先日、ユーチューブで解説動画「抗認知症薬メマリー(メマンチン)なく認知症外来は成立しない理由」を公開させていただいたところ、後でご紹介するような厳しいご意見をいただきました。私の話を真剣に聞いていただいたうえでのご意見であり、真摯に受け止めさせていただきました。
同時に、多くの患者さんが、抗認知症薬の副作用について悩まれていることにも気が付きました。今回の記事では、月に1,000名の認知症患者さんを診察する認知症専門医の長谷川嘉哉が、現在発売されている抗認知症薬の副作用についてご紹介します。
目次
1.ユーチューブにいただいた厳しいご意見とは
私のユーチューブにいただいた厳しいご意見をご紹介させていただきます。
重篤な副作用のことを何も言わないでメマリーを大量に投与している医者は認知症に真剣に取り組んでいるだと~? 進行を遅らせることも立証されていない薬でどれだけの患者が副作用で悩んでいるのか、あんた本当に医者なの?
ちなみに、ご意見をいただいたユーチューブの動画「抗認知症薬メマリー(メマンチン)なく認知症外来は成立しない理由」は以下ですので、よろしければご覧ください。
2.私の考え
ご意見に対して、私の考えをご紹介します。
2-1.効果と副作用のバランスを考えて処方している
副作用のない薬は、ありません。効果がある薬には、必ず副作用があります。はっきり言えることは、「効果があって、副作用のない薬はない」ということです。医師は、主たる作用と副作用のバランスを考え、主作用が副作用を上回る場合にのみ薬を継続します。もしも、主作用よりも副作用で悩んでいるのであれば、その薬は中止する必要があります。そんな時は主治医に相談するか、相談に乗ってくれない医師は変えてしまいましょう。
2-2.メマリーは「適切」に投与していれば安全性は高い
意見をくださった方には、若干の行き違いがあったかもしれません。認知症の診察に真摯に取り組んでいるのは、メマリーを「大量」にではなく、「適切」に投与している医師です。この点については、今回の意見を頂いても決して考えが変わることはありません。
2-3.効果が立証されていない薬ではない
保険適応を受けている薬は、何年にもわたる治験の結果、認知症の進行抑制が証明されたから認可されているのです。決して、「立証されていない薬」ではありません。但し、臨床においては、メマリーは進行予防よりも周辺症状のコントロールに抜群の効果があることも事実です。
今回の記事では、現在抗認知症薬として保険適応されている処方薬について、副作用と対策についてそれぞれご紹介します。
3.抗認知症薬の副作用と対策1「メマリー」
認知症の薬はアクセル系とブレーキ系に分けられます。ブレーキ系のメマリーの副作用と対策をご紹介します。
3-1.めまい
メマリーの副作用で最も多いものは、めまいです。但し、歩けなくなるほどのめまいでなく、自覚症状としてのめまいです。殆どのケースでは、服用をしているうちに「慣れ」によってめまいを訴えなくなります。但し、あまりにめまい症状が続く場合は、減量します。私の経験では、めまいによって中止した経験はありません。何より、高齢者の場合はメマリーの副作用以上に、めまいを訴える患者さんが多いことを忘れてはいけません。高齢者のめまいについては、以下も参考になさってください。
3-2.メマリー投与で元気がなくなるケース
まずは、メマリーを追加するような状態であるかが重要です。メマリーは、攻撃性、幻覚、妄想の患者さんにはとても効果があります。逆に、やる気がない、元気がない、うつ的な患者さんに使用すると、より悪化します。そもそも、このような人には使用してはいけません。残念ながら、知識のない医師によって処方され、元気がなくなった場合は、減量・中止を検討します。
3-3.加齢で傾眠等があれば、減量中止
攻撃性、幻覚、妄想といった症状がピークの際には、メマリー等でブレーキをかける必要があります。しかし、周辺症状は加齢に伴い、改善することが多いものです。そのため、年をとっても、同量のメマリーを使用していると、傾眠や反応の低下が起こります。そのような場合は、速やかに減量・中止をする必要があります。
4.副作用と対策2「レミニールとアリセプト」
アクセル系とブレーキ系に分けらる抗認知症薬のうち、アクセル系の飲み薬であるレミニールとアリセプトの副作用と対策をご紹介します。
4-1.消化器症状
