認知症の新薬「アデュカヌマブ」はなぜ認可されなかったのか?

認知症の新薬「アデュカヌマブ」はなぜ認可されなかったのか?

厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の専門家部会は2021年12月22日、アルツハイマー認知症の新薬「アデュカヌマブ」について、「現時点のデータでは、有効性を明確に判断することは困難」として承認を見送りました。以前から「アデュカヌマブ」の承認には疑問を持ってた自分としては、少し自信が持てました。今回の記事では、「アデュカヌマブ」が承認されなかった理由について解説します。

目次

1.そもそも認知症の薬ではない?

マスコミは認知症の新薬と大騒ぎしていましたが実態は以下です。

1-1.適応は早期認知症

さかのぼればエーザイ株式会社は2019年3月21日の時点で、十分な治療効果を証明できない可能性が強まった「アデュカヌマブ」について、臨床試験(治験)を中止すると発表しました。しかし、その後無理矢理対象を調整し、高用量投与群を増やすことで、当初の解析とは異なる結果を出したのです。結果、アデュカヌマブはで効果が認められたのは、認知症前段階のMCI(軽度認知障害)を対象として、安全上許される高容量を投与した場合だけです。

1-2.ヨーロッパでは否定

アルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」。アメリカでは6月に販売が承認されましたが、EU(ヨーロッパ連合)では今月「十分な効果と安全性が確認されなかった」として、承認されませんでした。

1-3.アメリカの承認も疑問

アメリカでの承認に疑問をもっていたのは自分だけではないようで、2021年6月9日米FDAの諮問委員会のうち、承認に否定的見解を示していた委員2人が抗議のため辞任されました。何しろ、2020年11月の会合では、外部有識者11名で構成する諮問委はアデュカヌマブの有効性を示す根拠が不足しているとして、全会一致承認に反対する意見を可決していたのです。

2.アルツハイマー型認知症の原因はすべてアミロイドβではない

エーザイは、承認が下りなかった薬「アデュカヌマブ」、および「開発品コード:BAN2401のレカネマブ」のいずれも原因物質とされる脳内のたんぱく質「アミロイドβ」を標的としています。これらはアルツハイマー型認知症の原因が「アミロイドβ」であるという前提に立っています。ならば、もし認知症の原因がアミロイドβでなければ効果があるわけがないのです。

実際に今回の部会でも「アミロイドβ低下と症状の進行抑制との関連が不明確」という指摘がされています。エーザイの社長のコメントなどでは、もう一つの「レカネマブ」に期待を寄せているようですが、作用機序が同じであれば期待はできないと思われます。

3.認知症の一部は、アミロイドβが関与

ならばアミロイドβを標的とした薬はすべて効果がないのでしょうか?これだけ世界の研究者がアミロイドβを研究しているのですから何らかの関与はしていると思われます。日々の臨床をしているものからすると、「アミロイドβはアルツハイマー認知症の一部の原因物質である」が真実だと思います。

したがってアルツハイマー型認知症全体で治験を行うと効果が薄れますが、アミロイドβが原因の認知症に限定すれば効果が発揮できると予想されます。

4.アデュカヌマブの理想的な使用方法

アデュカヌマブの効果を十分発揮するためには、まずアルツハイマー型認知症の中でアミロイドβが原因のものをピックアップする必要があります。具体的には以下の方法です。


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4-1.PET検査

PET検査とは(positron emission tomography:陽電子放出断層撮影)の略で、放射能を含む薬剤を用いる核医学検査の一つです。PET検査によりβアミロイドの脳への蓄積を画像化することができます。この検査は他の検査と比較して精度が高く、発症前にβアミロイドの蓄積とらえることが可能です。ただし検査施設が限られること、費用も現在は保険外のため20万円以上かかります。

4-2.APOE遺伝子検査

PETでは、施設も限られますし高価です。そんな代わりになると予想されるのがAPOE遺伝子検査です。これは採血で結果が分かりますし費用も2万円前後です。

APOE遺伝子は認知症の発症にかなり関与しています。アポEという遺伝子型には2型、3型、4型の三種類があり、父親から一種類、母親から一種類を受け継ぎます。つまり、子どもが持つアポEの遺伝子パターンは、「2・2」「3・2」「3・3」「4・2」「4・3」「4・4」の6種類のうちいずれかになります。このうち、4を一つ持つ人は実年齢より11歳年上相当に、二つ持つ人は23歳年上相当である、ということが分かっています。

実際に、認知症専門外来においては、アポE遺伝子の4型を持っている方が多くみられます。4型を一つ持っている患者さんは、一般社会での頻度は15%程度ですが、認知症専門外来では30%と通常の2倍になります。4型を二つ持っている患者さんは、一般社会での頻度は1%程度ですが、認知症専門外来では10%いらっしゃいます。つまり通常の10倍になるのです。つまり、認知症初診の患者さんのうち4割程度は、4型を持っているのです。この方々は、通常よりアミロイドβの蓄積が予想されます。

5.まとめ

  • エーザイの認知症薬は、アルツハイマー型認知症をすべて改善することはできません。
  • アルツハイマー型認知症の中でアミロイドβが発症に関わっている症例に限定すれば効果は期待できます。
  • 効果があると予想される症例のピックアップには、PET検査、もしくはAPOEの遺伝子検査が有効です。

 

 

 

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