老年病学会も提言・高齢者の転倒は事故でない・・安易に訴えないで

老年病学会も提言・高齢者の転倒は事故でない・・安易に訴えないで

令和3年10月、弁護士さんから当院に連絡が入り患者さんのカルテ開示を要求されました。入所していた施設で転倒・骨折後入院。その後、お亡くなりになられたため、遺族が施設を訴えたようです。それに伴い、患者さんの状態を把握するためのカルテ開示要求とのことです。現在、高齢者の転倒は事故と考えられることが多いようですが、私も所属する老年病医学会では、「対策をとって予防しても、一定の確率で高齢者の転倒は発生する」ことを表明しました。どうか多くの方にこのことを理解いただき、安易に施設を訴えるようなことは避けることをお願いしたいものです。

1.高齢者の転倒は事故でない

日本老年医学会は以下の4点を表明しました。

1-1.転倒すべてが過失による事故ではない

転倒リスクが高い入所者については、転倒予防策を実施していても、一定の確率で転倒が発生する。転倒の結果として骨折や外傷が生じたとしても、必ずしも医療・介護現場の過失による事故と位置付けられない。

1-2.ケアやリハビリテーションは転倒リスクが高まっても継続する

入所者の生活機能を維持・改善するためのケアやリハビリテーションは、それに伴って活動性が高まることで転倒リスクを高める可能性もある。しかし、多くの場合は生活機能維持・改善によって生活の質の維持・向上が期待されることから原則として継続する必要がある。

1-3.転倒についてあらかじめ入所者・家族の理解を得る

転倒は老年症候群の一つであるということを、あらかじめ施設の職員と入所者やその家族などの関係者の間で共有することが望ましい。現実には、「介護者は介護のプロだから転倒したのは施設の責任」と主張していご家族がいるので困ってしまいます。

1-4.転倒予防策と発生時対策を講じ、その定期的な見直しを図る

施設は、転倒予防策に加えて転倒発生時の適切な対応手順を整備し職員に周知するとともに、入所者やその家族などの関係者にあらかじめ説明するべきである。また、現段階で介護施設において推奨される対策として標準的なものはないが、科学的エビデンスや技術は進歩を続けており、施設における対策や手順を定期的に見直し、転倒防止に努める必要がある。

2.高齢者の転倒の原因

高齢者の転倒は、

  • 身体機能:下肢筋力低下、認知症、視力障害
  • 住環境:床が滑りやすい、不適切な介助

などが原因となります。しかし、どれだけ対策を取って予防しても一定の確率で高齢者の転倒は発生します。つまり、転倒は加齢に伴う老年症候群の一つであって、事故ではないのです。

*老年症候群:老化に伴って心や体に様々な症状がまとまって出てくることを言います。特に75歳以上の後期高齢者で増えてきます。

3.転倒発生率

実際、高齢者の施設では相当の頻度で転倒が起こっています。転倒については、以下のような報告があります。この報告からわかることは、相当の頻度で転倒は発生するということです。


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転倒発生率は一人当たり 1 年間に 2 回程度、入所者の 4 割程度が転倒を経験している状況である。骨折や病院搬送が必要となるような重篤な転倒も 1 年間で入所者の10%程度が経験する。100人の入所者の施設であれば、40人程度が 1 年間で平均5回程度転倒し、そのう ち 10人程度で骨折などを生じていた。

4.訴訟をしても、弁護士が儲かるだけ

そもそも、訴訟とはどの状態でおこるのでしょうか? 明らかに施設側に100%の責任がある場合は訴訟にはなりません。この場合は、施設側が謝罪するしかありませんので訴訟にはならないのです。

実際に訴訟になるケースは、施設側はできる限りのことをした。しかし、家族はもっと対策があったと主張しあうことでおこるのです。したがって、裁判をしてもどちらかが100%正しいという結果にはなりにくいのです。結果、労力と精神的負担だけが増えてしまうのです。結局儲かるのは、双方の弁護士だけとなってしまうのです。

できれば施設の方には、事故が起こった時点で、詳細に状況を聞き取り、職員全員が情報を共有。ご家族から質問を受ければ誰もが統一した状況説明をしてあげると、訴訟になることは少ないようです。一方で、ご家族にお伝えできるとすれば、過去を振り返るのではなく、未来に向かって歩いてもらいたいと思います。

5.本当に困った方を受け入れられなくなる

このような介護訴訟がふえると、本当にご家族が困っている患者さんの受け入れは拒否することになると思います。またリハビリなどでADLを向上するとかえって動き回り転倒のリスクが増えてしまうため、あえて寝たきりに誘導することさえあります。実際、私の知る特養では、「歩ける人はお断り、寝たきりの方のみ受け入れる」という施設さえあるのです。

認知症があって歩き回る、しかし歩行は不安定で転倒の危険がある。このような高齢者を自宅で看ることはことは本当に大変です。時に、介護者が倒れてしまうことさえあります。

本来、介護施設はそういった人のためにあり、働く人もそこに働き甲斐をもっているのです。今回老年病医学会が、「高齢者の転倒は事故でない」という提言をしたことを多くの方々に理解いただくことが、結果的に本当に介護に困った人たちを救うことになるのです。

6.まとめ

  • 介護の現場では転倒した要介護者さんのご家族が施設を訴えることがあります。
  • 老年病医学会が、「高齢者の転倒は事故でない」という提言をしました。
  • 多くの人が「高齢者の転倒は事故でない」を理解しないと、本当に介護が必要な方が入所できなくなります。
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