「小規模多機能ホーム」が全国各地に存在しています。利用者一人ひとりにケアプランが作成され「通い」「泊まり」など臨機応変に利用できるというものです。
私は、最近立て続けにこの小規模多機能ホームを利用している患者さんから相談を受けました。いずれも患者さんが重症化しており、他の入所施設への移動をしたいのですが、ケアマネが動いてくれないとのこと。家族は困ってしまい、相談のために当院に受診されました。
結論としては小規模多機能ホームは制度上の問題が多く、お勧めできません。なにしろ、他に代替え案もたくさんあるのです。
その結果、当グループはもちろん、土岐市内においてはどこも「小規模多機能ホーム」を運営していないのです。これはどういうことなのでしょうか。認知症専門医として在宅医療にも熟知している長谷川嘉哉が、その理由についてご紹介します。
目次
1.小規模多機能ホームとは?
小規模多機能型居宅介護とは、2006年4月の介護保険制度改正とともにスタートした地域密着型サービスの一つです。1事業所当たりの一日の定員登録数は29名以下で、最大の特徴は「通い(通所サービス、デイケア)」「泊まり(ショートステイに近いサービス)」「訪問(訪問サービス)」の3形態が一体になっている点です。利用者は一つの事業所で、顔なじみのスタッフから、「通い」「泊まり」「訪問」を組み合わせたサービスを受けることができます。ただし勘違いしてはいけないのは、あくまで生活の主体は自宅であることです。
2.そのセールストークは?
小規模多機能の触れ込みは、一見とても魅力的です。しかし、事業性は極めて低くく、事業所の半数近くは赤字です。
2-1.利用料金は定額制!
小規模多機能型居宅介護の料金設定は、要介護度の差はありますが、基本的には定額の料金体系となっていて、必要があれば週何回でも「通い」や「訪問」サービスを利用することができます。
2-2.きめ細かく、柔軟に対応?
「通い」は、定員はだいたい15名以下。プログラムを一人一人自由に作成できるため、時間的制約がありません。
「デイサービスと違う点は、全員同じというプログラムはなく、お一人様ごとのスタイルで利用することができます。例えば、『朝来て、お昼を食べたら帰りたい』『朝はゆっくり。午後からサービスを利用したい』などもOKです」などとあります。このオーダーメード感がありがたい印象を受けるかもしれません。
「宿泊」は、定員はだいたい9名以下。内容はショートステイに近いのですが、ショートステイのように事前に日程を決めておく必要はなく、急な宿泊にも対応可能という施設が多いようです。
しかし、現実には「時間的制約」もあり「急な宿泊に対応できない」こともあるようです。
「訪問」は、一般の訪問介護のような時間面や内容面での規定が無いため、「通い」と折り合わせれば一層便利に活用できるとのことです。このような触れ込みを見ると「アットホームで、少人数制で、こちらの都合にも臨機応変に対応してくれる使い勝手の良い施設」と判断してしまうかもしれません。
3.デメリットは?
一見、魅力的に思える小規模多機能ホームですが多くの問題があります。
3-1.慣れ親しんだケアマネを変更する必要がある
最大の問題点がこれです。小規模多機能ホームは、利用者が「在宅で生活している」のであって施設やグループホームのように「自宅から離れる」わけではありません。それなのに小規模多機能ホームを利用することに決めると、馴染みのケアマネをそのホームのケアマネに変更しなければならないのです。それがどういうデメリットがあるかについても解説していきます。
3-2.定額制は使わなくても負担しなくてはならない
「使い放題だな」と思っても、その逆もあります。サービスを使わなくても利用料は徴収されてしまうのです。意外と使わなくても済むケースが出て来るものです。
3-3.他の介護保険サービスが使えなくなる
小規模多機能ホームを利用すると、他の介護保険サービスは利用できなくなってしまいます。例えば、利用者のニーズも高い訪問入浴介護、通所リハビリテーションは使えなくなります。また、訪問介護、通所介護、ショートステイにおいて小規模多機能ホームから提供されるものしか使えなくなるのです。特に通所サービスでリハビリを希望する利用者さんにはデメリットです。
3-4.外部からの視点が入らない
入所すると、ケアプランは小規模多機能ホームのケアマネが作成します。しかし、なかなか家族の希望通りにはいきません。例えば突然ショートステイを希望されてもその日の利用者が一人しかいなければ採算は取れないので、断られるということになります。そのため、施設によっては指定した曜日のみ受けられるようになっています。とても「急な宿泊にも対応可能」とはいかないのです。
内部のケアマネでは監視や改善を伝えることができないデメリットがここにもあります。
3-5.重度化したときもギリギリまで囲い込もうとする
