認知症と診断されたら?知っておきたい7つのポイントを専門医が解説

認知症と診断されたら?知っておきたい7つのポイントを専門医が解説

毎日、認知症専門外来をしていると、多くの患者さんに「認知症」の診断をします。その際の本人やご家族の反応は、まちまちです。とてもショックを受けられる方、将来への不安を感じる方、逆に明確な診断を受けて安心される方までいらっしゃいます。中には、どうしても納得できない家族もいますし、そもそも全く病識のない患者さんもいらっしゃいます。

とはいえ、程度の差はあれ「認知症」であることは疑いありません。そんな時にどのような心構えをし、また実務的な対応をしていけばいいでしょうか

今回の記事では、月に1000人の認知症患者さんを診察する長谷川嘉哉が、認知症の診断を受けた際の心構えについてご紹介します。

目次

1.認知症初診を受診される方のパターンとは

Senior male patient sitting upset on bed with stick at retirement home
周囲の誰かが「なんか変だ」と感じられて受診されることが大半です

そもそも、認知症専門外来に受診される患者さんは以下のようなケースが大半です。

1-1.同居家族がおかしいと感じて

やはり最も多いのは、同居しているご家族が「物忘れが激しい」、「同じ話を繰り返す」、「いつも物を探している」といった症状から受診されるケースです。やはり同居しているため、細かい変化に気づかれることが多いようです。そのうえ、マスコミでも「認知症は早期受診」と啓蒙しています。そのため、同居家族が気が付くと、比較的早い段階で受診いただけるようです。

1-2.近所や第三者がおかしいと感じて

同居家族が気が付かない、そもそも患者さんに関心がない場合は、認知症の症状が放置されていることがあります。そうなると、近所の方や、久々に会った身内の方が、「認知症なのでは?」と気が付くことがあります。残念ながら、近所の方が指摘するほどの症状である場合は、高い確率で認知症と考えてください。

1-3.実の息子や娘は納得しないことが多い

実の息子さんや、娘さんは心のどこかで「自分の親は、認知症であってほしくない」と考えています。そのため、事実から目をそらしがちになり、受診が遅れがちになります。感情に流されることなく、冷静な判断が求められます。そのためには、義理の関係の方の意見を参考にすることをお勧めします。なお、離れて暮らしている息子さんが、久々に帰省した際に、「何か変」と感じた感覚は、とても正しいものです。躊躇せず、専門医の受診をお勧めします。以下の記事も、参考になさってください。

2.診断を受けて最初に行うこととは

認知症の診断を受けたら、以下の確認をお願いします。

2-1.年金額の確認

介護問題は、お金で90%は解決します。そのため、年金額の把握が必要です。私は、フィナンシャルプランナーでもあるため、今後の介護生活初診の段階で、「年金額はいくらですか?」と伺っています。それにより治療だけではなく、今後の生活をどうしていけばいいかアドバイスができるからです。

しかしながら、半数以上のご家族は把握していません。親に年金額を聞くことはことは、ためらわれますが必要なことです。どうしても聞けない場合でも、自営業であれば国民年金で6万前後/月、サラリーマンであれば、15万前後/月と、おおよその金額の把握は可能です。

2-2.財産管理ができるレベルにあるかどうか

頻回に通帳をなくしているようであれば、財産管理自体が難しいと考えましょう。具体的には、認知症の評価スケールであるMMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)が30点満点中で20点以下になっていると財産管理は難しいと考えてください。いきなりですと、抵抗を示す患者さんもいますので、時間をかけて徐々に子供さんが管理するようにしましょう。

2-3.介護申請をする

認知症の診断がついた段階では、多くのご家族は「まだ介護保険は早いのでは?」と考えがちです。しかし、介護保険で利用できるデイサービスなどに通うことは、進行予防目的にもなります。多少本人が嫌がっても利用すべきです。なお、MMSEが15点を切っているようなケースは、入所も検討する必要がありますので、早急に申請が必要です。地域包括支援センターなどに相談しましょう。

2-4.運転をしていれば、免許返納

認知症の診断を受けた時点で、免許返納を検討しましょう。75歳を超えた方は、免許更新時に試験を受けます。この試験で48点以下であれば、赤い紙が来て免許の更新できません。しかし、49点から75点までの方には、黄色い紙がきて、1時間余分に講習を受けることで運転が可能です。この段階は、完全に正常なわけでは無いので、免許の更新ができても、運転は控えめにしてください。事故や違反があれば、すぐに免許の返納が必要です。いずれにせよ、認知症の診断を受けた場合は、免許更新時の結果にかかわらず返納が基本です。以下の記事も参考になさってください。

2-5.身内への連絡と介護力の確認

認知症の診断を受けたら、患者さんの子供さんには、その旨を連絡しましょう。医療や介護の現場では、突然何も知らされていない子供さんがやってきて、「何も聞いていない!」と憤慨され、現場を混乱させることも多々あるのです。そのために必ず連絡をして、どの程度の介護への協力を頼めるかも確認しておきましょう。

3.認知症の流れを知ることで不安を軽減

認知症の診断を受けると、不安になります。しかし、その流れを知ることで、不安を軽減することは可能です。

3-1.認知症のレベルを確認する

まずは、認知症のレベルを理解しましょう。具体的には、MMSEが30点満点の20点以上であれば軽症であり、物忘れはあっても、生活は自立しています。そのためこのレベルを何とか維持したいものです。逆にMMSEが14点以下になってくると重度であり、生活のかなりの部分に介助を要します。介護力によっては、入所の検討も必要です。MMSEが15点から19点の方は中等度であり、経過の中で、軽度にも重度にも変わりうるのです。

