2020年、日本糖尿病学会の治療ガイドラインが改訂されました。改訂の中に、糖尿病患者さんの運動療法にバランス運動が追加されました。多くのお医者さんは、ほとんど気に留めておられない改訂ですが、実はこれは糖尿病の患者さんにはとても重要なことです。糖尿病患者さんは、正常の方に比べて「筋肉量の低下かつ筋力の低下または身体能力の低下、いわゆるサルコペニアになりやすい」ことがわかっています。糖尿病患者さんがサルコペニアになると、合併症により急激に身体能力が低下し、さらに糖尿病が悪化する悪循環になってしまいます。しかしこのサルコペニアは予防することが可能なものなのです。
今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、糖尿病患者さんにバランス運動を取り入れることが、サルコペニアの予防につながる理由をご紹介します。
目次
1.サルコペニアとは?
サルコペニアとは、筋肉量の低下かつ筋力の低下、または身体能力の低下と定義され、加齢とともに増加します。その結果、衰弱、転倒・骨折、寝たきり、嚥下障害を引き起こしやすくなり、死亡リスクと密接に関わっています。
具体的には下腿の最も太い部分が、周男性34cm未満、女性33cm未満が判断の一つとなります。簡単な目安としては、「指輪っかテスト」があります。両手の親指と人差し指で輪っかを作り、下腿(=ふくらはぎ)の最も太い部分を囲むことで評価します。指がしっかりと重なる、ふくらはぎと輪の間にすき間ができる場合は、サルコペニアの可能性が高くなります。
その他、握力が男性28kg未満、女性18kg未満。5回椅子立ち上がりテストで、12秒以上かかる場合などでサルコペニアが疑われます。
2.糖尿病患者さんがサルコペニアになりやすい理由
糖尿病患者さんは、糖尿病がない人に比べて、サルコペニアになりやすいことが分かっています。サルコペニアは高齢者の約10%以上に見られますが、糖尿病患者さんではその3倍以上に上昇することが分かっています。
具体的には、以下の作用機序が考えられています。
2-1.末梢神経障害
筋肉と末梢神経はつながっています。そして末梢神経からの持続的な電気刺激により筋肉は量や機能が維持されているのです。糖尿病になると、その副作用として糖尿病性末梢神経障害を合併します。その結果、筋肉への刺激が障害されることで、筋肉が細くなり、筋肉量が低下してしまうのです。
2-2.インスリン抵抗性
糖尿病になると、インスリンが体内で十分に働かなくなります。インスリンには、血糖値を下げるだけでなく、細胞の増殖や成長を促す作用があります。インスリンが十分に働かなくなることで、筋肉の細胞の増殖や成長が妨げられ、筋肉が減少してしまうのです。
2-3.高血糖
糖尿病は、高血糖の状態が長時間持続します。この血糖の上昇自体が、ある特定のタンパクに影響を及ぼすことで、筋肉量を減少させることが明らかになりました。
3.サルコペニアでさらに糖尿病が悪化する
糖尿病患者さんがサルコペニアになると、さらに糖尿病を悪化させてしまいます。
3-1.筋肉量の低下が糖の代謝を低下させる
筋肉は、インスリンにより血液中の糖の80%以上を取り込んで、エネルギーとして使用したり、余った糖をグリコーゲンとして貯蔵します。サルコペニアによって、筋肉量が減少すると、糖の利用障害がおこり、血糖値が上がってしまうのです。
3-2.筋肉量の低下が身体活動を低下させる
サルコペニアになると、歩行速度も遅くなるなど、身体活動が低下します。その結果、糖の代謝だけでなく、脂質の代謝まで低下して、結果的に血糖・脂質のコントロールが悪化してしまうのです。
3-3.筋肉量の低下が転倒・骨折の危険をふやす
サルコペニアになると、転倒・骨折も起こしやすくなります。そうなると、安静・入院を余儀なくされ、さらに筋肉量が減少。サルコペニアも糖尿病もいずれも悪化してしまうのです。
4.サルコペニアを予防する食事とは
サルコペニアを予防するには、タンパク質を摂取することで筋肉を維持することが大事です。糖尿病患者さんの場合、「食事制限が必要」といっても、すべての食事量を減らしてはいけません。あくまで、減らすのは糖質であって、タンパク質の摂取は大事です。
具体的には、肉、魚、卵、大豆、牛乳の摂取が重要です。65歳までは、肥満によるメタボ予防は重要ですが、65歳を超えた方は、無理な減量は禁物です。「年をとったら粗食」という考え方は改めて、タンパク質をしっかり摂取して適度な体重を維持することが大事です。
ただし、糖尿病患者さんで、尿蛋白陽性、尿中微量アルブミン陽性といった腎症が合併している場合は、タンパク質の制限も必要なことがあるので、主治医に相談をしてください。
5.サルコペニアを予防の運動にバランス運動が追加
糖尿病患者さんが、サルコペニアをするには、運動は極めて大事です。単に運動といっても、従来の歩行などの有酸素運動に加え、レジスタンス運動(筋力増強運動)も週2〜3回加えることが求められていました。具体的には、ダンベル、スクワット、腕立て伏せ、水中歩行などです。
そして、2020年の日本糖尿病学会の治療ガイドの改訂では、バランス運動が加わったのです。バランス運動が、糖尿病患者さんの生活機能の維持・向上に有用であることが証明されたからです。具体的には、片足立位保持やステップ練習、体幹バランス運動が薦められています。
6.バランス運動にブレイングボードは有効
推奨されているバランス運動といっても、片足立位保持はイメージできても、ステップ練習や体幹バランス運動はイメージがしにくいものです。そんな方には、ブレインググループが開発したブレイングボード®もお薦めです。ブレイングボード®は、「有酸素運動」「筋力トレーニング」「柔軟性向上」「バランス性向上」の4つの運動がわずか5分でできてしまいます。日本糖尿病学会は、有酸素呼吸運動だけでなく、筋力や柔軟性・バランスを改善するブレイングボードをイメージして推奨してくれたのかと思ってしまうほどです。
認知症予防として開発されたブレイングボードは、受験生にも愛用されています。これからは、糖尿病患者さんにも愛用してもらいたいものです。
ブレイングボード®は下記のサイトからお求めいただけます。
7.まとめ
- 2020年の日本糖尿病学会の治療ガイドの改訂で運動療法にバランス運動が追加されました。
- バランス運動により、糖尿病患者さんのサルコペニアの合併を予防することが目的です。
- 認知症予防のブレイングボードは、糖尿病患者さんのサルコペニア予防にも効果が期待されます。