週刊誌の見出しに惑わされないで!抗認知症薬の副作用を専門医が解説

週刊誌の見出しに惑わされないで!抗認知症薬の副作用を専門医が解説

最近週刊誌では、「薬で認知症は治らない 」「効果は物忘れ、注意力の一時的改善」「妄想、食欲低下の副作用」などの特集が組まれています。内容を読めば、それなりに専門医の意見も書かれています。しかし、多くの方は「見出し」だけをみてやはり「認知症の薬は副作用が怖い」「認知症で医療機関に受診しても無駄」と間違った判断をされてしまうのではないでしょうか。

確かに毎日認知症患者さんを診察していると、薬の副作用も経験します。しかし、副作用が出るということは、それだけ効果があるとも言えます。したがって、認知症治療薬を使用する場合は、効果と副作用を常に頭に入れながら治療する必要があります。今回の記事では、月に1,000人の認知症患者さんを診察する長谷川嘉哉が、認知症治療薬の副作用の対処方法を中心にご紹介します。

1.厚労省も副作用対策に乗り出した!投薬の現状とは

実は週刊誌に言われるまでもなく、平成31年4月、厚生労働省が以下の方針を決めました。

厚生労働省は認知症の治療薬で幻覚などの副作用が出た場合、処方の中止や薬の変更を検討するよう医師らに求める方針を決めた。高齢者は複数の薬を同時に服用することが多く、適切な服用で副作用が重くなることを防ぐ。高齢者への医薬品の適正処方を促すために2018年春に定めた指針にこうした項目を追加し、今夏ごろまでに都道府県に通知する予定だ。(日本経済新聞 2019/4/3の記事より)

私は、「認知症の治療に精通している専門医の数は全国でも1,000名もいないのでは?」と感じています。薬の特性も知らず、副作用も理解せず、漫然と認知症治療薬を使用しているケースも多々あるのです。

当院の認知症専門外来では、すでに患者さんがお使いの薬の整理をしただけで症状が落ち着いたケースをたくさん経験しています。

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必ずしも摂らなくてもいいお薬を飲んでいることがあります

2.主な副作用について。多少あっても早期なら使いたい理由とは

認知症は早期受診が大事です。なぜなら残存する神経細胞が多ければ多いほど、認知症治療薬は効果があるからです。具体的には、MMSE(=Mini Mental State Examination)検査で、20点以上ある患者さんは認知症治療薬が効果があります。確かに認知症治療薬には副作用がありますが、早期であれば多少の副作用があっても治療する意味があるのです。代表的な副作用についてここで解説します。

2-1.胃腸障害

現在、認知症治療薬は、アクセル系で(経口のアリセプト、レミニール、貼付するリバスタッチパッチ)、ブレーキ系ではメマリーが保険で認められています。その中で、アクセル系の経口薬のアリセプト、レミニールには副作用として、悪心、嘔吐といった胃腸障害があります。ただし、これらの副作用は、服用直後から相当強く出るため、そもそも継続自体が不可能です。殆ど、食事もとれないレベルになります。こういう副作用が出現する方にはこれらのお薬は使用できません。

逆に、1〜2か月服用してからの胃腸障害であれば、胃薬を加えながらでも服用を続けてもらいます。なお、同じアクセル系の薬でも貼付剤のリバスタッチパッチは皮膚から吸収されるため胃腸障害はほとんど見られません。

2-2.掻痒感

胃腸障害は見られないリバスタッチパッチですが、掻痒感、発赤が約3割で見られます。これは副作用の出現割合としては多いのですが、リバスタッチパッチは4剤の中で唯一、やる気を司る扁桃核を刺激するため、患者さんのタイプによっては使用したい薬です。

軽い掻痒感であれば、貼る前にローションタイプのステロイドを塗り、剥がしてからは軟膏タイプのステロイドを塗ることで継続が可能なこともあります。それでも掻痒感、発赤が残る場合は、使用は断念します。

