近年、オンライン診療は急速に普及しました。特にコロナ禍を契機として、「通院せずに診療を受けられる」という利便性は、多くの患者にとって魅力的な選択肢となっています。しかしその一方で、現場の医師として強い違和感を覚える場面が増えているのも事実です。
「すぐ処方」「自宅で完結」といった広告。初診からの安易な処方。理学所見も検査も伴わない診療。これらは本当に“医療”と言えるのでしょうか。オンライン診療の問題点と本来あるべき姿について、現場の視点から整理していきます。
目次
第1章 オンライン診療における“診療水準”は担保されているのか
本来、医療とは「診察・検査・評価」を経て診断と治療に至るプロセスです。しかしオンライン診療では、この根幹部分が大きく制限されます。
・聴診・視診・触診ができない
・バイタルの正確な把握が難しい
・採血や画像検査が行えない
つまり、「診断の根拠」が圧倒的に不足した状態で医療行為が行われているのです。厚労省はオンライン診療に一定のルールを設けていますが、現実にはそれが形骸化しているケースも散見されます。特に問題なのは、「診療の質を担保する仕組み」が極めて曖昧な点です。診療とは本来、情報を“取りにいく行為”です。
それが制限された状態で、どこまで責任ある医療が提供できるのか――この問いから目を背けてはいけません。
第2章 “無診察診療”との境界はどこにあるのか
かつて厚労省は、「無診察診療」は明確に禁止し、違反すれば保険医取り消しの対象とする強い姿勢を示していました。では現在のオンライン診療はどうでしょうか。
・問診のみで抗菌薬処方
・視診も不十分なままの診断
・検査なしでの長期処方
これらは、実質的に“無診察診療”と何が違うのでしょうか。形式的には「診察した」ことになっていても、実態として診療の質が伴っていなければ、それは本質的に無診察と変わりません。「オンラインだから仕方ない」
この一言で済ませてよい問題ではありません。
第3章 医師は“見るだけで処方している”という誤解
ここは強く訴えたい点です。世間には、「医師は患者を少し見て薬を出しているだけ」という誤解が根強く存在します。
そしてオンライン診療は、この誤解をさらに助長しています。しかし実際の診療は全く異なります。
・定期的な検査
・患者の表情や動き
・皮膚の色調や発汗
・バイタル所見
これらの情報を総合的に評価して、初めて診断に近づくことができます。実際、最終的に「ただの風邪」という診断に至るまでには、経過や訴え、身体所見、検査データを頭の中で統合しながら判断していく必要があります。
医療とは単に「見る」ことではありません。「観察し、仮説を立て、検証し、修正する」という高度な思考プロセスの積み重ねです。この過程を省略して処方を行うことは、本来の医療とは大きくかけ離れています。
本来、十分な情報がない状態で処方を行うことには大きなリスクが伴います。責任ある医療とは、それほど重い判断の上に成り立つものなのです。
第4章 オンライン診療の適応と限界
オンライン診療を全否定するつもりはありません。むしろ適切に使えば非常に有用です。
例えば、
・診断が確定している慢性疾患(高血圧、脂質異常症など)・・すべてオンライン診療でなく数回に一度は受診して検査は必要です。
・花粉症の継続処方
・精神科領域のフォロー
このようなケースでは、患者の負担軽減という点で大きなメリットがあります。
しかし一方で、
・発熱などの急性疾患(特に小児)
・初診で診断が不明なケース
・身体所見が重要な疾患(耳鼻科、呼吸器など)
これらは明らかにオンライン診療に不向きです。「どこまでが可能で、どこからが危険か」
この線引きを曖昧にしたまま普及させたことが、現在の混乱の本質です。
第5章 制度設計の問題と今後の課題
現在のオンライン診療には、制度的な課題も多く存在します。
・初診からの安易な解禁
・診療地域の制限が曖昧
・処方日数の制限が不十分
・対面診療への移行基準が不明確
さらに問題なのは、実態の把握が不十分な点です。
不適切な診療事例の収集
合併症や見逃しの検証
患者アウトカムの評価
これらが体系的に行われているとは言えません。
本来であれば、
・初診は原則対面
・オンラインは短期処方に限定
・定期的な対面診察の義務化
・小児や急性疾患の制限
といった、より厳格なルールが必要でしょう。利便性だけを優先した医療は、必ずどこかで歪みを生みます。
まとめ
オンライン診療は、現代医療における重要なツールの一つです。しかしそれはあくまで「補助的手段」であり、決して対面診療の代替ではありません。
医療とは、
・患者を直接観察し
・必要な検査を行い
・得られた情報を統合して判断する
というプロセスの上に成り立っています。「医師は患者を少し見て薬を出しているだけ」この誤解が広がれば、医療の質そのものが崩れてしまいます。オンライン診療の本質は、「対面診療の必要性を見極めるための入口」であるべきです。
便利さの裏にあるリスクを直視し、医療としての質と責任をどう担保するか。今こそ、現場の視点に基づいた冷静な議論が必要です。
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