「本当はここで最期までいたかった」――施設を追われる高齢者

「本当はここで最期までいたかった」――施設を追われる高齢者

認知症の方の施設選びについて、最近とても強く感じることがあります。それは、単に「どの施設が良いか」だけでなく、「その施設にいつまで住み続けられるのか」まで考えなければならない時代になったということです。

私は認知症専門医として多くの患者さんとご家族を診療し、自分自身でもグループホームを経営しています。以前は、一度グループホームに入所すると、慣れ親しんだ職員に囲まれ、そのまま看取りまで過ごされる方が少なくありませんでした。認知症の方にとって、生活環境が変わらないことは何より大切です。

しかし現在、それが難しくなっています。大きな理由は、年金だけでは施設費用を賄えない方が増えていることです。毎月数万円、場合によっては10万円近い持ち出しが続き、やがて本人の貯金も底をつく。その結果、住み慣れた施設を離れざるを得なくなるのです。

目次

第1章 「ここが嫌」ではなく「お金が続かない」

私たちのグループホームでも、以前は多くの方を看取りまでお世話していました。ところが現在は、感覚的には8割近くの方が途中で特別養護老人ホーム、いわゆる特養へ移られます。

決してグループホームが嫌になったわけではありません。長く暮らした部屋があり、顔なじみの職員がいる。食堂やトイレの場所も分かり、入居者同士の関係もできています。認知症の方にとって、この「慣れ」は安心そのものです。

それでも退居しなければならない最大の理由がお金です。例えば年金が月10万円で、施設費用が月15万円なら、毎月5万円の赤字です。年間では60万円、5年間なら300万円になります。さらに医療費や日用品代も必要です。

最初は本人の預金から支払えても、500万円あった貯金が300万円、100万円と減っていけば、家族も不安になります。「あと何年続くのだろう」「貯金がなくなったら、誰が払うのか」その結果、要介護3になった段階で特養への入所を検討することになります。退居される方から、こう言われることがあります。「本当は、ここで最期までいたかったんだけどね」

経営する側としても、本当に寂しい言葉です。しかし、本人の希望だけで毎月の赤字を埋め続けることはできません。施設選びでは、介護の質だけでなく、最後まで払い続けられるかも重要なのです。

第2章 子どもが払い続ける設計には限界がある

施設費用が月18万円、本人の年金が月12万円なら、毎月6万円が不足します。年間72万円、10年間なら720万円です。預金が十分にあれば問題ありません。しかし預金がなくなった後、長男と長女が毎月3万円ずつ負担するという設計は、本当に続けられるでしょうか。

子どもたちにも住宅ローンや教育費があり、自分自身の老後にも備えなければなりません。兄弟によって経済状況も、介護への関わり方も異なります。「私は介護もしているのに、お金まで出すのか」「兄は出しているのに、妹は出していない」こうした不満から、兄弟関係まで壊れてしまうことがあります。

だからこそ施設に入る時点で、できる限り、本人の年金と本人の資産で完結できる仕組みを考えてほしいのです。理想は、年金の範囲内で生活でき、看取りまで対応してくれる施設を選ぶことです。しかし、それが難しければ、最初から「出口」を考えておかなければなりません。

「元気なうちはこの施設で暮らし、介護度が上がったら特養へ移る」これは決して冷たい考え方ではありません。長い介護生活の中で、本人と家族の双方を守るために必要な準備なのです。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


第3章 要介護3になったら、早めに特養を申し込む

施設を選ぶ際、私は施設費用を年金で賄えるかを重視しています。年金でほぼ支払うことができ、看取りにも対応しているのであれば、多少費用が高くても、一つの施設で天寿を全うする価値があります。

認知症の方は環境の変化が苦手です。部屋や職員、生活時間が変わるだけで混乱し、認知症の症状が一時的に悪化することもあります。できるだけ転居を避けることは、立派な認知症ケアなのです。

一方、毎月かなりの持ち出しが必要なら、要介護3になった段階で特養を申し込むことをお勧めします。特養は原則として要介護3以上が対象ですが、申し込めばすぐに入所できるわけではありません。地域や本人の状態によっては、長く待つこともあります。

貯金が底をついてから「もう払えないので、今すぐ入れてください」と動き始めるのでは遅いのです。要介護3になった時点で申し込み、待っている間は現在の施設で暮らす。順番が来たら、本人の状態や残っている資産を踏まえて、実際に移るかを家族で判断すればよいのです。

申し込んだからといって、必ず移らなければならないわけではありません。大切なのは、追い詰められる前に選択肢を持っておくことです。

おわりに 「今払える」より「最後まで払える」

施設を選ぶとき、設備の新しさや食事、職員の対応を見ることはもちろん大切です。しかし、それだけでは十分ではありません。自分の年金はいくらなのか。毎月の持ち出しはいくらになるのか。預金は何年間もつのか。看取りまで対応してくれるのか。そして、途中で特養へ移る可能性をどう考えるのか。

ここまで考えて、初めて本当の施設選びになります。施設介護は数か月ではなく、5年、10年と続く可能性があります。だから私は、「今払える施設」ではなく、「最後まで払い続けられる施設」を選んでほしいと思います。

それが難しい場合は、要介護3になった段階で早めに特養へ申し込む。それは本人を見捨てることではありません。住み慣れた施設を離れるのは、本人にも家族にもつらい決断です。だからこそ、お金が尽きてから慌てるのではなく、元気なうちから準備しておく。それが、本人の尊厳と子どもたちの生活、その両方を守るための現実的な介護設計なのです。

長谷川嘉哉監修シリーズ