE遺伝子の4型を持っている方が多くみられます。しかし、私の外来においては、若年性アルツハイマーで4型が関連している患者さんは殆どいません。若年性アルツハイマーには、アポE遺伝子はそれほど関与していないと考えられます。

アポE遺伝子については、以下の記事も参考になさってください。

3.若年性アルツハイマー病の症状とは

若年性アルツハイマー病は、多くが40歳後半から60歳代前半の活躍世代の発症です。その発見は高齢者に多い「もの忘れ」というよりも「仕事上の失敗」や「奇怪な精神症状の出現」で周囲が気づくことが多いようです。

3-1.仕事上のトラブル

仕事上では、今までやってきた仕事の手順が分からなくなり、時間がかかるようになったりします。取引先の人の名前がわからなくなったり、メモを取ってもそのことを忘れてしまうなど、仕事上のトラブルが起きます。しかも、ミスを上司から指摘されても、なぜだか全くわからないことさえあるのです。

3-2.性格上のトラブル

何となくやる気がなくなります。男性であれば、髭もそらない。女性ならおしゃれに関心がなくなり、お化粧もしなくなります。急に泣き出したり、逆に怒りだしたりと感情の変化が大きくなり、周囲は対応に困惑してしまいます。

3-3.生活上のトラブル

毎日、何気なく作れていた料理が作れなくなったり、味付けが変わったりします。料理の最中に、火を点けっぱなしにして何度も鍋を焦がすようにもなります。今まで関心があった趣味を、まったくしなくなったりもします。そのうえ、絶対に忘れてはいけない子どもの学校の行事を忘れることもあります。さらに、財布やカギを置き忘れ、いつも探し回るようにもなります。

3-4.行動のトラブル

他人との大切な約束を忘れることも頻回になります。そもそも、映画やテレビドラマを見ていてもストーリーが理解しづらくなります。ひどくなると、会話をしていても相手の話が理解できなくなります。

businessman crying lost in depression sitting on street concrete stairs
本人でも理解できないトラブルが多発するようになります

4.高齢者のアルツハイマーとは異なる若年性ならではの特徴

若年性アルツハイマーには以下のような特徴があります。

4-1.発見が遅れやすい

多少の物忘れがあっても、「認知症は高齢者がなるもの」という印象が強いため、本人も周囲も認知症を疑わない場合が多いようです。ちょっとした失敗が続いてもストレスのせいなどにしがちです。認知機能の衰えによる失敗をネガティブに捉えがちになり、うつなどの精神疾患と診断されるケースもあります。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


4-2.経済的困窮が起きる

頻度的には、高齢者のアルツハイマー型認知症に比べて少ない若年性アルツハイマーですが、病気以上に大変なことがあります。それは日々の経済的問題です。急激に症状が進行するため、職場でも問題になることが多く、退職を勧められるケースも多々あります。しかし、一家の大黒柱がいきなり職を失ってしまうことは大問題です。

私の患者さんでも、若年性アルツハイマーのために仕事ができなくなり、退職。住宅ローンを滞納するようになり、自宅が競売、自己破産、生活保護になった方もいらっしゃるのです。

House for sale
退職を早まると、せっかく建てた家を売らねばならなくなることもあります

4-3.介護負担が集中しやすい

社会での若年性アルツハイマー病への理解が乏しいため、社会サービスの利用が進みません。そもそも患者さん自身も年齢が若いため、家族以外の方による介護を拒否しがちです。その結果、親や配偶者といった特定の人に介護負担が集中してしまうのです。

5.必ず専門医に受診を

若年性アルツハイマーの患者さんの場合は、必ず認知症の専門医を受診してください。

5-1.脳神経内科もしくは精神科受診を

受診でお勧めなのは、脳神経内科もしくは精神科です。名前が似ていますが、脳神経外科や老年病科は、認知症は専門でありませんのでお勧めではありません。

ただし、脳神経内科や精神科であっても全員が認知症を専門にしているわけではありません。ホームページ、講演、書籍などを調べて認知症を得意としている先生を探しましょう。もっともお勧めなものは、やはり同じ病気の患者さんからの紹介です。

5-2.徹底した除外診断を

認知症は、すべてアルツハイマーではありません。認知症はいろいろな原因で引き起こされます。そのため、画像診断、血液検査、遺伝子検査などをすべて行う必要があります。決して、見落としは許されません。詳しくは、以下の記事も参考にしてみてください。

5-3.社会資本の利用も積極的に行おう

若年性アルツハイマー病は発症する患者さんの年齢と症状の急速な進行から経済的なフォローが重要です。仕事上のトラブルが起きてきても、すぐに退職してはいけません。自営業者の方でも年金だけは払い続けましょう。

そして、年金を加入している状態で確定診断を受け、症状進行時には障害年金受給を申請しましょう。サラリーマンの方であれば、傷病手当を積極的に利用しましょう。さらに年齢的にも医療費の自己負担軽減のために障害者自立支援制度・障害者手帳の利用は重要です。これらの制度を使うことで、病気になった不幸を少しでも最小化することができるのです。

詳しくは、以下の記事も参考にしてみてください。

6.現実はドラマほど甘くない

ドラマを楽しんでいる人に水を差すようで悪いのですが、現実はもっと厳しいものです。

6-1.進行は極めて急激

症状の進行は、極めて急です。ドラマ「大恋愛」の終わりに、「患者さんによって進行に違いがあります」とテロップが入っていますが、少し症状の進行が遅すぎるような印象です。私の経験したケースでは、初診から半年でかなり進行します。その後も、月ごとに今までできていたことができなくなります。

6-2.本当に大変なところは描かれない

若年性アルツハイマーは映画やドラマでもよく取り上げられます。しかし、それを見た現実の患者さんのご家族は失望します。なぜなら、本当に大変な部分が描かれていないからです。

認知症の代表的症状は「物忘れ」ですが家族をそれほど困らせるわけではありません。さっき話をしたことを忘れようが、同じ質問を繰り返そうが、家族にとってストレスにはなりますが、生活に大きな影響を与えるほどではないでしょう。認知症が進んできて、幻覚・妄想・暴言暴力・介護抵抗といった症状が出るようになると家族を苦しめます。これらの症状を周辺症状もしくはBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)といいます。詳しくは、以下の記事も参考にしてみてください。

6-3.末期像も描かれない

末期になると、排便・排尿もうまくできなります。これが現実です。ドラマでも、戸田恵梨香さんが便失禁するところまではさすがに描けないでしょう。

さらに症状が進行すると寝ていることが多くなっています。この状態は、傾眠というよりは神経細胞の減少が進行し、覚醒度が落ちてくるものなのです。こうなると自ら食事をとる意志も無くなり経口摂取が不可能となります。この段階を医療の現場では「拒食」と表現します。

この段階での問題は、「胃ろう」をつくるか否かが問題となります。現在、日本では家族が拒否をしなければ胃ろうが増設されます。結果、胃ろうが増設され、医療・介護施設をたらい回しになるうちに亡くなることになります。穏やかな最期を迎えるには、自分自身の意志をはっきりさせておき、家族が前もって意思確認して、胃ろうを導入しない選択も重要なのです。

7.まとめ

  • 年齢が若くとも、仕事や生活でトラブルが起きたら認知症の可能性を否定せず、異変を感じたら早めに医療機関に相談しましょう。
  • 受診をする際は、必ず認知症を得意とする脳神経内科医もしくは精神科医を受診しましょう。
  • 現実は、ドラマに描かれていない部分が問題となっているのです。
長谷川嘉哉監修シリーズ