認知症になった「認知症の権威」長谷川和夫先生の生き方に学ぶ

認知症になった「認知症の権威」長谷川和夫先生の生き方に学ぶ

医師、看護、介護職で認知症に携わる人で、長谷川和夫先生を知らない人はまずいません。長谷川和夫先生は、医師として認知症医療に取り組むだけでなく、ケア専門職の育成にも力を注がれました。そして2017年10月、ご自身が認知症であることを発表されました。長谷川和夫先生は、「自分が認知症の患者になって実感できたことが多くあり、ようやく私も“本物”の認知症研究者になれたと思っています」と言われています。今回の記事では、認知症専門医の長谷川嘉哉が、自らも認知症になった長谷川和夫先生から学ぶべきお話をご紹介します。

1.長谷川和夫先生とは

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認知症介護研究・研修東京センター 名誉センター長を務める長谷川和夫氏 (c)共同通信社

長谷川和夫先生は、精神科医で認知症医療の第一人者です。医療だけでなく、認知症ケアにも拘わられていました。現在90歳ですが、88歳の時に自ら認知症ではないかと思われたそうです。そこで、認知症専門病院で検査を行ったそうです。

その際に認知症の診断では、側頭葉機能を検査するために、質問形式の「長谷川式認知症スケール」を使用します。実はその「長谷川式認知症スケール」を作ったのが、長谷川和夫先生なのです。

2.長谷川式認知症スケールを開発

「長谷川式認知症スケール」には以下の特徴があります。

2-1.専門医でなくても簡単に行える

「長谷川式認知症スケール」は、簡単なテストですので、検査者が熟練していなくても同じ点数が出るため、客観性が高い点が優れています。そのため認知症専門でない医療機関でも容易にも扱えることができます。

2-2.認知症専門病院では、MMSEを使用

ただし、当院を含めた認知症専門機関では、海外の論文との比較のために、日本で開発された長谷川式認知症スケールではなく、MMSE(Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)を使うことが多くなります。

2-3.検査者が認知症になると?

長谷川和夫先生は、認知症の診断の際に「長谷川式認知症スケール」は使えませんでした。何しろ自分自身が作ったので、質問内容を全部覚えているのですから・・。

実は、同様に当院のスタッフも心配をしています。月に100例以上のMMSE検査を行うスタッフは、質問内容を覚えています。それも若い時代に覚えていますから、長期記憶として脳に深く刻み付けられます。いずれ年を取って、最近のことが覚えられなくなっても、長期記憶は残ります。そんな時に、MMSEの検査を受けても、「これだけ物忘れが激しいのに、MMSEは満点?」などということになるかもしれないというのです。

「長谷川式認知症スケール」の画像検索結果

3.長谷川先生の嗜銀顆粒性(しぎんかりゅうせい)認知症とは?

Concept Of Memory Loss
認知症の原因疾患には様々な種類があります

認知症とは、病気の総称です。実は認知症の中にも100種類以上の原因疾患があるのです。その中で、最も多いものがアルツハイマー型認知症、2番目が血管性認知症となります。

長谷川和夫先生は自らの診断名を、「嗜銀顆粒性認知症」と公表しています。実は、これは病理学的な診断名で、脳内に独特な嗜銀性顆粒を認めることを特徴とします。そのため、確定診断は死後に顕微鏡による病理診断となります。頻度的には、認知症の中ではかなり稀なものとなります。


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「嗜銀顆粒性認知症」は記憶力障害より、易怒性、妄想、不機嫌などの症状が目立ちます。周囲の方の対応は難しいのですが、日常生活も自立していることが多い特徴があります。そのため、長谷川和夫先生も介護サービスを利用することで、在宅生活が維持されているようです。

4.長谷川先生が出版した絵本

長谷川和夫先生は、自身の体験から絵本「だいじょうぶだよ―ぼくのおばあちゃん」を作られました。昔、長谷川先生の奥さんのお父様がアルツハイマー型認知症になり、家族のことも分からなくなりとても不安そうになったそうです。その時に、お孫さんが「おじいちゃん、私たちのことを分からなくなったみたいだけど、私たちはお爺ちゃんのことをよくしっているから大丈夫。心配いらないよ」。それを聞いた、お父様はとても安心されたようでした。

これって、とっても素敵なお話だと思いませんか?

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5.現在の長谷川和夫先生

現在、長谷川和夫先生は診療は引退され、絵や音楽を楽しまれているようです。患者さんとして、絵画や音楽はとても心が落ち着くそうです。また、散歩をして、喫茶店でのコーヒーも楽しまれているようです。

さらに、デイサービスも利用して、入浴も「王侯貴族の気持ち」と言って楽しまれているようです。一般的に、元医師の方はプライドが高いことが多く、介護サービスの利用を嫌がることが多いものです。さすが長谷川和夫先生です。

6.もし専門家がその疾患になったらどうしますか

昔から、医師の間では「医師は自らの専門の病気にかかる!」という都市伝説があります。ならば認知症専門医の自分も認知症になる可能性は十分にあるのです。もしそうなったら長谷川和夫先生をお手本にしたいと思います。

変なプライドは捨てて、介護サービスを喜んで利用します。もちろん、介護スタッフへの感謝の気持ちを忘れないようにします。そして、それでも在宅介護で家族に負担をかけるなら、自ら入所を選びます。もちろん、そのためのお金も残しておかなくてはいけません。

そして、最後食事がとれなくなったら、絶対に胃ろうを導入しないことを、家族に強く強く強く伝えることで、自然に亡くなることを実現したいと思います。

7.まとめ

  • 認知症専門医である長谷川和夫先生が認知症になったことを公表されました。
  • 認知症介護にも造詣が深かった長谷川先生は、認知症になっても絵画や音楽を楽しみ、介護サービスも利用されています。
  • そんな長谷川和夫先生が作られた絵本「だいじょうぶだよ―ぼくのおばあちゃん」はお勧めです。

8.参考記事

長谷川和夫/認知症になった認知症の権威はいま〈認知症は死への恐怖を緩和してくれるのではないか〉――文藝春秋特選記事【全文公開】

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190719-10000831-bunshuns-life

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