レミニールとアリセプトは副作用も似ています。副作用の大部分は、悪心嘔吐です。そのため、少量で2〜4週間様子を見ます。症状が強い方は、少量の段階で服薬ができないほどの悪心嘔吐が出現します。この場合は、レミニールとアリセプトの使用は中止します。少量で問題がなくても、常用量になって悪心嘔吐が出現する方もいらっしゃいます。この場合は、症状が軽ければ胃薬等を追加することで継続を試みます。しかし、症状が強くて食欲まで低下してしまう場合は、やはりレミニールとアリセプトの使用は中止します。
4-2.徐脈
レミニールとアリセプトの服用で脈が遅くなってしまうことがあります。服薬により、心拍数が50を切ってしまう場合は、レミニールとアリセプトの使用は中止します。ただし、もともと脈が少ない患者さんもいらっしゃるので、服用前には必ず心電図をとっておきましょう。ただし、私は徐脈によってレミニールとアリセプトの使用を中止した経験はありません。
4-3.陽性症状
レミニールとアリセプトはアクセル系の抗認知症薬のため、陽性症状といって、攻撃性、暴言、多動、易怒性などが出現することがあります。この場合は、まずはブレーキ系のメマリーを追加します。それでも陽性症状が改善しない場合は、レミニールとアリセプトを中止します。
5.副作用と対策3「リバスタッチ/イクセロンパッチ」
アクセル系の抗認知症薬のうち、貼り薬であるリバスタッチ/イクセロンパッチの副作用と対策をご紹介します。
5-1.消化器症状
同じアクセル系であるレミニールとアリセプトに比べべ消化器症状は殆どありません。やはり、飲み薬として、消化管を経由するか、皮膚から吸収されて全身に運ばれるかの違いがあるようです。ただし、まったくゼロではありません。稀に、薬を使用するようになってから食欲が低下することがあります。症状の程度によっては、中止も止むを得ません。しかし、リバスタッチ/イクセロンパッチが消化器症状の副作用で使えない場合、より副作用の強いレミニールとアリセプトは絶対に使えません。
5-2.発赤・掻痒感
リバスタッチ/イクセロンパッチの最大の副作用は発赤と掻痒感です。私の経験では30%の方が皮膚症状が原因で使用が中止になっています。軽い場合は、貼る前後に軟膏を使用すること症状を軽減することができます。令和1年8月に皮膚症状を改善する変更が行われました。しかし残念ながら皮膚症状で離脱する人がわずかに減った分、今まで問題なく貼れていた患者さんが、「剥がれる」という理由で離脱しています。
5-3.陽性症状・・抑制系のメマリー追加もしくは中止減量
レミニールとアリセプトと同様に、陽性症状が出現することがあります。この場合は、まずはブレーキ系のメマリーを追加します。それでも陽性症状が改善しない場合は、レミニールとアリセプトの場合は中止するしかありませんでした。しかし、リバスタッチ/イクセロンパッチは薬の強さによって4段階ありますので、細かく減量することで改善することがあります。
6.副作用を減らす方法
抗認知症薬を使用する場合は、以下の点に気をつけると、そもそもの副作用の出現を減らすことができます。
6-1.ブレーキをかけるべきか、アクセルをかけるべきかの検討
抗認知症薬を処方する前に、患者さんの状態がブレーキをかける状態か、アクセルを踏むべき状態かを観察しましょう。元気がない患者さんにブレーキ系の薬を加えたり、元気がありすぎる患者さんにアクセル系の抗認知症薬を使用することで、かえっておかしくなることは当然起こりうる症状なのです。
6-2.いったん落ち着いても、経過中に微調整を
仮に、アクセル系とブレーキ系のコントロールが上手くいっていても、漫然と薬を継続してはいけません。加齢に伴って、アクセル系やブレーキ系の調整を取る必要があります。加齢によって、元気がなくなってきたらアクセル系を増やすか、ブレーキ系を減らす必要があるのです。経験的には1年に1回程度は、薬の微調整が必要なことが多いと感じています。
6-3.家族の関心が重要
薬の微調整をするためには、常日頃の患者さんの状況を知ることが何よりも大事です。そのためには、まずはご家族に、患者さんへの関心を持っていただく必要があります。当院では、ご家族に小さなノートをお渡しして、日常で気が付いたことを書いてもらっています。その内容も参考にしながら、薬の微調整を行うのです。
7.まとめ
- 現在認可されている抗認知症薬には、それぞれ特徴的な副作用があります。
- 抗認知症薬は、主作用が副作用を上回る場合にのみ継続します。
- 副作用というより薬の特性を知らないために、当然起こりうる症状が出現していることもあります。