ケトン体という言葉をご存知でしょうか? 健康診断などの尿検査の項目には必ず組み込まれているので、言葉としては目にしたことがあるのではないでしょうか? そんな「ケトン体」ですが、「ケトアシドーシス」と言って生命的に危険な状態にも使われたり、一方で「ケトジェニックダイエット」といった健康法で用いられることもあります。したがって、「ケトン体って、身体に良いの?悪いの?」といった疑問を持たれている方が多いのではないでしょうか?今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、良いケトン体と悪いケトン体についてご紹介します。
目次
1.ケトン体とは?
ケトン体は、脂肪の分解によって生成されるアセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸の総称で、エネルギー源として利用されています。健常な人の血液中にもケトン体は存在しますが、その量は多くありません。絶食、運動、大手術・外傷などで体がエネルギー源として糖質よりも脂質を利用しているとケトン体が増えてきます。また、糖尿病患者さんで、ケトン体が高い場合は、インスリンの欠乏で、血液中のブドウ糖が利用できていないことを意味します。
2.ケトンが高い状態には二つの状態がある
ケトン体が増えた状態を示す言葉には、以下の2種類があります。似た言葉ですが、重症度には大きな差があります。
2-1.ケトーシスとは?
ケトーシスとは、血液中のケトン体が200μmol/L以上の正常範囲を超えた状態を言います。激しい運動、糖質制限、絶食などでもケトーシスになることがありますが、生理的な現象であるために、健康上の問題になることは殆どありません。
2-2.ケトアシドーシスとは?
ケトアシドーシスとは、ケトーシスがかなり進んだ状態になり、総ケトン体量が7000μmol/Lとなって体内が酸性となった状態です。この状態では、脱水症状や意識障害により、ときに死に至る危険な状態です。この状態では、糖質制限によりケトン体が増えているのか、糖質を摂っているのにインスリンが働かずにケトアシドーシスになっているかを見極める必要があります。
3.ケトーシスを使った、ケトジェニックダイエットとは?
ケトン体を利用したダイエットがあります。ケトジェニックダイエットといって、糖質の摂取量を50g以下、もしくはエネルギー摂取量の10%以下に抑え、タンパク質摂取量を確保した状態で、残りのエネルギーを脂質から摂取しようとするものです。
つまり糖質を制限した分を、脂質から分解されたケトン体で利用する方法です。ケトジェニックは、食事制限などで筋肉や基礎代謝を落とす無理なダイエットとは異なります。しっかり食べて、活動エネルギーを確保したうえで、不要な体脂肪を落とすことが期待できます。
私自身、血糖値スパイクを持つものとして、「血糖値はカロリーでなく、糖質量であがる」ことを痛感しています。少しでも血糖値に不安がある方は、ケトジェニックダイエットはお薦めです。
4.糖尿病ケトアシドーシス
糖尿病ケトアシドーシスは、糖尿病の合併症である「糖尿病昏睡」の一つです。インスリンが絶対的に欠乏している1型糖尿病で、無治療・治療中断などで血糖コントロールが不良になることでおこります。
一方、2型糖尿病でも無治療・感染症・外傷などで血糖コントロールが悪化した場合に起こりうる糖尿合併症です。ただし、このケトアシドーシスという状態は、糖尿病の特殊な状況で起こることです。一般の方は特に気にすることはありません。
*1型糖尿病:原因不明で膵臓のβ細胞(インスリンを出す細胞)が壊されてしまい、膵臓からインスリンがほとんど出なくなるため、血糖値が高くなります。
*2型糖尿病:遺伝的な影響に加えて、食べ過ぎ、運動不足、肥満などの環境的な影響により、インスリンが出にくくなったり、インスリンが効きにくくなった状態。
5.まとめ
- ケトン体が増えた状態を示す言葉には、2種類の言葉があります。
- 軽度の上昇であるケトアシドーシスを有効に使えば、ダイエットにつながります。
- 糖尿病の合併症であるケトアシドーシスは、早期に治療をしないと生命の危険性さえあります。