なお、平成31年9月には、皮膚症状を軽減させる改良型のリバスタッチパッチが発売される予定です。

2-3.めまい

唯一のブレーキ系のメマリー。攻撃性を抑えるには効果を発揮しますが、副作用としてめまいを呈することがあります。服薬直後に、めまいを訴える患者さんがいますが、1週間程度でおさまります。また、この薬は5㎎から始まって、10㎎、15㎎、20㎎と漸増します。増量途中で、めまい症状が強く出る場合は、めまいのでない量を維持量とします。

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副作用は我慢せずに医師に報告してください

3.副作用?攻撃性のある人にアクセル系

認知症のレベルが同じでも、攻撃的な症状が出る患者さんがいらっしゃいます。例えば、「イライラする」、「性格変化で穏やかだった人が怒りっぽくなった」、「性格の先鋭化で気が強かった人がより気が強くなった」などです。その時に、何も考えずにアクセル系の認知症治療薬を使用すると、火に油を注ぐようなものでさらに悪化します。この場合は、ブレーキ系の薬を使います。具体的には、保険薬のメマリーや漢方の抑肝散、抗精神病薬を少量使います。なお、以下の記事も参考になさってください。


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4.副作用?元気のない人にブレーキ系

認知症のレベルが同じでも、元気がなく活動性が低下する患者さんがいらっしゃいます。その時に、何も考えずにブレーキ系の認知症治療薬を使用すると、さらに元気がなくなってしまいます。

また妄想といった症状には、ブレーキ系のメマリーを使用します。その後、加齢に伴い症状が軽くなれば、メマリー等が相対的に過剰になります。その時には、減量・中止する必要があります。

5.アクセルとブレーキのバランスが大事

アルツハイマー薬の治療は、それぞれの薬の特性を理解して、処方する必要があります。いったん薬が決まれば、半年から一年は同じ薬で対応もできます。そうするとご家族によっては、近所の専門外の医師への転院を希望されることがあります。

しかし、できれば専門医の継続受診をお勧めします。なぜならアルツハイマー薬は定期的な微調整が必要だからです。アクセル系とブレーキ系の薬を、症状に合わせて増減する必要があるのです。少しブレーキが利きすぎているか? と思えば、アクセル系を増やしたりブレーキ系を減らします。同様に、アクセル系が効きすぎている? と思えば、アクセル系を減らしたりブレーキ系を増やします。

専門外の先生は、処方された薬を継続することはできますが、調整することはできないのです。

6.そもそも幻覚は認知症治療薬の副作用?

厚生省の指針の中で、「幻覚が出たら認知症治療薬を減量」については疑問が残ります。

6-1.幻覚は認知症の症状

そもそも幻覚は、認知症の症状です。発症当初は、物忘れを中心とした中核症状が主体です。しかし、症状が進行しMMSEが15点を切るころになると周辺症状もしくはBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)として、幻覚、妄想、介護抵抗、性格変化などが生じます。

6-2.認知症治療薬の副作用

私自身、毎月1,000名を超える認知症患者さんに認知症治療薬を使用していますが、副作用としての幻覚は殆ど経験していません。つまり、幻覚は認知症治療薬の副作用というより、症状なのです。

6-3.幻覚は治療は不要

認知症の症状の中での幻覚は、周囲の方からは驚きです。しかし、そもそも治療する必要もありません。周囲の方も受容してあげれば、特に問題になりません。ただし、妄想を強く否定すると、時に攻撃性が出現してしまうことありますので注意が必要です。

7.MMSEが15点を切ってくるとアクセル系は悪さをする

認知症の初期では、アクセル系の認知症薬は効果があります。しかし、症状が徐々に進行してMMSEが15点を切ってくると、攻撃性、落ち着きのなさ、帰宅願望などの症状が副作用として出てきます。

特に、アリセプトで10㎎、レミニールで12㎎などの最高容量を使用している場合は、約3割に副作用が出ます。この場合は、薬を減量するか、中止。もしくはブレーキ系のメマリーを追加することで症状をコントロールすることが可能です。

8.まとめ

  • 週刊誌の見出しに惑わされて、認知症治療薬を毛嫌いしてはいけません。
  • 初期であれば、認知症治療薬は効果がありますので、少々の副作用は目をつぶってでも使用したいことがあります。
  • 認知症治療薬の効果と副作用を熟知した専門医を受診することが重要です。

 

 

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