このほど、歯周病が大腸がんの発症にまで関与する可能性が示唆されました。口腔内と大腸はつながっていて、消化管の入り口と出口と言えます。考えてみれば入り口の環境が、出口に影響を与えることは当たり前とも言えます。
今回の記事では、認定内科専門医であり、クリニックに歯科用のチェアを常備している長谷川嘉哉が、研究結果をもとに歯周病と大腸がんの関係についてご紹介します。
目次
1.「大腸がんと口腔内細菌関連」の研究発表の要旨
2018年6月28日、横浜市立大学は、大腸がん患者さんの患部組織と唾液からFusobacterium nucleatum (フソバクテリウム・ヌクレアタム:F.n.)を分離・解析した結果、4割以上の患者さんでがん組織と唾液に共通した菌株が存在していることを発見しました。
フソバクテリウム・ヌクレアタムは多くの人が、口腔内に持っている常在菌の一種で、歯周病を悪化させることが知られています。研究チームは、フソバクテリウム・ヌクレアタムが口腔内から大腸がんの原因になっているとの仮説を立て、患者さんの大腸がん組織と唾液からフソバクテリウム・ヌクレアタムを分離して解析した結果、4割以上の症例で共通した菌株であることを発見したのです。(出典:YCU)
2.大腸がんの現状
高齢化と食生活の欧米化により大腸がんは増えています。2014年の統計では、罹患数は約13万人と第1位です。男女別では、男性で第3位(1位は胃がん、2位は肺がん)、女性は第2位(1位乳房、3位胃がん)となっているほどメジャーながんなのです。
罹患数に対して死亡数ですが、2017年の統計では、肺がんについて第2位です。男女別では、男性は第3位(1位肺がん、2位胃がん)、女性は第1位(2位肺がん、3位膵臓がん)になっています。
今回の研究成果は、今後の大腸がんの新たな治療法、予防法、リスク評価などに繋がる可能性があります。つまり、口腔環境の健全化でガンを抑制できる可能性さえあるのです。
3.歯周病は食道がんにも関連する
歯周病は、同じ消化管の中で食道がんとの関連も報告されています。米国がん学会(AACR)の学術誌 Cancer Researchに掲載された、Jiyoung Ahn博士の研究によると、口腔内に存在する細菌を分析した結果、歯周病を発症させる何種類かの細菌が食道がんの高リスクと関連することがわかりました。研究内容を紹介します。
Ahn博士と共同研究者たちは、口腔内細菌叢が食道腺がん(EAC)または食道扁平上皮がん(ESCC)の続発リスクと関連するかどうかを判断するために、2つの大規模な健康調査で、122,000人の参加者から経口洗浄サンプルを採取。10年間の追跡調査中、106人の参加者が食道がんを発症した。 前向き症例対照研究では、研究者たちは口腔洗浄サンプルのDNAを抽出し、配列を調べることにより、食道がん症例とがんのない症例の口腔内細菌叢をそれぞれ比較。結果では、特定の細菌種は食道がんの高リスクと関連性が認められた。 高レベルのタンネレラ・フォーシスティア菌は、食道腺がんのリスクを21%高め、ポルフィロモナスジンジバリス菌は、高リスクの食道扁平上皮がんと関連していた。Ahn博士は、両方の細菌種が一般の歯周病に関係していると指摘した。(出典:https://www.cancerit.jp/58440.html)
4.歯周病が関連するその他の疾患
歯周病は、本当に多くの疾患に関わっているようです。
4-1.多くのがんに関与
イギリスの医学誌『ランセット』では、ご紹介した大腸がんや食道がん以外にも、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、膵臓がん、胃がん、血液のがんに対して危険因子になり得るという論文が発表されました。
4-2.がん以外の疾患にも関与
歯周病は、がん以外にも認知症、脳血管障害、虚血性心疾患、糖尿病の発症にまで関わっていることが明らかになっています。
4-3.歯周病=死?
動物や昔の人間は、歯が抜けることイコール「ひとつの死」であると考えていました。歯周病菌の出す毒素によって歯を支える歯槽骨が溶け、最終的には歯が抜け落ちてしまうと考えると、歯周病は、人間の寿命を短くするすべての疾患の原因となり得るのかもしれません。
5.歯周病を予防するには
歯周病を予防するには以下の方法が重要です
5-1.歯磨き
確かに食事の後は、口腔内細菌の活動性が高まるので歯磨きするのが理想的です。しかし、不充分な歯磨きを一日三回毎食後にするよりは、就寝前の一回だけでもしっかり時間をかけて丁寧に行き届いた歯磨きをした方が効果的です。
歯科医師・歯科衛生士に指導してもらい、自分の磨き方を修得しましょう。歯ブラシだけでは汚れが取りにくい部位があります。そんな場所には、歯間ブラシ、部分みがき専用歯ブラシ、デンタルフロス(糸ようじ)といった補助清掃器具を使います。
5-2.定期的な歯科受診が最もおすすめ
歯周病対策にはいろいろな方法があります。しかし、残念ながら歯科受診に勝る対策はありません。自分の歯のケアが適切であるのか、歯科医による正確で客観的なチェックが必要なのです。その上で、定期的な口腔ケアを実施してもらうのです。歯周病予防のためには、髪を切りに行くと同じ頻度、1~3ヶ月に一度は受診したいものです。
6.まとめ
- 歯周病が、大腸がんの発症にも関わっている可能性が示唆されました。
- 歯周病は、大腸がん以外のがん、認知症、脳血管障害、虚血性心疾患、糖尿病など人間の寿命を縮める多くの疾患に関与しているようです。
- そんな歯周病を予防するもっとも有効な方法は、定期的な歯科受診です。