最近週刊誌では、「歯医者のウラ側 徹底解明! 」、「やってはいけない歯科治療」などの特集が組まれています。内容を読めば、それなりに歯科医の言い分も書かれていて勉強になります。しかし、多くの方は「見出し」だけをみて、やはり「歯科医は自費診療で儲けているんだ」、「歯医者なんで受診する必要はないんだ」と間違った判断をされてしまう方もいらっしゃいます。私は、脳神経内科専門医として、日々歯科治療の重要性を実感しています。平成30年からはクリニックに歯科用チェアーを設置し、歯科衛生士を雇用、さらに口腔ケアの効果に驚いています。
きっと週刊誌の見出しを見て、歯科医の先生方は悔しい思いをされていると思います。今回の記事では、認知症専門医の長谷川嘉哉が、あえて週刊誌の見出しに反論する形で、歯科治療の重要性についてご紹介します。
目次
1.歯科診療所が、コンビニを数を下回ったことはない
歯医者さんに対して、「コンビニより多い」というフレーズはよく使われます。意図としては、それほど多いため経営が上手くいかない歯医者もあることが言いたいようです。
ちなみに1993年の歯科診療所の数は55,906カ所、コンビニが22,852店でした。2017年の歯科診療所の数は68,609カ所、コンビニが57,956店。正しく解釈すれば、歯科診療所の増え方は緩やかですが、コンビニの増え方が急激なのです。いずれ、コンビニの数が歯科診療所の数を上回れば、コンビニ経営が苦しい理由になるかもしれません。
2.歯科医は家族に保険診療を行わない。
歯科では、自費診療も選択肢として提示されることがあります。「やってはいけない歯科治療」などと聞くと、自費診療は不要と勘違いされる患者さんもいらっしゃいます。しかし、多くの歯科医は、「身内に保険診療はしない」と言い切るのです。
2-1.保険診療は治療の制限
歯科における保険診療は決して十分なものではなく、最低限のものであることを知るべきです。いわゆる歯の詰めものとしては、保険診療だと銀歯(金銀パラジウム合金)が主体です。しかし、強度があまり強くないため割れる可能性がありますし、何より見た目も良くはありません。つまり、強度・見た目に問題があっても最低限の治療として保険診療で認められているのです。
2-2.「黙って保険診療」は良い歯科医ではない
同じ詰め物でも金は溶かした後の収縮が小さく、よく伸びて歯に密着し軟らかいので、噛めば噛むほどかみ合わせの歯に合った形になり、溶け出すことも少ない金属です。したがって、金は歯を修復するのに優れた材料となっています。しかし、高価なので保険外治療となります。 そのため、歯科医によっては、説明もなく保険診療のみを行っているケースが多くなるのです。しかし、それが本当に良い歯科医と言えるでしょうか?
2-3.自費診療のメリットを説明する歯科医こそ信頼できる
私自身も、以前は自費診療は歯科医の儲けのためと思っていた時期もありました。しかし多くの歯科医を情報交換をすると、自費診療には保険診療以上のメリットがあるようです。ならば、費用負担をしてでも自費診療を希望する患者さんはたくさんいるはずです。歯科医の先生方には、自信をもって自費診療を勧めていただきたいものです。
3.歯周病は治療するものでなく予防するもの
歯周病についても週刊誌のタイトルでは、「歯周病治療 抜歯ドミノの悲劇」などといった見出しが出ています。そうすると、歯周病では歯科医に罹ってはいけない?という誤解を招くことにもなりかねません。
本来、歯周病は治療するものではなく、予防するものです。患者さんの中にも「歯科医を受診したら勝手に歯を抜かれた」とおっしゃる方がいます。しかし、多くは歯周病が悪化して歯がぐらぐらになった状態で受診されたケースです。
歯周病は、定期的に歯科受診をすることで予防し、できれば8020運動でなく8028ですべての歯を残すべきなのです。
*8020運動:1989年(平成元年)より厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。20本以上の 歯があれば、食生活にほぼ満足することができると言われています。
なお、歯周病については以下の記事も参考になさってください。
4.間違いない歯科医の選びかた
間違いない歯科医を選ぶポイントは、先程、ご紹介したように自費診療のメリットをしっかり説明してくれることが一つです。それ以外にも世の中に2〜3割しかないメンテナンスに取り組んでくれる歯科医にかかることが大事です。以下も参考になさってください。
4-1.ホームページは患者さんもスタッフも見ている
今の時代、患者さんへの丁寧な説明は必須です。そのためには、ホームページで歯科クリニックの理念・取り組みを情報発信することは患者さんへの最低限の義務です。
その上、ホームページは患者さんだけなくスタッフも見ています。ホームページもない歯科診療所には優秀な人材も集まりません。
4-2.歯科衛生士がいるか?
歯科衛生士がいないような歯科医に受診してはいけません。従来の、歯が痛くなったら治療するという昔のスタイル。このレベルの歯科医には、そもそも歯科衛生士さんは不要です。歯科医師のレベルも低いと言わざる得ません。
歯科の開業医は全国で7万件程度と言われています。平成28年末現在の就業歯科衛生士数は123,831人、そのうち90%にあたる10万人程度が診療所で働いています。つまり、7万件ある診療所1件当たりの歯科衛生士の数は1.5人程度なのです。しかし、これはあくまで平均値であり、現実は偏在しています。つまりメンテナンスを積極的に行っている歯科クリニックに歯科衛生士は集まっています。逆に、いまだに治療の助手程度にしか扱われていない歯科クリニックには、歯科衛生士は集まらないのです。
4-3.チェアの数が認知症を予防する
できれば歯科診療所を選択する場合、診療チェア数は5台以上のクリニックが安全です。実は歯科クリニックの診療チェア数の平均は3台です。しかし3台ではどうしても治療が中心になってしまい、メンテナンスが十分に行えません。
こういった話をすると必ず「当院は小規模ですが丁寧な治療をしています」との反論が出ます。しかし我々には外から診療レベルが分かりません。あくまで確率論から言えば、チェアーが5台以上ある歯科診療所に受診した方が、安全と言えるのです。
4-4.できれば医療法人
メンテナンスを積極的に行うには、それなりの設備・人の雇用が必要になります。そのためには、歯科クリニックの経営的基盤が不可欠です。一般的には、多くの患者さんに支持されて年商が一億円を超えると個人立から医療法人になることが多いようです。2016年10月1日現在の資料では歯科クリニック68,940件のうち、医療法人は13,393件と約19.4%です。
不思議ですが、自分が医科歯科連携を始めて、積極的なメンテナンスをしてくれる歯科医院が2〜3割である、と感じた数字に近いのです。
4-5.マスクをとって説明をするか?
接遇を教える先生や歯科大学では、「患者さんに説明する時にはマスクを取って説明する」ように指導されるようです。しかし、実際の歯科医さんでは、なかなか実践されていないようです。しかし、私がお付き合いしている優秀な歯科医の先生は、必ずマスクを取って説明されます。一度気にしてみてください。
5.まとめ
- 最近の週刊誌の見出しに惑わされてはいけません。
- 歯科医は身内に保険診療はしません。保険外診療にはそれだけもメリットがあるのです。
- さらに、歯科治療は治療から予防になっています。信頼できる歯科医に定期受診しましょう。