外来をやっていると、アルコールについてのアドバイスをすることがあります。「飲みすぎに注意してください」、「週に1日は休肝日を作ってください」などのアドバイスをします。しかし、その中に全く医師のアドバイスに聞く耳を持たず、一日も休むことなく多量の飲酒をされる方が一定数いらっしゃいます。そのような方は、かなりの頻度で病気になり、お酒を飲むことができない状態になったり、最悪は亡くなってしまいます。ある意味、健康寿命は65歳程度になってしまいます。今回の記事では、改めて大量飲酒がなぜ体に良くないかをご紹介します。
目次
1.適切なアルコール量とは?
厚生労働省の指針では、以下の量が適切な量とされています。
1-1.節度ある適切な飲酒量
1日の平均純アルコールが約20gとされています。なお、女性は男性に比べてアルコールの分解速度が遅いため、同じ量を飲酒しても臓器障害を起こしやすいため女性は、男性の1/2から2/3が適当と考えられています。
1-2.純アルコール20gに相当する酒量
- ビール(5%)500㎖
- 日本酒1合
- ウイスキー ダブル1杯60㎖
- 焼酎 100㎖
- ワイン 200㎖ 2杯弱
1-3.生活習慣病のリスクを高める飲酒量
厚生労働省は、「生活習慣病のリスクが高まる飲酒量」を、1日当たりの純アルコール摂取量が男性で40g以上、女性で20g以上と定義しています。お酒が苦手な自分としてはアルコール20gでも十分な気がするのですが・・
2.アルコールが活性酸素を発生させる、とは
病気の90%は、活性酸素が原因とされています。多量のアルコール摂取は活性酸素を発生させやすくします。摂取したアルコールは、胃腸で吸収されると肝臓へ運ばれます。肝臓では、水と二酸化炭素に分解されて無毒化されますが、その代謝の過程で多量の活性酸素が発生し、身体を酸化(サビ)させ、老化と体調不良を引き起こします。
結果、動脈硬化性変化を進行させ脳血管障害・虚血性心疾患を引き起こします。またがん全体の発生率も、1.4~1.6倍まで高まります。つまり、日本人の死因原因上位3つすべてに影響を及ぼすのです。
3.アルコールは交感神経を過剰興奮させる、とは
アルコールは興奮剤ともいえます。交感神経を刺激し、副交感神経を低下させます。大量飲酒するとアルコールが長時間残り、交感神経が刺激され血管の収縮が継続し動脈硬化性変化が進行します。さらに交感神経の興奮が継続することで、良質な睡眠が確保できなくなります。結果、生活習慣病だけでなく、認知症、うつのリスク因子となり、免疫力も低下させてしまいます。
4.多量飲酒は、たちの悪い認知症を引き起こす
アルコールの多量飲酒は、あらゆる種類の認知症のリスクを、男性で3.4倍に、女性で3.3倍に上昇させます。また、全体の5.2%が65歳以前に発症する早期認知症と診断されています。
患者さんが過去にアルコールを大量摂取していたか否かは、我々、認知症専門医が頭部CTを見れば一瞬でわかります。お酒の影響を受けていない方と比べて、脳萎縮の程度が明らかに進んでいるからです。適量を超えた過剰なアルコールは脳萎縮を引き起こし、認知症を発症するのです。アルコール多飲による認知症は、通常の認知症に比べ手がかかります。そのため介護者の負担は重いものになります。詳しくは以下の記事も参考になさってください。
5.そもそもアドバイスを聞かない
アルコールの多量飲酒の害について紹介してきました。普通であれば、禁酒、もしくは飲酒量を減らすものです。しかし多量飲酒の方は、我々医師のアドバイスを聞きません。何となく話をそらしたり、よくわからない理由をつけて多量飲酒を継続します。あまりしつこくアドバイスすると逆に怒り出すほどです。その時点で前頭葉機能が低下して、「論理的思考」、「理性のコントロール」ができなくなっているのかもしれません。そのため、医師だけでなく家族も諦めていて、多量飲酒が放置されているのです。
6.まとめ
- アルコールの多量飲酒は、活性酸素を増やし、交感神経を過剰興奮させ、認知症のリスクを高めます。
- 結果として、多量飲酒をする患者さんの健康寿命は65歳程度になります。
- それだけのリスクを説明しても、周囲のアドバイスを聞くこともないため、医師や家族からも見捨てられていることが多くなります。