私は、認知症の専門外来だけでなく在宅医療にも関わっています。時々、『認知症専門外来だけでなく在宅医療まで!』と驚かれることもあります。しかし、寝たきりになって亡くなるところまでも含めて認知症の経過なのです。大学病院や基幹病院では、外来に来られなくなったら終わりです。我々開業医は、通院できなくなっても訪問診療で継続するのです。そのため現在までに400名近くの在宅看取りを経験していますし、最近では年間50-60名の方を看取らせていただいています。そんな中には、とても思い出に残る最期を見せてくれた患者さんが見えます。
特に初めて、在宅で看取らせて頂いたKさんは印象的でした。Kさんは、誰もが認める“病院・医者嫌い”。しかし、食事も取れなく、動けなくなったため訪問診療の依頼をいただきました。そして、初めてお伺いした時の言葉が、『何しに来た!!』です。それでも、何とか点滴だけはさせていただきました。その後も口からはまったく食事がとれないため、点滴をしても徐々に全身状態は悪化。徐々に意識が混濁する中でも、『絶対、病院には行かん!』とうわごとを言っています。最後は、枯れるようにご家族に見守られ自宅でお亡くなりになりました。
このKさんのケースは、とにかく家族・医療従事者が迷うことがありませんでした。通常であれば、食事がとれずに全身状態が悪化すれば入院、さらには胃瘻の増設に悩むものです。しかし、これだけ“病院・医者嫌い”を明確にされると対応は簡単です。つまり、Kさんのように、自分の“意志”を明確にすれば、叶えられるということです。皆さんも時に、自分の最後をイメージして、“意志”を持ってみませんか。