子どもの肥満が、将来の認知症を招く?

子どもの肥満が、将来の認知症を招く?

英国政府が、学校給食の基準を大きく見直すことになりました。子どもの肥満対策として、揚げ物を禁止し、高脂質食品の提供回数を制限するというものです。フィッシュ・アンド・チップスの国で、学校給食から揚げ物が姿を消すというのですから、かなり思い切った改革です。

背景には、英国の深刻な肥満問題があります。小学6年生の2割以上が肥満とされ、成人の肥満率も高い水準にあります。政府がここまで給食改革に力を入れるのは、肥満そのものだけでなく、将来の糖尿病、心血管疾患などによる医療費の増大まで見据えているからです。

私は認知症専門医として、このニュースを「子どもの肥満対策」だけの話とは思いません。なぜなら、若い頃からの食生活は、何十年も先の脳の健康にもつながっているからです。

目次

第1章 肥満は「体重の問題」だけではない

肥満というと、多くの方は見た目や糖尿病、高血圧の問題を思い浮かべるでしょう。しかし認知症の立場から見ると、肥満は脳にも無関係ではありません。

特に中年期の肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症などは、将来の認知機能低下と関連することが知られています。肥満になるとインスリン抵抗性が生じやすくなり、慢性的な炎症も起こりやすくなります。また、高血圧や糖尿病を介して脳の細い血管が傷み、脳梗塞や白質病変の原因になることもあります。

認知症は、ある日突然始まる病気ではありません。アルツハイマー型認知症でも、症状が出る何十年も前から脳内では変化が始まっていると考えられています。そう考えると、子どもの頃から「何を食べるか」を身につけることは、単なる食育ではありません。将来の糖尿病や心筋梗塞を防ぐだけでなく、脳を守る長期投資でもあるのです。

英国の学校給食改革で重要なのは、「揚げ物を1回減らしたから健康になる」という話ではありません。幼い時期に、野菜や果物、魚、豆類などを食べることが当たり前になる。その味覚と習慣をつくることに意味があります。大人になってから食生活を変えるのは、意外に難しいものです。子どもの頃に身についた味覚は、それほど強いのです。

第2章 脳の健康を考えるなら「腸」も無視できない

近年、認知症研究の中で注目されているのが「腸内細菌」です。人間の腸内には膨大な数の細菌が存在し、食べたものを分解しながら、さまざまな物質をつくっています。腸と脳は神経、免疫、ホルモンなどを介して双方向に影響し合っており、「腸脳相関」という言葉も広く知られるようになりました。

もちろん、「この腸内細菌を増やせば認知症にならない」というほど単純な話ではありません。しかし、腸内環境の乱れが全身の炎症や代謝異常と関係し、それが脳にも影響する可能性については、多くの研究が進められています。

腸内細菌にとって重要なのは、私たちが日々何を食べているかです。野菜、果物、海藻、豆類、全粒穀物などに含まれる食物繊維は、腸内細菌の餌になります。そこから短鎖脂肪酸と呼ばれる物質が作られ、腸のバリア機能や免疫系に良い影響を与えることが期待されています。


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一方、超加工食品や糖分、脂質に偏った食生活が続けば、肥満になりやすいだけでなく、腸内細菌の多様性にも影響します。つまり「認知症予防のために何を食べるか」を考えるとき、脳だけ見ていてはいけません。血管、代謝、腸、そして脳はつながっているのです。私自身、認知症外来をしていても、食事の重要性を繰り返しお伝えしています。特別な健康食品を探すより、まず毎日の食事を整える。その方がはるかに大切です。

第3章 認知症予防は、60歳から始めるものではない

今回の英国の改革で最も興味深いのは、国が「子どもの食生活」に介入した点です。認知症というと、多くの人は60代、70代になってから考え始めます。しかし本来、脳の健康づくりはもっと早く始まっています。

子どもの頃に高脂質、高糖質の食品ばかりを食べ、肥満になり、その後も運動不足が続く。40代で糖尿病になり、50代で高血圧が悪化し、60代で脳血管障害を起こす。こうした積み重ねの先に、認知症のリスクが高まるケースもあります。

逆に、若いうちから適正体重を保ち、野菜や魚、豆類を食べ、運動を続ける。それだけでも、将来の脳の状態は変わってくる可能性があります。私たちは「何を食べれば認知症にならないか」という特別な食品を探しがちです。しかし、本当に大事なのはもっと地味です。

  • 食べ過ぎない。
  • 太り過ぎない。
  • 野菜や果物をとる。
  • 食物繊維を意識する。
  • 魚を食べる。
  • 超加工食品や甘い飲み物を摂り過ぎない。

こうした当たり前の食生活を何十年も続けることの方が、はるかに重要なのです。英国の学校給食改革は、医療費削減のための政策でもあります。しかし私は、それ以上に「子どもたちの40年後、50年後を守る政策」と見ることができます。

認知症予防は、高齢になってから突然始めるものではありません。今日食べる一食が、腸をつくり、血管をつくり、そして未来の脳をつくっている。そう考えると、学校給食という毎日の一食が持つ意味は、私たちが思っている以上に大きいのかもしれません。

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