そもそも、小規模多機能ホーム利用では生活の主体は在宅です。そのため認知症介護や、身体介護が進行した場合、施設入所を考える必要があります。その時にネックになるのが小規模多機能ホームのケアマネです。自社の利用者を減らすことに抵抗があるのか、積極的に動いてくれません。結果、困った家族自らが、入所施設を探さなければいけなくなるのです。
4.その他のデメリットもある
実は、当グループのように訪問診療をトータルに提供している事業所から見ても、利用者さんとご家族のデメリットを感じます。
4-1.訪問診療・訪問看護の制限
保険診療上、患者が訪問診療を受けられるのは、 自宅や高齢者住宅などの普段生活している場所に限られます。そのため、小規模多機能ホームを利用している方だと、ご自宅にいるときにしか訪問診療や訪問看護を提供することができません
4-2.そもそも、介護負担が軽くならない
多くの小規模多機能ホームでは、ふれこみほどいつでも宿泊はできません。施設側の都合で、週の一定の日数(ある程度の数の利用者さんがいる)しか、宿泊を受け付けていないホームも結構あるようです。そうなると、在宅で介護している家族としては、あまり介護負担は軽くならないのが実情です。
なかには、長期間宿泊させてくれるホームもあるのですが、それも本末転倒です。それなら施設を選択する方が介護も手厚くなります。
4-3.小規模多機能ホームを使わなくても通常のケアプランで対応可能
小規模多機能ホームを使わなくても、普通にデイサービスやショートステイを使えば一緒です。特にショートなどは1〜3カ所程度を使い分ければ、緊急時もどこかの施設が受け入れてくれます。同一事業所の場合、「顔なじみのスタッフが対応してくれる」といっても、実際には勤務はローテーションですからいつも同じスタッフになるわけではありません。このこと自体も大したメリットにならないのです。
メリットにあった「一人ひとりに合わせたオーダーメード型のケアプラン作成」ですが、一般的なデイサービスは自由に休めますし、午前、午後のみの利用が可能なところも多いです。生活リズムを考えれば、それほどオーダーメードの優先順位は高くはありません。
5.現実的な経営面では?
基本理念として、「24時間切れ間無く、利用者の希望を受け止め、叶えることをとしている」という触れ込みで導入されたサービスですが、多くの事業所が参入に躊躇しました。実際、当グループにも打診がありましたが、制度上の問題および採算性の低さからお断りしました。
5-1.厳しい人材配置
まず、規模に対して人材手配の困難さがあります。基準は次の通りです。
管理者=1名(兼務可)、介護従業者=3:1(訪問対応の職員はこのうちから)、介護従業者のうち1名以上を看護職員(非常勤可。毎日でなくても可)、深夜は状況に応じ夜勤または宿直+訪問対応できる者(オンコール可)、計画作成担当者=介護支援専門員(兼務可)。利用者の定員に比べ、あまりに人材の配置基準が厳しいのです。
5-2.経営側が受け取る介護報酬が低い
グループホームと比較した表が以下です。特に、介護度1〜2でグループホームに比べて単価が低いことが分かります。そのため経営上は、介護度3以上の方ばかりを利用させたくなるのです。経営側からすれば「せっかくの介護度5の方を他に移したくない…」。
これが、「介護度が重くなった家族が、特養等に移したいと考えても積極的に動いてくれない」理由の一つかもしれません。
要介護度 | グループホーム | 小規模多機能 |
要介護1 | 23,670/月 | 11,430/月 |
要介護2 | 24,810/月 | 16,325/月 |
要介護3 | 25,560/月 | 23,286/月 |
要介護4 | 26,070/月 | 25,597/月 |
要介護5 | 26,580/月 | 28,120/月 |
6.アドバイスの末、小規模多機能から特養に移った例
当院に受診されていた患者さんです。小規模多機能ホームを利用するも介護負担が重くなり、施設入所を検討。しかし、小規模多機能ホームのケアマネに訴えても、全く動いてくれない。そこで、小規模多機能ホームに入所する前に、長年お世話になったケアマネに相談。施設等の情報を頂き、家族自身で申込をし、最終的には特養に入所が決まりました。
全く利益にもならないのに、相談に乗ってくださった以前のケアマネさんには頭が下がります。それに比べ、小規模多機能ホームのケアマネは・・・。経営を考えるとやむを得ないのかもしれませんが・・・。
7.まとめ
- 小規模多機能ホームの利用はお勧めしません。
- 在宅で生活する限り、他の介護サービスを利用することで同等以上に介護負担を軽減することが可能です。
- 小規模多機能ホーム利用中に、介護負担が悪化して施設入所を希望する場合は、ホームのケアマネに期待することなく、ご家族自身が動く必要があります。