画一的な高齢者への脱水対応が、寿命を縮める可能性を専門医が解説

画一的な高齢者への脱水対応が、寿命を縮める可能性を専門医が解説

最近、私が協力医をしている入居施設で、「1日1500㎖の水分摂取を!」といった、ポスターが貼ってありました。内容をみてみると、入居者さんに、食事以外で1500㎖の水分摂取を薦めているとのことでした。このような一律な対応は、現場の医師としては、とても違和感のあるものです。超高齢化に伴い、入居者さんの平均年齢も90歳を超えている施設さえあります。そんな入居者さんの医学管理では、心不全や電解質の異常などにかなり気を使う必要があります。そのような場合、画一的な「食事以外で1500㎖の水分摂取」がかえって生命的リスクを増加させることさえあるのです。

今回の記事では、高齢者に対する適切な水分の対応方法を老年病専門医である長谷川嘉哉が解説します。

1.「食事以外で1日1500㎖」の根拠は

食事以外で、「1日1500㎖の水分摂取」にも根拠はあります。

1-1.人間が一日に排出する水分

人間は、生きていくための生命活動のために、一定量水分を排出しています。通常は、汗で100㎖、尿や便で1500㎖、そして不感蒸泄といって汗以外の皮膚や呼気で900㎖と考えられています。つまり、排出する分を補うには1日2500㎖の水分が必要というわけです。

1-2.水分摂取以外で摂取する水分量は?

食事にも水分は含まれています。食事に含まれる水分量は、食事摂取カロリー×0.4とされています。つまり、高齢者の1日の摂取カロリーを1600カロリーとすると、約640㎖の水分が含まれていることになります。さらに人間の身体では、いろいろな代謝活動が行われており、その際に代謝水が200㎖程度作られます。つまり、水分摂取以外に1000㎖弱の水分を摂取していることになります。

1ー3.必要な水分量は?

1日に2500㎖の水分が必要で、食事と代謝水で1000㎖弱が補充されると考え、その差の1500㎖の水分を摂取する必要があるというのが、施設が主張している根拠なのです。しかし、これらは、あくまできわめて健康な高齢者に対して有効な考え方です。

2.高齢者を一律に考えてはいけない

多くの高齢者は、基礎疾患を持っている方が多いものです。明確な疾患がなくても、身体の機能や代謝は落ちているものです。そのため高齢者に一律、食事以外の1500㎖を投与する前に、以下のチェックが必要です。

  • 血液検査:血液中のBNPやクレアチニンを測定することで、心不全や腎不全の有無の確認が必要です。
  • 体重変化:定期的な体重測定で、体重の増加や減少を把握する必要があります。
  • 浮腫:顔や足の浮腫の確認が必要です。足の下腿の、脛骨全面を指で圧迫して確認します。

3.過剰な水分摂取が危険な患者さんもいる

紹介したようなチェックを行うと高齢者の方であれば、半数近くの方が何らかの異常を認めます。特に、以下のような方には、食事以外の1500㎖は多すぎます。

3-1.心不全の患者さん

高齢者の場合、血液検査をするとかなりの頻度で血液中のBNPの高値が見られます。BNPとは、心臓から分泌されるホルモンで、正規名称は脳性ナトリウム利尿ペプチド(=brain natriuretic peptide)です。心臓に負担がかかったり、心臓の筋肉が肥大すると高くなるので、BNPの血液中の濃度を測定すると心臓の状態が分かるのです。BNPが高値の方に、過剰な水分摂取を行うと、心臓に負担をかけ、心不全が悪化する危険があります。BNPについては以下の記事も参考になさってください。

3-2.腎不全の患者さん

血液中のクレアチニンが高値を示すCKD(慢性腎臓病)患者さんは、超高齢化に伴い全国で増加しています。CKD(慢性腎臓病)患者さんは、初期には自覚症状がほとんどありません。しかし、患者数は1330万人いると言われてます。このような患者さんに、過剰な水分摂取を行うと浮腫、体重増加、呼吸困難、血圧上昇の症状が出現することがあります。クレアチニンについては以下の記事も参考になさってください。

3-3.食事量が低下している患者さん

加齢に伴い食事量が低下している患者さんは、タンパク質の摂取が減っています。その状態で、過剰な水分を摂取すると、低アルブミンによって浮腫が強く出てしまいます。そもそも、このような状態では、不感蒸泄の量も減っていますので、私の経験では、水分量はせいぜい1000㎖で十分です。1500㎖などは、明らかに多すぎます。アルブミンについては以下の記事も参考になさってください。

4.水分摂取が有効な高齢者

1日1500㎖の水分摂取が有効な高齢者の方もいらっしゃいます。

4-1.元気な高齢者

日々の活動性も高く、血液検査でもBNPやクレアチニンの異常がなければ、必要であれば1500㎖の摂取も必要です。

Senior man drink mineral water in fitness center.
健康で活動量が多い方はどんどん水分摂取をしていただきたいです

4-2.血管性認知症の方

認知症患者さんの中でも、血管性認知症患者さんには、適切な水分摂取が必要です。水分量が足りないと、認知症が悪化したような、いわゆる「まだら認知症」の症状が起きてしまいます。まだら認知症については、以下の記事も参考になさってください。

4-3.心血管系の後遺症のある患者さん

脳梗塞や心筋梗塞の既往のある患者さんは、適切な水分をとることで、血液の粘調度を下げる必要があります。しかし、これらの既往のある患者さんは、心不全や腎不全を合併していることが多いため、水分摂取は必要ですが、決して過剰な水分摂取には注意が必要です。

5.正しい水分管理

高齢者の方を預かるよ施設ではけっして、一律に「1日1500㎖の水分摂取」は危険です。最低でも、1年に1回は血液検査を行い、血中のBNPやクレアチニンのチェックが必要です。その上で、個別の対応が必要なのです。

血液検査も行わずに、一律1500㎖の水分摂取をすることは、心不全、肺水腫、高血圧を引き起こして、生命的な危険を引き起こす危険性さえあるのです。

6.まとめ

  • 高齢者に一律、食事以外の1500㎖を投与する前には、血液検査によるチェックが必要です。
  • 心不全・腎不全・食事量が低下している患者さんに、1日1500㎖の水分摂取は多すぎます。
  • 水分の摂取量は、高齢者の方それぞれに対して個別対応が必要です。
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