3-2.認知症の症状を知る

認知症の症状は、中核症状と周辺症状に分かれます。中核症状は、認知症の初期の症状で、「物忘れ」、「同じ話を繰り返す」、「同じ質問を何度もする」といった物忘れが主体です。この段階では、家族があまり困ることはありません。しかし、症状が進行すると周辺症状と言って「幻覚」、「妄想」、「易怒性」といった症状が出現します。周辺症状が出現すると介護負担は急激に重くなります。


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3-3.診断後1年の経過が重要

認知症の診断をすると、必ず「どの程度で進行していきますか?」という質問を受けます。残念ながら、初診の段階では明確にお答えはできません。ただし、最初の1年を経過すると、その後の状況についてある程度の目星はつきます。進行する患者さんは、最初の1年で急激にMMSEが悪化します。逆に、1年間、MMSEが変化しない患者さんは、比較的長期に症状が維持される傾向があります。私の外来では、10年間ほとんど症状やMMSEの点数が変わらない患者さんも結構いらっしゃいます。この方々の特徴は、やはり早期受診をされており、具体的にはMMSEが20点以上で受診されている方が大半です。

4.初診時のレベルによる対応方法の違い

認知症の経過を知ると、初診の段階によって治療目標が異なります。

4-1.早期から初期は進行予防と改善を目指す

認知症の初期、つまりMMSEが20点以上の場合は、進行予防、場合によっては改善も目標とします。そのため、抗認知症薬も飲み忘れがないよう、正確な服薬が重要です。積極的な社会参加もすすめ、介護サービスを使った頭や身体のリハビリも取り入れたいものです。仕事をしている方は、リハビリ目的で継続すると有効です。

4-2.中核症状の段階では介護保険サービスの利用が必須

認知症の中核症状があり、MMSEが15点から19点の方は、進行にともなって周辺症状を出現させないことが重要です。自宅で刺激の少ない状態でいることが、もっとも進行を速めてしまいます。そのため、介護保険を活用した施設利用が必須です。この段階では最低でも介護度①は認定されます。そのため、少なくとも週に2回はデイサービスを利用したいものです。同時に、家族の負担も減らせるショートステイも利用したいものです。

4-3.周辺症状はできるだけコントロールしよう

初診の段階で、周辺症状が出ている場合は、薬でのコントロールが必要です。周辺症状がコントロールできないと、介護サービスの利用もままならず、在宅生活が困難となります。場合によっては精神科入院も必要となります。詳しくは、以下の記事も参考になさってください。

5.家族に何ができるか?

認知症の診断を受けると、ご家族によっては「何か患者さんのためにしてあげることはありませんか?」と聞かれます。ご本人のために何ができるでしょうか

5-1.患者さんに関心を持つ

専門医としては、いろいろお願いしたいことはあります。しかし、一言でまとめると「患者さんに関心を持ってください」とお願いします。具体的には以下のお願いです。

  • できるだけ顔を出して、一緒に食事でもしていただければ刺激になります。
  • 行きたがられないデイサービスの利用を促してください。
  • 服薬管理は必須です。薬を服用して前後の変化も気にしてください。
  • 気になることがあったらメモをして、主治医に見せてください。
  • 1人の介護者が抱え込まず、皆で分担しましょう。

5-2.介護できなければ、口を出さない

介護は、何かをすることだけが重要ではありません。主たる介護者がいて、自身は事情があって介護ができない場合は、口を出さないことも大事です。手を出さない人が口だけ出すと、介護者を疲弊させます。言いたいことがあっても、黙って介護者にお願いすることも大事なのです。

5-3.介護費用を出す

介護の9割はお金で解決します。本人の年金が、介護費用に足りない場合は、お金を出すこともとても重要です。事情があって介護の手助けができない場合は、経済的フォローをしてあげることは、とても助かるのです。

6.本人が納得しないケースが最も困難

患者さんによっては、自分自身が認知症であることを全く認識しない方が一定数います。認知症と自覚しないのですから、薬も拒否します。もちろん、介護サービスの利用も拒否されます。ご家族がもっとも疲弊するケースです。そのため家族からの依頼で、「あなたは認知症がありますよ」と説明することもあります。しかし、その場では分かった顔をしても、帰宅しても「私は医師からは何も言われていない」と主張します。

残念ながら、このような状態ではなす術がありません。ある程度、認知症が進行する段階まで様子を見てから、対応をせざるを得ないのです。

7.認知症患者さんの最期とは

Asian daughter visiting her mother lying in bed at hospital room
患者さんご本人に身体的負担が少ない方法を検討しましょう

認知症の最期を知っておくことも大事です。認知症の患者さんの最後は「食事」を摂らなくなります。患者さんは元気の時は、食欲は旺盛な方が多いです。しかし、経過の中で骨折、肺炎、老衰により徐々に食事量が減ってきます。そして、最後は食事自体を認識することができなくなり、生命的最期を迎えるのです。

ここで、ご家族が感情に流されて、中心静脈栄養や胃ろうといった選択をしてしまうと、患者さん自身を苦しめることにつながります。できれば、冷静に判断をして、自然の流れで経過を看てもらいたいものです。そのことが分かると家族も、精神的不安がかなり取り除かれるものです。

ぜひ、以下の記事も参考になさってください。

8.まとめ

  • 認知症の診断をうけた際の本人やご家族の反応はまちまちです。
  • 不安を和らげるには、認知症の経過を知っておくことが重要です。
  • 認知症の最期の対応を間違えると、患者さんに過剰な負担を強いてしまうので注意が必要です。
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